見出し画像

舞台芸術業界も大注目…!!「芸術文化観光専門職大学」に行ってきました!

ネビュラエンタープライズ・おちらしさんスタッフの福永です。
この度、機会をいただきまして、兵庫県豊岡市にあります2021年開校の県立大学、芸術文化観光専門職大学の見学をさせていただくことが出来ました。
「芸術文化」と「観光」を結び付けた国内初の大学としてとても話題になっていたので、個人的にも以前から一度訪れてみたいと思っていた大学でした。

これから進学を考えている若い世代だけなく、全国の舞台芸術関係者も注目をしている大学ということで、今回は特に「芸術文化」の、「演劇」に関わる側面を中心に、レポート記事を書いてみました。


恵まれた創作環境

2024年1月9日。この日は第4クォーター(冬学期)のスタートする日、試験期間ということで普段と比べると学生さんの姿はありませんでしたが、それでもあちこちで“稽古”に励んでいるサークル活動のグループを見かけました。
ご案内くださったのは、学長の平田オリザさん。前日まで開催されていた平田さんが講師の「豊岡俳優キャンプ」の参加者さんたちと一緒に、学内の様々な施設をご紹介いただきました。

エントランスから、まず2Fに上がるとすぐに広がっているのが「ラーニングコモンズ」。テーブルとイス、ホワイトボードが並ぶフリースペースで、学生さんが自主学習やグループ単位での打ち合わせや発表に使える場所です。同じフロアには、PCのたくさん並んだ部屋があり、何のための部屋かと尋ねると、チラシやポスターなどを作成するための、画像の加工などもできるスペックを備えたPCが自由に使える部屋だということでした。

実習棟と呼ばれる建物の中には、広々としたスタジオ、トレーニングルームはもちろん、大小二つの本格的な劇場もあります。大劇場では、学内のサークルの公演はもちろん、年に数回、プロの演出家による公演も行われるらしく、ごく身近なところに第一線のステージがある環境があります。

大道具や小道具、衣装を作成するための部屋もそれぞれ用意されていて、本格的な機材や工具も揃っていました。それらの使い方も授業で教わるので、ここの学生であれば誰でも自由にこの部屋を使えます。今後はプロの間でも必要になってくるであろう3Dプリンターの導入も検討しているとのことで、舞台スタッフ志望の人にとっても羨ましい場所になっています。授業で使用した材でも、余ったものは自由に使っていいそうなので、資金をかけられない学生サークルにとっては大助かりだと思われます。
このように、いわゆる「公演」を行うのに必要なものはすべて揃っており、やる気さえあれば、在学中にたくさん公演を打てる環境が整っています。実際に、2週間に1度くらいのペースでどこかしらのサークルが公演を行っているようで、学生たちは公演で忙しく、遊ぶ暇もないのだそうです。
サークルは35団体あり、ほとんどが演劇やダンス関連のサークル。高校演劇出身者で、しかも全国大会で入賞した演劇部の部長経験者も多いそうで、皆さん演劇に対して熱い気持ちを持っており、この恵まれた環境と機会をしっかりと活用しているようです。

学術情報館と名付けられた「図書館」では、豊富な資料がたくさん収められているのはもちろんですが、こちらにもピアノが常設されており、簡単なコンサートなどはいつでも上演できるようになっています。
図書館自体、22時まで開いていて、しかも一般にも開放されているので、実際、地元の高校生などが頻繁に立ち寄って、利用しているそうです。

道路を挟んだ校舎のすぐ隣には大きな学生寮が建っています。1年次は原則全寮制だそうで、授業開始時間ギリギリに、寮から学校へ駆け足で入っていく学生の姿は、毎朝の光景なのだとか。

800時間の「実習」

施設が充実しているのはもちろんなのですが、「専門職大学」の特徴で、「実習」もかなり充実しています。1、2年の間に800時間の実習が必須だそうで、芸術系、観光系ともに、実践的な体験ができるカリキュラムになっています。

実はこの実習を行う上で、豊岡はとても恵まれた土地なのです。それは、すぐ近くに城崎温泉という人気観光地があり、また豊岡演劇祭という舞台芸術の大きなイベントが毎年開催されるところです。大学の実習の名のもとに、学生たちは、観光旅館や但馬空港という本物の現場で職業体験をすることができます。また豊岡演劇祭や江原河畔劇場で行われる舞台公演に、しっかりと携わることで、プロの舞台の現場も体験できます。他の芸術系の大学でも、ここまでいろいろな機会が身近にあるのは珍しいことだと思います。この大学がこの地にあることがしっかりと活かされているのがよくわかります。
3年生からはそれぞれの専科に分かれるのですが、1、2年次の実習による具体的な経験を踏まえているので、自分との相性や将来性などを十分に考えてから、進むべき道を選べ、学生にとってはとてもありがたいことでしょう。

大学の存在価値

さて、ここまで、芸術文化観光専門職大学が、学生にとってとても恵まれた環境であることをご紹介してきましたが、平田さん曰く、実は、この大学にはそれ以上の価値があるようです。

山陰本線の中では比較的大きな駅である豊岡ですが、それでもやはり静かな街です。実際に、夜は真っ暗になり、シンと静まり返る、いわゆる田舎町だったそうです。
しかし、先ほどもご紹介したように、大学ができて、22時まで開いている図書館の明かりがつくようになりました。大学は線路沿いにあるので、夜、電車で帰ってきた人にとっては、明るい街に帰ってきた印象になるのだとか。
さらに、もう少し行政的な話で言えば、少子化の影響もあり豊岡でも若年層の人口は少なく、しかもその約8割が地元を出てしまうことがデータ上明らかなのだそうです。数年後の若年層の人口が150人になってしまうという試算もあるようで、市としてもこれを何とかしたかったのだと。そのため、毎年80人の若者が各地からやってくる「大学」の開校は、この地域の宿願でもあったそうです。

外から若者が来ることの影響は、単に購買層が増えるということだけではありません。平田さんのお話では、地元の方から「アルバイトの質が上がった」という声を聞くそうです。演劇経験者が多いので、愛嬌がありハキハキとしゃべる子が多く、居酒屋やコンビニでは大活躍なのだとか。
小さな変化かも知れませんが、こういった一つ一つのことが、街を明るく元気にして、過疎の問題を気持ちの面からも解決に導いているのではないでしょうか。

また、先ほど紹介した学内の劇場の楽屋には、衣装を掛けるために「ナカタハンガー」が置かれています。「ナカタハンガー」は都内の有名ブランド店でも使用される高級ハンガーで、実はこれが豊岡名産なのです。本来は、芝居の楽屋に高級ハンガーは必要ありませんが、地元の産業を身近に感じ、地元に支えられていることをしっかりと意識できることが大切なのだと思います。

この先の展望

この先の展望として平田さんは、アートマネジメントについては「修士課程まで作りたい」と話していらっしゃいました。少しずつ大学の幅を広げることで、日本の舞台芸術のレベルアップはもちろん、地域振興もより活発化したいと、大きなテーマで活動をされているのです。

一度見学をすれば、自由で情熱的な学風をすぐに感じとることが出来ると思います。しっかりとやりたいことがある人なら、強力なバックアップ体制が整っているところです。入学希望の学生さんはもちろんですが、多くの舞台関係者にもぜひ一度訪れてみてほしい大学でした。
また、演劇を使った地方創生のモデルケースとして、この地の活動が多くの地域に派生すれば、「演劇と社会」のつながりに新たな可能性をもたらしてくれるのではないでしょうか。そうなることを願いつつ、これからの芸術文化観光専門職大学にも注目していきたいと思います。

芸術文化観光専門職大学(兵庫県豊岡市)
2021年4月、開学。芸術文化と観光の二つの視点を生かし、地域活性化を学ぶ日本で初めての大学。国公立初!演劇・ダンスの実技が本格的に学べる大学でもあり、世界を舞台に活躍する演劇人、ダンサーが教員として在籍。220人収容の劇場やスタジオなど舞台芸術を学ぶための施設も充実しています。


U25世代に向けて、舞台芸術に関する情報を発信!
▽ユニコ・プロジェクトの記事はこちら▽

▽「おちらしさん」では舞台公演のチラシが、無料でご自宅に届きます!▽

17,100名の舞台・美術ファンにお届け中!「おちらしさん」への会員登録もお待ちしています! おちらしさんとは⇒https://note.com/nevula_prise/n/n4ed071575525