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ロビー・ヒーロー / 正義のまわりをうろうろしている4人【PR】

もし、あなたの信頼する人が、「信頼する人の親しい人が罪を犯したこと」をあなただけに教えてくれたとき、あなたはどうしますか?

「ロビー・ヒーロー」は、その問いに対して、状況的に不利な状態で答えを言わなくてはならなくなってしまった主人公のお話。「今」じゃなかったら、もしかしたら別の答えだったかもしれないのに・・・。

(左から) 中村 蒼、岡本 玲 / 撮影:引地信彦

全員が、正義のことを「少しだけ」考えている

主人公のジェフ(中村蒼)は、深夜のロビーで警備の仕事をしている。
ジェフの父は海軍で、人を大勢救ったヒーローだった。
「もし父だったらどうする?」と考えることもあるが、今のところ、ジェフは人生の目的もなく、退屈な深夜の時間をロビーで過ごしている。(ときどき、広告の仕事ができたらいいなぁなんてことを考えたりしているけれど、きっと、そんな日はこない。そんな気がする・・・)

上司のウィリアム(板橋駿谷)は、不正が嫌いだ。勤務中に寝ている警備員を見つけたら、迷うことなくクビにする。そんなウィリアムの弟が殺人罪に問われたらしい。弟の彼女の証言によると、どうやら、殺人が起きた時間には「ウィリアムの弟はウィリアムと映画を見に行っていた」というアリバイがあるらしい。(ん?? ウィリアムは、映画を見に行っていないのに?!!)
弟が本当に罪を犯したのかわからない。ただ、ウィリアムが嘘の証言にのっからなくては、たぶん、弟は死ぬ。

警察官のビル(瑞木健太郎)は非常に優秀で、順調にキャリアを重ねている。周りからの信頼も厚い。ウィリアム弟の事件の担当ではないが、ウィリアムを信用し、弟の釈放に向けての手助けをしようとしている。(自身のイメージアップに繋げるというしたたかな戦略ではあるが、それもまた正義のためだと、ビルは考えている!!)

ドーン(岡本玲)は、まだ見習いではあるが、『警察官』という正義を執行する職業に就いていることを誇りに思っている。最近、市民を一人、失明の危機に晒してしまったが、それは正当防衛であり、そのことは、ビルが周りに証言してくれている。自分の進むべき道を支えてくれるビルには、ほぼ恋心に似た「尊敬」の念を抱いている。

(右から) 中村 蒼、板橋駿谷 / 撮影:引地信彦

崩壊に向けての歯車が、がちゃりと、嚙み合ってしまった音が聞こえる

ロビー・ヒーローのおもしろいところは、4人が、何かひとつ行動をとるたびに、他の3人にとって、きっと良くないであろうことが起きてしまうことだ。

例えば。
ジェフは、マンションの見回りに来ているドーンに好意を抱き、ロビーでビルを待機しているところをデートに誘う。
その会話の中でジェフは、ドーンに、ドーンが好意を抱いているビルの不貞行為を、ばらしてしまう。(がちゃり)

ドーンはビルに失望し、見回り中の不貞行為を責める。
しかしそれが、ビルによって守られてきていた彼女の立場を悪くしてしまう。(がちゃり)

立場の悪くなったドーンは、ビルとの関係をあきらめ、ジェフに近づく。気を許したジェフは・・・(がちゃり、がちゃり、がちゃり)

止まらない。
止まらない。

登場人物たちは、考えに考え抜いて、自分がどうするべきかを考えているはずなのに、止まらないのである。

テーマを浮き彫りにするための――

新国立劇場初演出の桑原裕子さんによる演出は、4人の人間臭さを引き出そうとするもので、どの瞬間も非常に見ごたえがあった。登場人物の感情のゆらぎ(思わず生まれてしまうもの)を表出させることが、「ひとつだけの面を見ないで多面的にものごとを見よう」という、ロビー・ヒーローの根底に流れているテーマにも、がっちりかみ合っていたように思う。

ジェフ役の中村蒼さんの演技は出色。ロビーという退屈な場所で過ごし続けている青年の、なにものかになりたいと「心の底で思っていた様子」がしっかりと伝わってきた。
中村さん自身の魅力なのか、彼に関わる人たちが、なぜか本音や本当のことを言ってしまうことへの説得力が生まれていたことは、大変興味深かった。クライマックスでの舞台上での在り方も、素晴らしいものだった。

(左から) 中村 蒼、岡本 玲 / 撮影:引地信彦

爆速で回り始めた歯車が止まるのか止まらないのか。
ジェフは(父のような)ヒーローになれるのか。
ぜひ新国立劇場に行って、確かめてほしい。

公演情報

新国立劇場 2021/2022シーズン演劇公演
『ロビー・ヒーロー』

会場:新国立劇場 小劇場
公演日程:2022年5月6日(金)~22日(日)

作 ケネス・ロナーガン
翻訳 浦辺千鶴
演出 桑原裕子

芸術監督:小川絵梨子 主催:新国立劇場

出演:
中村 蒼 岡本 玲 板橋駿谷 瑞木健太郎

料金(税込):A席7,700円 B席3,300円
公演詳細:https://www.nntt.jac.go.jp/play/lobby_hero/

【全国公演】
・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2022年5月28日(土)13:00、29日(日)13:00
・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2022年6月5日(日)13:00
・岡山市立市民文化ホール [主催:(公財)岡山文化芸術創造]
2022年6月11日(土)13:00

文責:成島秀和


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