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順風男女 10周年記念公演『おてんこうてんおてんてん』4都市ツアーの成功

ネビュラエンタープライズ・おちらしさんスタッフの福永です。小劇場芝居が大好きで、かねがね、面白い小劇場劇団が、もっと活躍して、どんどん売れていくためには、地方進出が一番! と、勝手に主張しているのですが、そんな中、とても素晴らしい試みをしている劇団を見つけたので、「これは!」と思い、取材させていただきました。

「順風男女」という劇団をご存じでしょうか?
下北沢の小劇場を中心に、コントオムニバス公演を続けること10余年。メンバーは足立信彦、匁山剛志、平野賢佑、伊芸勇馬、今井英里、伊藤摩美、岸波紗世子の7名。小劇場では珍しくないですが、とても小規模な団体だと言っていいでしょう。

左より、岸波紗世子さん、足立信彦さん、伊藤摩美さん、平野賢佑さん、
伊芸勇馬さん、今井英里さん、匁山剛志さん

この、たった7名構成の小さな劇団が、「ツアー」と称して、6月に4都市(東京・愛知・福島・沖縄)での公演を企画し、これを見事に成功させて帰ってきました。いわゆる“旅”公演をしてきたわけです。

お芝居の収支が何となくわかる人なら、すぐにこの“暴挙”(笑)に驚くことでしょう。

そうです、本来、この規模の団体が、東京以外に3か所も“旅”公演をすることなど、到底無理な話なのです。

大規模の人気公演で(有名人が出てたりして)、日本全国どこでやってもチケットが完売するような公演、あるいは、各地の演劇鑑賞会などに公演ごと買ってもらう、とかでもなければ、基本的に“旅”公演は成立しません。いや、やることはできます。しかし、ほとんどが劇団員の持ちだし、「赤字でもいいから地方でやりたい!」という、情熱だけで出発してしまうパターンです。

ところが、いろいろと話を聞いてみると、順風男女の今回のツアーは、そのどれにも当てはまりません。しっかりとした計画に基づき、また、本人たちの様々な努力と工夫によって、成し遂げられた“旅”公演だったのです。その努力と工夫の中身について、劇団員たちに根掘り葉掘り聞いてみました。

順風男女4都市ツアー公演『おてんこうてんおてんてん』 
【会場】
東京@サンガイノリバティ
愛知@長久手市文化の家
福島@ユースゲストハウスATOMA
沖縄@LIVEHOUSE MOD’S

どうして“旅”公演に?

Q:今回は劇団の結成10周年を記念した公演でした。しかし、実際にはもう結成12周年を迎えているそうですね。

伊藤:コロナで・・・、本当なら2020年に企画していた公演なんです
足立:そのときは、ゲストさんも呼んでの、大規模な公演にする予定だったんです。

Q:コロナでそれが出来なくなって、2年越しに企画を復活させたわけですね。時期的に“旅”を中止にする選択肢はあったのですか?

匁山:それはなかったですね・・・。
平野:最初から“旅”公演ありきで考えてました
岸波:誰も反対してなかったです。

Q:そもそもどうして「ツアー」にしようと思ったんですか?

伊藤:これまで何度も、名古屋公演はやっていて、とても楽しいんです。私が名古屋出身で、両親はもちろん学生時代の友達がすごく喜んでくれるので。
足立:僕は福岡出身で、一度だけ福岡公演もやったんですけど、地元の仲間に、この面白いメンバーを見て欲しい!って思うんですよ。
伊藤:この経験を他の地方出身者にも味わってほしかったっていうのが一番ですね。

Q:そこで、平野さんの出身地である福島と、伊芸さんの出身地である沖縄が、ツアー先に選ばれたわけですね。(赤字にならない)勝算はありましたか?

伊芸:なんとなく・・・。
平野:いけそうな気がしてました。
伊藤:福島と沖縄は、とにかく一度やってみることが大事だと思ってました。もちろん、ちゃんと対策は考えましたけど、やってみないとわからないことが多いので。

“旅”公演にかかる経費。愛知公演の場合。

Q:“旅”となると、どうしても気になってしまうのが経費のこと。普段の公演だと、大きな経費は「劇場代」と「スタッフ人件費」ですが、“旅”となると、そこに「交通費」や「宿泊費」がプラスされます

伊藤:愛知公演のときはいつも、劇団員にはうちの実家に泊ってもらいます。今回は感染予防のためにちょっと分散させましたけど。
匁山:伊藤家には本当にいつもお世話になってます!

Q:まず宿泊費のカットができたわけですね。集客についてはどうですか?

伊藤:両親や学生時代の友達がお客さんを呼んでくれるので、愛知公演はいつも盛り上がります。
匁山:愛知公演は何度もやっているので、すっかり“お馴染み”って感じになってます。客席からも「待ってました」感が強くて。
平野:もう、ホームですね。

会場:長久手市文化の家

Q:つまり集客の問題もクリアにしていたと。今回の会場は長久手市の公共施設でしたね。

伊藤:今回お世話になった、長久手市文化の家さんとは「共催」という形にしていただいて、小屋代もかかってないんです。しかも、チケット収入はちゃんとうちに入るという好条件でした。

Q:そんないい話、どこから出てきたんですか?

伊藤:名古屋でフリーで制作をされているNさんという方がいて、名古屋公演のときはいつもその方に制作をお願いするんですけど、今回もその方がいろいろ動いてくださって、「共催」にこぎつけてくれました。

平野:元々、長久手市文化の家さんは、演劇に力を入れているところで、愛知の演劇界では有名な場所なんだそうです。大ホールだと広すぎてコントには不向きなんですが、今回使用した「視聴覚ホール」は、コントにちょうどいいサイズで、施設側も、そっちを演劇利用してくれる団体がないか? と探していたところだったらしいんです。

匁山:Nさんの存在は本当に大きかったですね。これまでの名古屋公演の積み重ねでできた人脈だったので、10年の成果と言っていいと思います。

平野:劇場の方も盛り上げてくださって、順風のこと、SNSでも拡散してくれてました。

伊芸:実際に、たくさんのお客様に来ていただいて、大いに盛り上がりました。

福島公演の会場とは?沖縄公演の収支は?

Q:さて、愛知公演がとても恵まれた条件だったことはわかりました。福島公演はどうだったのでしょう? 会場のユースゲストハウスATOMAというのはどんな場所なのですか?

会場:ユースゲストハウスATOMA

平野:僕の実家です(笑)。ユースゲストハウスってつまり宿泊施設なんです。ちょっとしたロビースペースがあって、そこだったらできるかなと。演劇利用はしたことないので、いろいろ勝手は違いましたけど、何とかなるものだなーと(笑)。

伊藤:コロナ前は福島も公共のホールでやる予定だったんです。でも、コロナを体験して、全体に規模を小さくしようと話し合って、その結果生まれた発想でした。

匁山:ザツグロ(黒布)やツッパリ棒など、舞台監督さんから借りて、東京から全部持っていったんです。おかげで、ロビーを、完全暗転もできる、しっかりとした劇空間に変貌させるのに成功しました。劇団員みんなでやりました。

平野:役者もスタッフもそのままうちに寝泊まりしてもらうので、劇場費も宿泊費もかかってません。親父に感謝です。集客は60名程度でしたけど、それでもしっかり「故郷に錦を飾れた」かなと。

会場:LIVEHOUSE MOD’S

Q:沖縄はどうでしょう? こちらはライブハウスなので、小屋代もかかりますよね? しかもこのMOD'Sさんは沖縄では有名なライブハウスだと聞いています。

伊芸:はい。でも、やっぱりコロナで、利用者が減っていて、今はオーナーが若手を応援したいということで、少し小屋代は安くしてくれてるようです。

Q:とは言え、飛行機代、宿泊代もかかります。やはりなかなかペイできないのでは?

伊藤:最初から、沖縄だけではペイできないことはわかってました。なので4都市全体で収支が合うように計画していました。そのため、実は東京公演もいつもよりも小さな小屋でやってたんです。

今井:結果、全ての回が完売でした。

足立:追加公演までやって、そこもチケット完売初めての経験です

岸波:逆にお断りするお客様もいて、ちょっと申し訳なかったです・・・。

伊藤:東京公演と愛知公演は、絶対に黒字にしないと! という気持ちでやってました。

チケット収入だけじゃない、
いろいろな収入手段!

Q:なるほど、つまり、基本的には「チケット収入」で経費を賄っていたと?

伊藤:いや、実は今回、売上に関して、自分たちでは“3本柱”を設定していたんです。それは「おしのし、配信チケット、物販」です。

Q:配信チケット、物販はわかりますが、「おしのし」ってなんですか?

匁山:わかりやすく言うと投げ銭的なサービスです。

足立:知り合いの劇団の制作さんが立ち上げたサービスで、口コミで広がってたのをマミさんが持ってきて、利用してみよう! と。

平野:今回の公演は感染対策のこともあって、基本的に「差し入れ」はすべてお断りしてたんです。その代わり、もし、差し入れをくださるつもりがあった方は「おしのし」にご協力ください! と誘導しました。

足立:一口1,100円の応援金で、見に来れなかった人も、せめて「おしのし」だけでもと協力してくれて、最終的に400口ほど集まりました!

伊芸:僕も沖縄の親戚がたくさん参加してくれました。

今井:今回は物販もよく売れました。これまでの経験から、売れるものと売れないものも分かってきていたので、売れるものを大量に作る作戦で行きました。なるべく経費をかけずに。

平野:実際、沖縄では大量に売れて、Tシャツをはじめ、ほとんどの商品が完売しました

伊芸:沖縄の人はどうもそういうところがあるようで、せっかく来てくれたんだから買ってあげようという風潮があるようです。今回学びました。

岸波:物販で言うと、今回からQR決済が出来るようにもしたんです。私が普段現金を使わないので、そうした方が買ってくれる人も増えるかと思って。劇団名義のカードを作ったり、手続きは私がやりました。

足立:そのおかげでオンラインショップもできるようになったんです。公演以外で物販ができるのは大きいですね。

今井:だから在庫を持ちやすくなりましたよね。でも、結果的には、沖縄で予想外にたくさん売れたので、足りてなかったんですけど・・・。

匁山:配信チケットはこの後も売り続けます。実際に、以前、配信チケットを販売した際も、公演が終わってからの伸びがすごかったんです。しかも、今回は配信限定のオリジナル動画もつけているので、この先もどんどん宣伝していこうと思っています。

助成金の活用

Q:つまり、「チケット収入」以外の資金調達手段をたくさん用意していたということですね。旅への備えは万全だったと。
そこで……ぶっちゃけ、収支的には黒字になったんですか?

伊藤:実はまだそれが確定できないんです。
平野:やっぱり重要なのは助成金ですね。
伊藤:「AFF」に採択されているので、あとは決算の書類がちゃんと通れば確実に黒字です。

Q:「AFF2」は、申請方法がかなり難しかったと聞いていますが、順風男女さんも苦労しましたか?

平野:任意団体として「収益事業開始届出書」を出しました。ちゃんと収入がある団体なのだという証明です。
伊藤:だから、私たち、今度からは税金払わないといけないんです(笑)。
平野:書類は難しかったですけど、公演の成功のためにがんばりました!

※後日、無事に申請が通ったとの報告を受けました。着金は秋になるものの、一安心しているようです。

順風男女メンバーの話を聞いていると、確かに、劇団員を泊められるだけの大きな実家があったり、公共のホールとの「共催」ができたり、ましてや「実家で公演」をするなど、他の人には真似できない、大きなラッキー要素も多いです。しかし、一方で、助成金獲得のための書類作成の努力を惜しまず、また、新たな資金調達手段を積極的に取り入れたり、そもそも公演の規模をコンパクトにして、フットワークを軽くするなど、劇団としての努力、工夫も多分に感じられました。ラッキーだけではなく、彼らはしっかりと強い意志をもって企画に挑み、見事に成功させたのです。

最後に伊藤さんが、

伊藤:結局一番大事なのは、公演後にお礼状を出すことですね。公演に来てくれた方、「おしのし」で応援してくれた方にはちゃんとお礼を送ってます。だからか、うちはリピーターが多い方だと思います。

実際に、東京公演はもちろん、愛知公演にもちゃんとお客様が付いているところを見ると、この話は信用できます。基本的なことでも、10年しっかり続けたことで、たくさんの成果が実ったのが今回の公演だったのではないでしょうか。
また今回は、同じような小規模の劇団にとって、“旅”公演を成功させるためのヒントに満ちた貴重なインタビューになったと思います。順風男女さんには改めて、ご協力いただき感謝いたします。
今後、東京の面白い劇団がどんどんと地方へ飛び出し、各地の演劇シーンを盛り上げてくれたらと強く期待しています。

順風男女4都市ツアー公演『おてんこうてんおてんてん』

配信チケット(特典映像付き) 1,800円
期間:~8月15日(月)
▼ご視聴・グッズ購入はこちら▼
https://junpu.base.shop/

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