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ミュージカルファンもきっと好きになる「リーマン・トリロジー」のススメ

こんにちは!おちらしさんスタッフのしみちゃんです。いつもおちらしさん、おちらしさんWEBをご覧いただきありがとうございます。

今回は私の最も好きな戯曲と言っても過言ではない!大大大好きなお芝居、「リーマン・トリロジー(THE LEHMAN TRILOGY)」についてお話をしたいと思います。なぜこちらをご紹介したいかと言いますと、台詞劇がお好きな方だけでなく、ミュージカルファンのみなさまにもぜひとも観ていただきたい素晴らしい大作なのです!

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アメリカの大手投資銀行であったリーマン・ブラザーズの栄枯盛衰を描いたこの作品は、イタリアで生まれたのち、2018年にロンドンで英語版が初演され、現在はNY・ブロードウェイで公演中です。日本ではナショナルシアターライブ(NTLive)として、ロンドンでの公演を収録したものが映画館で上映されていました。

私は2020年の初上映のときにその魅力に引き込まれて以来、アンコール上映がされるたびに映画館へ。今までに5回ほど拝見しました。もちろん映像なので舞台が持つ「生の空気」や「その日ごとの変化」という面白さは取り除かれてしまうのですが、それでも何度も観たくなってしまう不思議な引力があるのです!

言葉とピアノが歌い躍るリズムの力

「リーマン・トリロジー」の面白さを一番に作っているのは、ずばり「音」だと思います。ちなみにNTLiveは、全編日本語字幕がついているのでご安心を!この作品は3人の俳優がリーマン兄弟と彼らに関わる人物を代わる代わる演じるのですが、演じ分ける際の声色、そして思わず口に出してみたくなる詩や言葉遊びのような台詞から生まれるリズミカルなスピード感が特徴です。3幕ものの長編ではありますが、リズムに乗っているうちに驚くほどあっという間に164年の歳月が過ぎていきます(笑)

そして、3人の役者と同じくらい重要な役割を果たしているのが、“4人目の演じ手”となるピアノです。ただBGMや効果音を奏でるというよりも、ページをめくり、ストーリーを進行していくような力が与えられています。この台詞とピアノが持つ互いの要素が合わさると、まるでミュージカル作品のようにお話が展開していく効果が生まれてしまうのが面白いところ!

私は「リーマン・トリロジー」が生み出すこの効果の大ファンでして、一体どんな風に自分から動き出すようなパワーを持つ言葉が書かれたのだろうとずっと疑問だったのですが、なんと原作小説の作者であるステファノ・マッシーニさんは自転車に乗りながら喋ったものを録音し、書き起こすというやり方をとっていたそうです。短くなった舞台版でさえ3時間半の作品を、頭の中で描いて喋るなんてすごすぎて恐ろしい……!

国破れて山河あり…と言いたくなる雄大な叙事詩

そしてお芝居ですから、やっぱり物語が面白くなくっちゃねと思われている方にも「リーマン・トリロジー」は最高傑作であるとお伝えしますよ!!

リーマン兄弟の最初の一人がアメリカに着いた1844 年から、リーマン・ブラザーズが経営破たんし、「リーマン・ショック」と呼ばれる世界的な金融危機を引き起こす2008年までを描いたこの作品を一言で表すならば、「山河」であり、「宇宙」だと思います。そのくらい壮大なスケールで、人間の営みや歴史や文化が紡がれ、一枚の大きな布ができていくような感覚を覚えるのです。クラシックの交響曲にも似ているかもしれません。

もともとはアメリカ南部の田舎町で布を売っていた一人のユダヤ人が、変わりゆく時代の荒波に揉まれながらも、兄弟とともに時流を読み、力をつけ、やがて一族は国をも動かす存在となっていく……。なんだかとてつもなくワクワクしてきませんか!?

ここでも言葉の持つパワーやリズムが効いてくるのですが、リーマン家の3世代を描くに当たり、同じセリフ、同じ演出を繰り返すことで人や時代が移り変わるなかでも普遍的なものと、変化してゆくものが浮き彫りになっていくのです。誰もが憧れるアメリカンドリームでありながら段々と失われていく文化や、資本主義の浸透とともに排他的になっていく社会、歳を取ることのもの悲しさが見える、多面的で雄大な叙事詩であると思います。ここも「レミゼラブル」のような広く大きな流れを感じる作品が多い、ミュージカルがお好きな方にオススメしたい一因です!


ここまで「ミュージカルがお好きな方に…」とお話ししてきましたが、もちろん翻訳劇がお好きな方にはさらに声を大にしてオススメしたいですし、日本のオリジナル戯曲ファンの方にも一度は観ていただきたい作品です。例えば、私も観劇して以来大好きな作品である「子午線の祀り」はかなり似ている要素が多いのではないかと思います。

気になってきたかもしれないという方は、NTLiveでのアンコール上映があった際にはぜひご覧になってみてください!12月には、金沢21世紀美術館での上映が決定しているそうです。私も近くで上映されたときには必ずやまた観に行きますし、いつかはBW、いや日本の客席で「リーマン・トリロジー」が味わえる日を楽しみにしています


ナショナル・シアター・ライブ
サム・メンデス演出『リーマン・トリロジー』

こちらの原作本も内容、言葉の描かれ方ともにとても面白くオススメです!
早川書房『リーマン・トリロジー』


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