丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】⑫ デザイン一新! 9月2日より配布の新チラシ束『ステイジーズ(STAGES)』に込めた思いとは?
みなさん、こんにちは! 灼熱の8月も終盤に差し掛かりいよいよ9月、みなさんいかがお過ごしでしょうか?我が家は夏休み最終日に(類にもれず!)読書感想文に追い込まれる娘にゲキを飛ばしつつ(笑)、夕方から焼肉に繰り出し、線香花火でバケーションを締めくくりました。日中に体に溜め込んだ熱でぐっと疲れが出てしまったり、安定しない気圧で頭痛に苦しめられている方や台風や地震の心配から心細くなられている方も多いと思います。どうぞ心身を労りながら、晩夏をお過ごし下さいね。
さてさて、毎度ながら突然ですが、劇場に着いて、客席に座ってからの過ごし方ってみなさんどのようにされているでしょう?メールやLINEを返す人、SNSを見返す人、読書をしている人も時々見かけるし、ギリギリまで仕事をしている人もいるかもしれません。あと、やっぱりよくお見かけするのが、チラシ束をパラパラとめくっている姿だったりもします。
かくいう私もチラシ束が大好きで、観劇スケジュールもそれを元に立てているのですが、実はこのチラシ束、9月からガラッと仕様とデザインが変わるってご存知でしたか?
そんなチラシ束に魅せられた私は、かつて数年間ライター業の傍ら折り込みのバイトもしておりまして、その会社こそが本連載・おちらしさんWEBの運営元でもあるネビュラエンタープライズ。(そう、実はこの連載も、元を辿ればチラシ束が繋げてくれたのです!)
今回は、そんな文脈とご縁を最大に活かしつつ、チラシ束の大リニューアルの裏側に迫るべく、特別インタビューを決行!コロナ禍に入社し、激動の変化の中でチラシ束やその折り込みを通じて舞台芸術業界を見つめてきた田中莉紗さんと清水美里さんにお話を聞きました。舞台芸術業界を盛り上げるべく、劇場がより豊かな場所になるよう若手社員が中心となって進めてきたプロジェクト、その全貌をお届けします!
プロジェクトの発端、コロナ禍を経て見えてきたもの
―いよいよ、新たなチラシ束『ステイジーズ(STAGES)』が劇場で配布されますね。まずは、プロジェクトの発端からお聞かせください。
清水 リニューアルの話自体は結構前から出ていたのですが、具体的に動き出したのは去年の10月頃。発端はコロナ禍での変化でした。お気づきの方もいらっしゃるかもしれないですが、コロナ禍では、公式キャラクターのチョイスくんがマスクをしているイラストが表紙で、デザインも華美になりすぎない仕様にしていたんです。コロナ以前は結構カラフルなデザインだったこともあり、「そろそろコロナ禍対応のデザインを一新したいね」というのが最初の動きでした。
―コロナ禍ではチラシ束や折り込みを巡る状況も変化がありましたよね。私もアルバイトで作業場に入った時に部数や配布や納品の方法の変化を都度感じていましたし、劇場での手渡し配布が出来なくなったことも大きな変化でした。
田中 私が入社した時、公演は復活し始めてはいたのですが、チラシ束の手配りはできずに、「ご自由にお取り下さい」と劇場ロビーに置くことがデフォルトになりつつありました。劇場での配布は、私たちにとってもお客様との大切なコミュニケーションだったので、「ゆくゆくは手配りに戻るかな」という思いもあり、公演や劇場の担当者様へのヒアリング、その状況や情報を社内で共有をすることをしていました。
清水 そもそもチラシ束を作る主催団体さんも、そこに折り込むためにチラシを作る団体さんも少なくなっていたし、機会そのものが減ってしまったんですよね。これまでは宣伝ツールとしても、公演団体と観客を繋ぐアイテムとしても存在していたものの、出番が減ったことで「チラシ束ってそもそも必要なのかな?」と存在意義自体に立ち返るようになったんです。「その価値を守っていくために、今後どうしたらいいだろう」というのが当時の会社全体のテーマでしたね。
田中 劇場を巡る状況にも多くの変化があり、検温や消毒に、時間や人員が必要で配布までは手が回らない実情があったり…。手配りに戻すことはなかなか難しいし、しかし、ロビー置きだと手配りほどお客様へ届かないという現実もあり、社内でも今後の在り方について色々話し合っていました。でも、そういった困難な状況になったからこそ得られた気づきもありました。
―どんな気づきだったのでしょうか?
田中 開場中の様子を見学させていただいた際に、置かれているチラシ束を前に「これってもらっていいのかな」、「無料なの?」っていう声が聞こえてきたり、一度手に取っても机に戻している姿を見たりして、「チラシ束そのものをもっと分かりやすいものにする必要があるかも」と思ったんです。積極的に触れてくれているのに、今後に活用するといったその先のアクションに繋げられていないかもと改めて気づいたというか…。そこが、今回のリニューアル、そのデザインやコンセプトとして最も重要なテーマになりました。
清水 「コロナ禍対応のデザインを一新したい」という思いの裏に、そういったコロナ禍で得た数々の気づきがあったんですよね。この数年は、お客様と劇場との距離感も変化したように感じていて、そういった中でも劇場に来てくださった方に対してどういうアプローチができるだろう、どんな風に劇場での時間を楽しんでもらえるだろう、という視点を重んじてプロジェクトに取り組みました。
劇場で“素敵なひとときを”過ごすために
あらゆる人にとって心強いアイテムでありたい
―デザインを拝見した時に「チラシ束との距離感がより近くなった気がする!」と感じたのは、きっとそういう思いが端々に込められていたからなのですね。具体的にどんなアイデアが出たのでしょうか?
清水 劇場に来た時に高揚感をアシストできるような、「とにかくワクワクするものに!」を軸に考えました。こだわりは、時間の流れ。劇場で過ごす観劇前・観劇中・観劇後を踏まえて、それぞれの時間に寄り添えるようなイラストやデザインを心がけたところです。開場中にチラシ束を受け取るところから始まって、上演中に「素敵なひとときを」過ごしていただくためのポイントを添えました。後半には終演後のチラシの活用方法やSNSへのアクセスを載せることで、観劇後の余韻も含めた一連の時間の豊かさを時系列で表現しています。あとは、最近増えている海外からのお客様へ向けて英訳も入れました。
田中 私がとくにこだわったのは、「素敵なひとときを」という部分に係る文言でした。これは、一般的には「観劇マナー」と呼ばれるものではあるのですが、このチラシ束においては「“素敵なひととき”を過ごすための工夫」として打ち出しているんです。当初は「○×イラストの方がマナーとしては分かりやすい」という意見もあり、実際にデザインにも表現されて上がってきたのですが、×という表現が観劇へのハードルを上げてしまわうように感じたんです。ここで一番伝えたかったのは「どういうことが×である」ではなく「劇場での時間をみんなで楽しむためにはこうしよう」ということで、もっと言えば、観劇においての絶対的な縛りはなく、いろんな公演の形がある中で「各公演のやり方に従って楽しもう」ということにしたかったんです。同時に、観劇ファンの方々は声を大にして言いたいけど、なかなか言えないことでもあるかもしれない。そのあたりの表現を探りながらポジティブな空気感で伝える工夫を考えました。
―観劇マナーを巡っては様々な論争も飛び交いがちですが、私自身も「劇場が、ファンの方もビギナーの方もできるだけ多くの方にとって過ごしやすく、そして親しみやすい場であって欲しい」という願いもあるので、すごく共感します。
清水 おっしゃる通り、劇場には初めて劇場に来るお客様もいれば、海外のお客様もいます。コロナ禍を経て、日々の仕事の中でも「新しい観客の方にも作品を届けたい」という主催団体さんや作り手の方の思いに触れることも多々あったので、そう言った部分も掬って、舞台を観たことのない人や、そういった方を誘う時にも「チラシ束」が心強いアイテムでありたい、とも思ったんですよね。
田中 そうなんです。劇場には本当に様々なお客様がいらっしゃって、それぞれの想いを抱えられているんですよね。作品との対話は自分自身だけのものだけど、そういった人々が集まっている状況そのものを大切にしたい、という想いもあって、そこをベースに話し合いながら進めました。チラシ束をどう活用するといいかというメッセージも含め、これまでわざわざ書いていなかったことをあえて書くことにしたのもそういったところからでした。
清水 そんなこだわりは、キャラクターの表情にも込められているんです。観た作品によっても、人によっても、観る前・観た後の気持ちはそれぞれ違うので、なるべく表情を固定しないようにしました。すごく笑っていたり、悲しんでいるとかではなく、浸っている様子であったり、後ろ姿であったり想像の余地を少し残すような、できるだけ多くのお客様に受け取りやすい表情や佇まいになるようにしました。「気持ちを強制しない」という意味もあるし、その場その場でキャラクターとお客さんがそれぞれの思いを抱えていることを大事にしたいと思いました。
田中 チラシ束は、小劇場から大劇場、演劇からダンスまで様々な公演を横断して配られていることが魅力なのですが、その全てに対応したデザインにするのが難しい部分もあり、社内でも何度もディスカッションも重ねました。私や清水さんだけでなく、社員の多くのアイデアがあったからこそ実現ができた。「劇場でしか出会えないものだからこそ、チラシ束を見てまた劇場に行こうと思ってもらえるようなものにしよう」という気持ちを、社内全体でブレずに持ち続けられたことはとても大きかったです。
清水 そうそう!「どんな人がチラシ束を手に取ってくれるだろう?」とターゲット層のようなものを考えようとした時に、設定ができないことにも改めて気づきましたよね。年齢、性別、国籍、好きなもの…何一つ絞れるものってないんですよ。どんな劇場でも、どんな公演でも、配られていいもの。そういった意味も込めて、名前も『ステイジーズ(STAGES)』とSをつけて複数形にしました。日本にはいろんな魅力的な舞台芸術があるよ、っていうことも伝えたくて。
『おちらしさん』と『ステイジーズ(STAGES)』
それぞれの強みを活かして
―可愛らしい新キャラクターたちの誕生、そして『ステイジーズ(STAGES)』という命名にそんな秘話があったとは! そして、これまで大活躍のお馴染みキャラ・チョイスくんも新たなステージで活躍を続けるのだとか?(笑)
清水 そうなんです!ありがたいことにチョイスくんファンの方も沢山いて下さるので、是非お伝えしたいのですが、チョイスくんには引き続き、会員の方のご自宅に直接お届けするチラシ束やWEBでの情報発信を行っている「おちらしさん」のキャラクターとして頑張ってもらいます。なので、今後も遭遇を楽しみにしていただけたら…(笑)
田中 チラシ束は公演によってオーダーメイド化されているものなので、“ここでしか出会えないチラシ束”を今後も様々な場所から届けていきたいですね。お家では「おちらしさん」を楽しんでいただきつつ、劇場では「ステイジーズ」でチラシ束を楽しんでいただきつつ、それぞれの一期一会を届けていけたらと思っています。
―では、最後に『ステイジーズ(STAGES)』を通じて今後どんな未来を描いていきたいか、展望をお聞かせください。
田中 『ステイジーズ(STAGES)』はリニューアルしたチラシ束の名前であると同時に、プロジェクトの総称でもあります。例えば、公演情報をまとめた「ステイジーズカレンダー」や、今社内で進行している日本の舞台芸術やその情報を知るための「海外のお客様向けのページ」もその一部なのですが、他にも舞台芸術業界を盛り上げることをどんどんやっていきたいと思っています。私が日々、お仕事させていただいているのは公演の主催団体さんですが、その先には必ずお客様がいます。なので、ここをゴールとはせず、今後も多くの人の声、角度や視点を照らし合わせながらバージョンアップをして、時代にあったものを届けたいと思います。
清水 今はとにかく、配られ始めてからのお客さんの反応が楽しみで、同時にドキドキもしています。「ステイジーズ」というチラシ束によって、少しでも観劇の時間を楽しく過ごしてもらえたらうれしいし、そこから「また劇場に行こう」という期待や希望に繋げられたら…。それが一番の思いです。そして、せっかく『ステイジーズ(STAGES)』という名前をつけたからには、劇場という場所にもどんどん親しみを作っていきたい。今以上に豊かな場所にできるよう、例えば「ステイジーズカレンダー」ではシアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)さんと協力してアクセシビリティ関係のことも進めているので、今後も、劇場がより多くの方に幅広く寄り添える場所になるためのお手伝いができたらと思っています。
チラシ束だけじゃない、観劇カレンダーも登場!
今後の展開がますます楽しみな一大リニューアルプロジェクト『ステイジーズ(STAGES)』ですが、実は、チラシ束に先駆けて、「ステイジーズカレンダー」も新登場しているのをご存知でしょうか?これもまた今の時代に合わせた素晴らしい取り組みなので、紹介させてもらえたらと思います。
かつて、シアターガイドさんやぴあさんも作ってくれていた「観劇カレンダー」。一目で先々の公演がチェックできることは演劇ファンにとって有り難く、これまでも「カレンダーを作ってほしい」という声は、公演団体からも観客からもあがっていたそうなのです。
そんな中で、チラシの折り込み代行を行う際に集まる膨大な情報を元に生まれたのが、このネビュラエンタープライズの「ステイジーズカレンダー」。(アルバイトの経験があるのでわかるのですが、社内にあるチラシ管理室は、国内の様々な公演のチラシが一挙に集う、まさに「ニュースの宝庫」!)
そんな膨大なデータを網羅・駆使して生まれた貴重なカレンダーなのですが、特筆すべきポイントはダウンロードして、自分でカスタムできる“あえての”スプレッドシート型ということ。様々な人にとって使いやすいことはもちろん、商業利用以外であればフリーで使用可能だそう。今あるデータをもとにリストアップして使ったり、団体や媒体がカスタムして拡散するのもOK!これは、見逃し防止にもかなり役立ちそうなので、私も前のめりに使用していきたいと思っています。ぜひ、チェックして見て下さいね!
本連載、いつもは「Have a nice theater!!」と締めくくっているのですが、今回はやはりこれで締めくくりたいと思います。今日も明日もあなたにとって大切な舞台、豊かな劇場での時間、そして素敵なチラシ束との出会いを楽しめますように、それでは、Have a nice stages!!!
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丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』、『リンネル』、『Lala begin』などのファッション誌で主にカルチャーページを担当した後、出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動。近年は『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>の更新を機に劇評も執筆。主な寄稿媒体は各劇団HPをはじめ、『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』、演劇批評誌『紙背』など。また、小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、エッセイ『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)などがある。2023年、2024年とCoRich舞台芸術!まつり審査員を務める。
X(Twitter):https://twitter.com/miikixnecomi
note:https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627
連載「丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇のお話」
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