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存在の耐えられないダルさ - 『ゼノブレイド3』

俺はエアプで語らないことを信条にしている。

映画は最後まで観るし、ゲームはクリアする。そうしていないコンテンツについて、俺は語り得ない。そして自分が体験したコンテンツは、自分の尺度に基づいて評価する。この文章を読んでいるあなたがどうかは知らないが、俺にとってこれは視聴者/読者/プレイヤーとして最低限守るべき倫理の境界線だ。

もうひとつ付け加えると、この信条は同時に呪いでもある。一度観始めた映画や遊び始めたゲームはよっぽどのことがない限りエンディングまで付き合わなければならないからだ。

だが、そんな"よっぽど"が起こってしまった。俺は自分にかけた呪いを呪った。もうコントローラーを置いてしまいたいと本気で願った。あまりにもつまらなさすぎるから。あまりにも、ダルすぎるから。

これは、今年の夏に発売されたSwitchの大作ゲーム『ゼノブレイド3』の話だ。

地雷を踏まれ続けている

『ゼノブレイド3』については以前にも書いた。そのときはムービーについて取り上げ、”このゲームのムービーの使い方って正直センスないよね”というようなことを述べた。ムービー以外のことについてあまり言及しなかったのは、ゲームの進行と共に面白くなる可能性を期待していたからだ。

だが、その期待は完全に外れた。『ゼノブレイド3』はゲームが進むにつれて面白くなるどころか、真逆の退屈さへと一直線に駆け抜けてしまった。ゲームプレイにおける俺の地雷要素が狙いすましたかのように次から次へと現れるので、新手の精神修養のようにさえ思えたほどだ。それでもクリアした自分を素直に褒めたたえたいが、地雷を踏み抜かれながらプレイを続けるのは一般的に大馬鹿者か精神異常者の類だろう。

地雷その1:戦闘が楽しくない

『ゼノブレイド3』の戦闘システムは要素がとても多い割にひどく大雑把だ。ブレイクだのチェインアタックだのインタリンクだのと横文字がズラズラ並ぶが、"少なくともヒーラーを3人とディフェンダーを1人用意する"という鉄則さえ守ればぶっちゃけ他はどうでもいい。自分と同レベルかそれ以下の敵との戦闘であれば、パーティが全滅する前にヒーラーによる蘇生がほぼ間に合い、ディフェンダーによるヘイト管理が追いつくからだ。

本作の戦闘にはMPやアイテムといった有限のリソースは存在せず、各種スキルはクールタイム制で繰り返し使える。したがって、時間をかけた削り合いに持ち込めばまず敗北はありえない。最終的に勝負を決するのはレベルとクラスに紐づいたステータスだけで、プレイヤーの戦略や意思などあってもなくても同じだ。アーツやチェインアタックの使い所なんかいちいち考えなくていい。溜まり次第吐き出せばそのぶん早く終わってくれる。

また、サブクエをきちんと消化するとパーティのレベルは当然上昇し、メインクエストで出会う敵はほとんど格下となる。そうなると戦闘の虚無感はさらに増してくる。メガテンでいうギリメカラのように単純なレベル差を覆すトリッキーな敵など、ほぼ存在しないからだ。プレイヤーはオートバトルのスイッチを入れ、戦闘が終わるまでスマホでも見てればいい。オートバトルができないユニークエネミーが出てきたら?面倒くせえと愚痴を垂れながら攻撃スキルを全ツッパして勝利するだけだ。

書いていて思ったが、こんな行為を"ゲームプレイ"といっていいのか?

地雷その2:戦闘が長い

その1に付随する問題でもあるが、このゲームの戦闘時間の長さは異常だ。終盤になると雑魚敵との戦闘にさえ何分もかけることになる。最強の大技であるチェインアタックですらボス相手には屁の突っ張りにもならず、長引く戦闘で最強技を何度も叩き込むというなんとも締まらない展開を味わわなければならない。早送りのオートバトルで雑魚を1分以内に殲滅できる『ペルソナ5』をほんの一瞬でいいからプレイしてほしいものだ。

RPGにおいて雑魚敵の存在価値は"雰囲気づくり"と"経験値やアイテムなどのリソース稼ぎ"がほとんどを占めている。本当に優れたゲームは敵の配置でうまくレベルデザインや難易度調整をするものだが、もちろん、ゼノブレイド3はそれに当てはまらない。そんなゲームで戦闘にかける時間が長いことは基本的に無意味で、プレイヤーの可処分時間を無為に奪うという点で有害ですらある。アトラスゲーの高難易度プレイのように雑魚敵との戦闘にもボス戦さながらの緊張感があればいいのだが、駆け引きという概念が不要なゼノブレイド3にそんなものは存在しない。

エンドコンテンツを意識したのか知らないが、ゼノブレイド3はとにかく火力不足が目立つ。アタッカーを多めに積んだ構成でもDPSが上がっている実感はほぼ得られないし、終盤でそんな構成をすると蘇生が間に合わない。真面目に勝ちだけを狙うなら、火力はさらに落ち込むことになる。

システムが粗悪なのに時間ばかりかかるのだから、まったく始末に負えない。

あんまりしょうもないので、俺はオートバトルをオンにして横でギルティギアの対戦をしていたことがある。驚いたことに、相手のブリジットをシバき終えてもまだゼノブレイドの面々は戦い続けていた。恐ろしくなるほどのテンポの悪さだ。

地雷その3:自己否定するゲームシステム

先程少しだけ取り上げた"ブレイク"はアーツに紐づいた属性のようなものであり、発動すると敵を怯ませられる。ブレイクのあとはダウン、ダウンのあとはスタンorライジングと繋ぐことで怯み時間を延ばし、バーストorスマッシュでフィニッシュとなる。このブレイク始動のコンボは大ダメージを稼げる上に演出も派手で気持ちよく、ゼノブレイド3の戦闘において爽快感のある唯一の点だ。うまくブレイクコンボがループして敵を完封できたときの満足感は間違いなく本作の長所といっていい。

だが、しかし、それなのに。本作は自ら提示した長所とシステムを自ら否定し、潰していく。というのも、終盤が近づくとブレイクに耐性を持つ敵がバカみたいに増えるのだ。あえて言うまでもないが、この忌々しい耐性は先に述べた戦闘の長さの一因にもなっている。

5分以上もかかるクソ長いボス戦で何度もブレイク技を撃っても、実際にブレイクできるのは両手で数えられる程度。あとはクールタイムを待つだけの虚無の時間が流れる。ブレイクを期待してアーツを使うたびに"レジスト"の文字を見せられ、俺はあまりの愚かしさに呪詛を吐く。

TIPSでブレイクしろって言ったのになんだそのしゃらくせえ態度は?

──ゼノブレイド3をプレイ中のNeverAwakeMan

ブレイクコンボループで難易度が崩壊することを恐れたために、こんな手の平を返すような調整を行ったのかもしれない。その結果、ゲーム側が保障すべきシステムの一貫性はブッ壊れ、その信頼は著しく損なわれている。ポケモンでいうと、四天王戦を楽にクリアしてほしくないからというだけの理由でいきなりくさタイプにほのおタイプが刺さらなくなるようなものだ。そんなことしたら炎上では済まないだろう。

地雷その4:実質負けイベントが多すぎる

戦闘をこなして先に進むほど、このゲームにコミットしようという気持ちは萎えていく。それに拍車をかけるのが、ストーリーにおける実質的な負けイベントの多さだ。

実質的に負けとは何か?つまりこういうことだ。

俺は鼻持ちならないヴィランと対峙し、自らの戦略と努力でもってそいつをコテンパンにした。ブレイクコンボもしっかり決め、さらに1000%超のダメージ倍率にまで引き上げたチェインアタックで合計100万近いダメージを与えた。完膚なきまでにブチのめしてやったというわけだ。ヴィランも悲鳴を上げている。いい気味だ。

さあ、こちらの勝利で戦闘が終わった。カットシーンが始まる。俺がたった今シバき倒したはずの敵は、しかし、余裕の表情を崩していない。それどころか変身だとか超必殺技だとかで主人公パーティを圧倒してくる。そして、意味深な言葉の一つ二つ残して退場する……。

いやおかしくないか?俺が叩き出した100万ダメージはなんだったんだ?100万だぞ?敵を木端微塵にフェイタリティしていてもおかしくないのに、なんで勝ててないんだ?・・・・・・・・・・・

良いダメージだ。感動的だな。だが無意味だ──ゲームに己の行為を嘲られているようにすら思える。これはナラティブの深刻な破綻だ。プレイヤー側の選択とゲーム側の結果が露骨に食い違っているせいで両者の感覚が同期せず、まるで感情移入ができなくなってしまっている。そんなバカげた仕打ちをするくらいなら、わざわざ戦わせないでほしい。

こんなクソくだらない展開を、ゼノブレイド3は飽きずに何度も何度も繰り返してくる。はじめは『まだ序盤だし敵の強さを見せるためにはこういう展開も仕方ないよな……』と見逃していたのだが、まさか終盤までこのパターンを擦ってくるとは思わなかった。途中で数えるのをやめてしまったけれど、本当に敵をフェイタリティできたことのほうが少なかったんじゃないか?

前の記事で俺は『ゼノブレイド3のストーリーには期待できる』と書いた。本当に残念だが、それは撤回させてもらう。大筋はともかく、こんな見せられ方をされては楽しめるものも楽しめないからだ。プレイヤーの価値をこれほど矮小化してまでムービーを多くするのなら、それはもはやゲームである必要はないだろう。戦闘も探索も大して面白くないことだし、一本の映画か1クールのアニメにでもしてしまったほうがマシだ。

その他諸々の地雷

こうやって『ゼノブレイド3』のろくでもない要素をひとつずつ挙げていくとキリがない。

例えば、移動回りの設計がお粗末なのでオープンワールドの探索が全然楽しくないところ。探索しても大した報酬は得られないので、当然モチベーションも上がらない。グライダーやグラップリング、騎乗といった最近のオープンワールドでよく見られる移動要素もない……これらはあったからといって楽しくなると決まったものでもないが。俺の記憶では、本作を開発したモノリスソフトは『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』の開発にも協力していたはずだが、そこで学んだことを全て忘れ去ってしまったのか?

左トリガーにクイックメニューが割り振られているという異質なキーバインドも厄介だ。全然直感的ではないし、船に乗った時の操作にも悪影響を及ぼしている。右トリガーにアクセルがあれば左トリガーでバックしたいのが人情なのに、Bボタンがバックなのでどうにもぎこちない。

また、クエストの構造も不可解である。ストーリーの直接的な進行に関わるメインクエストとそうではないサブクエストという分け方自体はごく当たりまえだが、プレイを進めていると、

メインクエスト:サブクエスト『○○する』をクリアする

という表記をときどき目にすることがあるのだ。いやおかしくないか?理屈が成り立っていない。クリアしなければゲームを進められないなら、それはサブクエストじゃなくてメインクエストと呼ぶべきだろう。この場合、

メインクエスト:○○する

とだけ書けば済む話だ。ついでにいうと、この表記がされた状態でメインクエストを選んでいると本来の目的地への誘導が行われないという明確な実害もあるので本当にろくでもない。

全体を通して、このゲームは没入感を失わせる粗雑な仕様が目立つ。使わない要素は多く、欲しい要素は少ない。

信条に誓ってつまらない

俺の主観に基づくと、ゼノブレイド3は無駄に時間を使わせる上に面白くもなく、しかもこちらの努力を無視してくるゲームだ。プレイする度に苦痛と怒りを感じるので、早く解放されたい一心でクリアを急いだほどだ。どう甘く見積もっても、俺はこれを良いゲームだとはいえない。

だがしかし、ゼノブレイド3は世間的に概ね高評価を獲得しているゲームでもある。"集大成にして最高傑作"ということは、過去作はこれ・・に輪をかけて酷かったというのか?過去作未経験者の俺からすると、にわかには信じられない話だ。

……今は何を言うのも難儀な時代で、『このゲームはダルくてクソつまらない』という言葉はちくちくしているので使うべきではないとされる。角の立つ物言いは避け、"Not for Me"合いませんでしたなどとたわけたジャーゴンに言い換えるべきであると。

いわば家具の角に付けるスポンジでいたいけな赤ちゃんを守ろうとするような扱いを、いい大人がお互いにやりあっているのだ。何かを評価するにあたって配慮が必要なときはもちろんあるだろうが、それ以上に必要なのは率直さであり、誠実さである。ほとんどの場合、こうした小賢しい言い換えは己が忖度まみれの腰抜けであると自白する以上の意味を持たない。

俺は自らの信条に従ってこのゲームをプレイし、苦しみ抜き、それでもクリアした。だから自らの信条に従って明言し、そして誓おう。

ゼノブレイド3は耐えがたいほどにダルく、つまらないゲームである。

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