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【映画制作】 女性が機材を運ぼうとしている時に、男性は手助けするべきなのか

こんにちは!

アメリカの大学で映画制作を学んでいるリンです。

私はたまに、耳が暇な時に"Team Deakins Podcast"というポッドキャスト番組を聴くことがあります。司会はアカデミー賞撮影賞を2回受賞したことのあるベテラン撮影監督ロジャー・ディーキンスと、その妻でありスクリプト・スーパーバイザーとして働くジェームス・ディーキンスです。

このポッドキャストでは毎回ゲストが招かれ、ディーキンス夫妻がゲストにインタビューをするという形で番組は構成されています。

この番組では普段、経験豊富な映画製作者が招かれがちだと思います。しかし、最近公開されたエピソードでは珍しく、若いカメラ練習生の女性がゲストでした。そのため、私は自分と同世代の女性がこの番組に出演するのも珍しいと思い、興味をそそられて早速聴いてみました。

すると、このエピソードの中盤あたりで、ジェームス・ディーキンスがこのカメラ練習生Monaya Abelさんにこんな感じの質問を投げかけます。

「昔に比べて、最近は映画セットで多くの女性を見るようになってきた。今の映画界に女性として入っていくのは、一体どんな感じか?」

そこでMonayaさんは、昔以上に女性が多い環境で働けることや、女性をサポートしようとする映画界の現在の姿勢にありがたく感じると同時に、いくつか気に触る小さな出来事はあったと言います。

例えば、彼女が一人でトラックに機材を運んでいる時に、セキュリティの男性陣が「お嬢ちゃん、手伝おうか?」と言って彼女を手伝おうとしたらしいのですが、その瞬間に彼女は「結構です!」とキッパリ言い放ち、一人で機材をトラックに積み込んだそうです。「手伝ってくれるのはありがたいけど、私の仕事だから私にやらせて欲しかった」とのことでした。

この話を聴いて、私もふと考え込んでしまいました。女性は平均的に男性よりも小柄であることが多く、重い機材などを取り扱うのは一般的に男性の方が得意だとされています。

私が今学期とっているCinematography (撮影) やDirecting (監督) の授業でも、重いスタンドや大きな照明、カメラ機材を日常的に取り扱います。すると、それらを運ぶ時、どうしても男子の方が女子よりも前に出てしまうのです。

私が照明を運ぼうとする時も、男子がすぐに「僕がやるよ」と言って、私には片手で持てるほどの軽めのものを運ぶように促すことがたまにあります。

もちろん、それは彼らなりの優しさだと私は解釈しています。映画制作は、スタッフ同士が協力して助け合わないといけないというのが前提です。そのため、自分が困っているときに誰かが助けてくれるのは素晴らしいことです。しかし、それと同時に、私だって男子と同じくらい機材に触れながら、機材の扱い方を学びたいのです。

しかし残念ながら、撮影監督の世界では男性の方が活躍しやすいようになってしまっているのではないかと思います。例えば、「ブラックパンサー」や「マッドバウンド 哀しき友情」を手がけたレイチェル・モリソンがアカデミー賞史上初めて女性として撮影賞にノミネートされたのは、2018年のことです。

アカデミー賞史上初である女性撮影監督のノミネートが、これだけ最近の出来事である現実を目の当たりにすると、どうしても複雑な気持ちにならざるを得ません。少しずつ前進していることに喜びを感じるとともに、その変化のスピードの遅さに絶望してしまいます。

私も撮影の授業の教室を見渡していて「これは女性よりも男性の方が活躍しやすい世界なのかもしれない」と思ってしまうような瞬間がいくつかあります。

授業内のアクティビティでも授業外のグループワークでも、機材の数は限られているので複数人で一つ一つの機材をシェアしなければなりません。そうすると、背が高く力も強い人ほど大きい機材を扱う仕事を任されるため、全体的に男子の方が女子よりも大きな主導権を握ることになります。また、先ほども言ったように、女子が何かを運ぼうとしても男子がすぐに「僕が運ぶよ」と前に出てしまい、女子が手持ち無沙汰になってしまうこともあります。

本来ならみんな対等な立場にいるはずの映画学校内ですら、もう既にこのような差が生まれてしまっているのです。実際のプロの世界で女性の撮影監督が多くない理由も、なんとなくわかる気がします。

でも、だからと言ってこのままでいいとは全く思っていません。

女だって機材の扱い方を学びたいし、仕事をしたいんです。もちろん、自分だけの力ではビクともしない機材を私だけで運ばせろなんて言いません。しかし、私でも運べるくらいの大きさの機材まで「僕が運ぶよ」と言われてしまうと、私はきっと自分が女だからレディ・ファースト的な感覚で手伝われているのだろうなと感じるのです。

そんな中、私が聴いていたこのポッドキャストのエピソード内で、Monayaさんがこんなことを言いました。

"I think it's more important that people are given space to do their job."
(人には、その人自身の仕事をするスペースが与えられるべきだと思う)

つまり私たち女も、自分に任された作業は自分でこなすくらいのスペースが欲しいのです。映画制作はどこまでも共同作業ですし、お互いを支え合いながら作業に取り組むべきなので、手伝ってくれる人にはとても感謝しています。しかし、手伝いが本来なら必要のない場面でまで女性を手伝うことは、時にその女性から仕事を奪ってしまうことになりかねません。

だから、もしこれを読んでくださっている男性の映画関係者の方が居たらぜひ伝えたいのが、「もう少しだけ、私たちにも作業を任せてください」ということです。たとえそれが、力仕事であったとしてもです。手伝いや助けが欲しいときは、きっとそう伝えます。

もし女性に手伝いが必要だと判断した際は、「僕がやるから任せて」ではなく、「手伝いは必要ない?」というように言い換えるだけでも変化が生まれると思います。そうすれば、「ありがたいけど大丈夫。私がやる。」と女性が言いやすいスペースが生まれるからです。

また、「手伝わなきゃ」と思った時、それは果たして相手が"女性だから"レディ・ファースト的な感覚で手伝おうとしているのか、それとも相手が男性でも同じように手伝うのか、自問してみて欲しいと思います。

小さなことだと感じる方もいるかもしれません。でも、求められているのは、女性に任されたタスクを女性自身がやらせてもらえるだけのスペースです。それが尊重される撮影現場こそ、女性が心地よく働ける場所になると私は信じています。

ここまで読んでくださってありがとうございました。それではまた!

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