見出し画像

認知症と睡眠 -不眠症薬ベルソムラが髄液中アミロイドβやタウリン酸化濃度を低下させる-

はじめに


質の低い睡眠が、アルツハイマー型認知症患者の脳内アミロイドβやリン酸化タウの増加に関連していることは以前より知られていました。今回不眠の薬でよく使用するスボレキサント(Suvorexant, 商品名:ベルソムラ)が、人の髄液中でアミロイドβとリン酸化したタウ濃度を減少させたという論文があったので読んでみました。
参考になれば幸いです。


論文


Suvorexant Acutely Decreases Tau Phosphorylation and Aβ in the Human CNS
Ann Neurol. 2023 Jul;94(1):27-40. doi: 10.1002/ana.26641.Epub 2023 Apr 20.

要旨


目的
アルツハイマー型認知症では、過度にリン酸化されたタウが不溶性神経原繊維変化(NFT)の形成に関与し、神経細胞脱落と認知機能悪化と関連する。dual orexin 受容体拮抗薬が、アミロイドβを過剰発現させたマウスで可能性アミロイドβとアミロイド斑を減少させることが報告されている。しかし、リン酸化タウへの影響についての報告はない。スボレキサント(Suvorexant, 商品名:ベルソムラ)はdual orexin受容体阻害薬であるが、人でのアミロイドβやタウ、リン酸化タウへの影響について、RCTで検証する
方法
45-65歳の認知障害のない38人を、プラセボ群、スポレキサント10mg群、20mg群にランダムに割り付ける。脊髄カテーテルをもちいて、髄液6mlを2時間ごとに採取し36時間にわたって検証した。検体でアミロイドβ、タウ、リン酸化タウを免疫沈降法、液体クロマトグラフィー-mass spectrometry で測定した。
結果
タウのリン酸化部位であるT181でのリン酸化割合pt181tau/t181tau がプラセボに比較し、スボレキサント20mg投与群で10-15%低下した。しかし、S202, T217の部位ではリン酸化は有意な差は認めなかった。
スボレキサントはプラセボ群と比較し、薬剤投与後5時間後でアミロイドβを10-20%減少させた。
考察
スボレキサントは人の髄液中でのタウのリン酸化やアミロイドβ濃度を減少させた。

論文を読んでみて


最近、新しいアルツハイマー型認知症の薬がニュースにでているので、よく患者さんやご家族と外来で新薬についてお話することがあります。認知症は社会全体の問題であり、少しでも発症抑制が重要と思います。
今回の論文は少数例の短期間の結果であり、スボレキサントを内服すれば認知症進行抑制になるという結論に至りませんが、スボレキサントはFDAの認可をとった不眠症治療薬であることからはアルツハイマー型認知症の治療薬としてのポテンシャルはあると思います。
今回の論文では睡眠の質自体は変わりがなかったとのことで、睡眠への作用とは別の機序でのスボレキサントによる効果が考察されていました。
もちろん認知症発症予防には質の良い十分な睡眠をきちんととっていることが重要であることには変わりないと思います。
参考になれば幸いです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?