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#29 食べ物の好き嫌いに個人差があるのはどうして?【ニューロ横丁10軒目:食べ物②】

 みなさんは苦手な食べ物がありますか?苦手な食べ物が、1つや2つあるならまだいいものの、あれも食べられない、これも食べられない、という人をたまに見かけますよね。

 このように、食べ物の好き嫌いの種類や程度に個人差があるのは、どうしてなのでしょう?今回も「食べ物」について深掘りしていきます。

生まれた赤ちゃんがみんな好きな食べ物とは?

 「私はこれしか食べません」「これもあれも食べません」というような、偏食の人たちが、みなさんの周りにも1人や2人いると思います。このような偏食は、摂食行動として、もはや障害レベルということもできます。栄養の多様性という意味では、あまりにも単一化されてしまっていて、栄養的に危ないような食行動は危険を秘めていることもあります。これは、単なる好き嫌いの次元ではなく、病的なものを感じます。それに関して、生育環境はとても影響しており、生まれつき食べ物の好き嫌いは多少存在します。

 生まれた赤ちゃんに、砂糖水や酸っぱい水、苦い水など色々食べさせると、基本的に赤ちゃんは、酸っぱいものと苦いものを食べると号泣してしまいます。そのため、私たち人間が生まれつき好きなものは、スクロースといって砂糖などの甘い味であると言われています。苦味や酸味は元からあまり好きではないのです。しかし、大人になっていくと、脳が学習をしていきますよね。

 例えば、コーヒー牛乳を飲んでみると、カロリーや甘み、コーヒーのフレーバーを学習していき、だんだん苦いものが飲めるようになっていきます。それこそ、第1回に放送したビールも、脳の学習で好きになるという話でした。

 生まれつき嫌いな苦いものも、学習によって食べられるようになっていくのです。学習は要するに、経験とも言えます。こういうフレーバー、香りのものを食べると価値がある、ということを脳が学習していくと、肯定的にだんだん好きになっていきます。

 赤ちゃんでも、お母さんが何を食べていたかで、嗜好が変わるという話もあります。例えば、アニスという少し変わった香料の成分を食べていたお母さんから生まれた赤ちゃんは、その香料に対して興味を示して好きになる、と言われています。妊娠中にお母さんが何を食べていたかによって、赤ちゃんの好みにも多少影響されるのです。

 また、子供から大人になるにつれて、それほど好きではなかったものが、だんだん好きになっていくこともあります。例えば、酸っぱい蟹酢や苦い魚の肝など、お酒のツマミでいうと、お酒と食べるから価値があって好きになっていくこともあるのです。このような組み合わせによる価値を、マリアージュというのですが、食べ物と飲み物の組み合わせによって、1 + 1=5になるようなことが起こります。

好き嫌いの多い子供に美味しくご飯を食べてもらうには?

 好き嫌いでいうと、以前スープの好みの研究で、何十人という人のデータをとったことがありました。一人当たり40種類ほどスープを飲んでもらい、好みを何日かかけてデータとして取るのですが、人の好みの類似性は0に近いことが分かりました。薄味が好きな人もいれば、香ばしい香りが好きな人もいて、本当にバラバラでした。ジェネティックなものや、生育経験のようなものもあると思うのですが、子供の頃家で何を食べていたかというのは大きく関係しそうでした。経験して脳が学習をしないと、好みは形成されないため、毎日水ばかり飲んでいたら、味のある物への嗜好が獲得できないと思います。

 子供の食べ物の好き嫌いが激しいと、子供が何も食べてくれなくて、困っている親もいると思います。子供が嫌いなものを美味しく食べてくれる方法はあるのでしょうか。先ほどのように、コーヒーやビールを人がなぜ好きになっていくのかというところでは、他の価値と結びつけていくことがあり、コーヒーだったらコーヒー牛乳というように、元々好きなものと合わさると、学習していくことができます。そのような学習を子供にもさせるのは、効果的であると思います。

 例えば、バニラの香りといえば、甘い香りを想像しますよね。しかしお菓子作りで使われるようなバニラエッセンスは、舐めてみると実は甘くないのです。バニラエッセンスに糖分は含まれていないのです。ではなぜ私たちがバニラの香りが甘くて美味しそうで好き、と思うのかというと、それも全て学習なのです。砂糖の味と白い見た目と牛乳のカロリーに、バニラの香りというものが、子供の頃から頭の条件付けされ、バニラの香りを嗅ぐだけで、甘そうと思うのです。ということは、子供が苦手なピーマンなどを、どうしても食べさせたかったら、その子が元々好きなものに混ぜてあげて、すごく美味しい味なんだけで、ピーマンの香りがするというようなことをやっていくと、気づいたらピーマンを好きになっている学習をさせることができます。

 かき氷のシロップも、目隠しをして食べると何味を食べているかわからない、という話を聞いたことがある人もいると思います。そういうのも、赤い見た目をしているから、イチゴの味がするのだろうと、脳が勝手に確信してしまっている結果なのかもしれません。

 これと似たような実験で、サーモンのお寿司をリアルタイムでVRにかけて、美味しそうな中トロの見た目にして、VR上で食べてみると、本当にマグロの味がするというものがあります。これをクロスモーダルと言うのですが、視覚や見た目の情報が味覚体験を変えてしまうことができるのです。赤いとイチゴっぽい、青いとブルーハワイっぽい、油があると中トロっぽい、バニラの香りがあると甘い感じが強くなると言うように、人間は生きてきた中で香りや見た目、味などの色々な刺激と結びつけて学習しているため、それが相互に体験を増幅しあったり、相互作用を生み出して私たちの今の食体験は作られています。

国によって食の好みが異なるのはどうして?

 では、韓国人は辛いものが好き、アメリカ人はジャンクフードが好き、というように、国によって食の好みが変わるのはどうしてでしょう?それもやはり、学習が違うからということができます。子供の頃から何を食べるのかという話でもあります。あとは、文化のなかで合理性のある選択をするという話もあります。

 辛いものに関しては、カプサイシンという唐辛子に含まれている成分があり、20年ちょっと前にこの成分が見つかりました。私たちの温覚で、アツいと思うのと辛いと思うのは同じ仕組みであるという話があります。カプサイシンを食べるのは、比較的赤道に近い国と言われていて、カプサイシン自体に抗酸化作用や防腐効果があるようです。そのため、アツいところだとカプサイシンを入れることで、食中毒を防げるといった、進化的に適応的な理由で辛いものを食べるようになっていると言われています。初めは機能的に意味のある食文化が、広まっていく過程で、嗜好が生まれてくるのかもしれません。

 日本でいったら、日本は海に囲まれている国のため、生魚を食べる文化があります。海藻を食べる文化もEast Asianだけという話もあります。そのため、海苔を消化できない国の人もいるのです。食中毒を起こしやすい環境だったら、生卵を食べることはできないし、そのような意味では食文化は技術と共に発展していっているのです。

 例えば、日本酒も昔は酵母を生かしたままだと腐ってしまうため、生酒を飲むことはできませんでした。しかし、現在は冷蔵輸送技術というものができ、クール宅急便のおかげで、みんなどこでも生酒を飲めるようになっています。そうすると、新たな食文化も生まれると思います。そのような意味で、食の好みは文化や環境もあると思いますが、技術といったところでも、多様性が生まれていると思います。

まとめ

 食の好みにはとても大きな個人差があり、基本的に好みはその人たちが育ってきた環境や、お母さんが何を食べていたか、ジェネティックな消化酵素があるか、子供の頃何を食べてきて、何が価値があると思ってきていて、どんな文化で何が美味しいと思ってきていたのかというところで、一人一人、色々な国ごとにも異なり、国の中でも変わってくるものであります。最近では輸送テクノロジーなど、フードのテクノロジーというところで、新たな食文化や好みの多様性も生まれてきています。

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日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。

  • 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜

  • パーソナリティー:茨木 拓也(VIE STYLE株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花

  • 配信スケジュール:毎週火曜日と金曜日に配信

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