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【怠けるための努力】住居費を抑える

これは「東京を出る」と並んで、「不安なく怠けるうえで欠かせないポイント」です。
というか、現代では東京を出ないと「快適性をあきらめることなく住居費を抑える」ことは難しいので「両者は不可分なもの」とお考えください。

昭和期だったら、かつての私のように東京都心部でも「快適に怠ける」ことができました。
「風呂ナシトイレ共同」タイプの安アパート(四畳半一間で家賃2万円チョイ)23区内にも数多く存在していて、選択の余地があったのです。
私も、私のビンボー人仲間たちも軒並みそういう部屋でノンキな暮らしをしてましたね。
でも今は、たとえ「学生向け」と謳う物件であっても「風呂付きが当たり前」で、そうでなければ入居者が来ないのです

だから、安アパートの大家たちは借金してでも建て替えをしてきたわけですが、そうやったからといって「部屋が必ず埋まる」という保証があるわけじゃない。
同じような打開策を講じる大家
が多いせいで学生向けワンルームも飽和状態となり「無理して建て替えたのに空き部屋が多い」なんて悲惨な結果に泣いてる人も少なからずいます。
私なんかはむしろ建て替えなんかはせず、「絶滅危惧種的『男おいどん』系安アパート」という「現代っぽくなさ」ブランド化して「昭和チックなビンボー人コミュニティ」を復活させたほうが良いと思うんですけどね。

おいどん

東京にだってもちろん今でも風呂ナシ安アパートは一定数あるかと思いますが、数が限られているので「借り手側に選択の余地が与えられない」のです。
安アパートが大量にあった昔なら「その中から『最も快適そうな部屋』を選んで住む」という自由が許されました。
私が上京して最初に住んだ杉並区の荻窪駅近物件「東京を離れる」を参照)なんて、安アパートながら下手なマンションなんか足元にも及ばないくらい快適でしたよ。

しかし「借り手側に選択の余地がない」状態だと「ここはヤだなぁ~」と思うようなヒドい部屋でも背に腹は代えられず「そこに決めざるを得ない」のです。
何軒も業者をあたってようやく出会えた風呂ナシ物件「えぇぇ~ウソだろぉぉぉ~」となるような劣悪環境であったとしても「ウチでご紹介できるはこちらだけですよ」と言われちゃったら「……はぁ……じゃ、ここで……」と手を打つしかなくなる。

しかも現代は、たとえ「狭くて古くて風呂ナシ」であっても「家賃2万円チョイ」ということは多分ないでしょう。
「無理してあと1万円奮発すれば風呂つきに住める」くらいのビミョーな家賃設定だったりして、「なら、あと1万出します……」泣く泣く無理をする人も多いのです。
その結果、風呂ナシ部屋の淘汰がいっそう加速し、それに伴って「風呂ナシ部屋住人のライフライン」である銭湯廃業も進みます。
風呂ナシ部屋が減ったから銭湯も減ったのか、銭湯が減ったから風呂ナシ部屋も減ったのか……どちらが卵でニワトリかは分かりませんが、「持ちつ持たれつ」の関係だった二者の片方が消えれば「共倒れ」になるのは「世の習い」というものです。

いまや伝説となった「戦後少年マンガ家たちの梁山泊」こと「トキワ荘」の存在は皆さんもご存知でしょう。
後の巨匠たちがその安アパート(四畳半・トイレ炊事場共同)で送った青春期を描いた藤子不二雄作品『まんが道』不朽の名作ですが、作中に描かれていた素朴な暮らしぶりが「若者の平均的なライフスタイル」だった時代が東京にも確かにあったんですよ。
「ビンボーだけど、競い合う仲間たちと夢を食らってれば何も怖くない」
こんな時代はもはやいくら望んでも戻っては来ませんが……。

トキワ荘

東京ではもう不可能となった「安い部屋の中から『より良い物件』を選ぶ」というゼータク(?)も、都心から2時間くらい離れればまだできます。
たとえば私の移住先である静岡県沼津市エリアだと、最寄りの駅から自転車で10~15分くらいまで離れれば、専有面積18 m²程度のワンルームマンション「2万円台前半(家賃+管理費)」から出ています。
同レベルの物件が複数あって、中には「宅配ボックス付き」「インターネット使用料無料」なんて謳ってるところもあったりするんです(ただし、別名目で費用加算される物件もあるので、そこにはご注意を)。

静岡県の最東端、都心から上野東京ラインでそのまま来られる熱海市だと、年数の経ったリゾートマンションタダみたいな値段(東京のマンションの敷金礼金程度)で売られていたりします。
リゾートマンションですから通常の居住用にはない数々の付加価値(たとえば共用の温泉大浴場とかスポーツジムとか住民専用プールとか)が付いてたりして、物件概要を見てるだけでワクワクしてきます。

熱海駅

ただし! 物件の安さだけに飛びついてしまうと後で泣くことになるので、こちらも注意してください。

まず所有不動産には「固定資産税」という税金がかかってきます。
物件の価値が低ければたいした額にはなりませんが、なにぶんにも毎年払うものなので「チリも積もれば」です。

また、分譲マンションだと月々「管理費」「修繕積立金」を支払う義務も生じます。
管理費は賃貸物件でも払うものなので皆さんもご存知でしょうが、修繕積立金のほうはピンと来ないかもしれませんね。
当たり前ですが、建物というのは経年劣化をするものです。
それを放置するとどんどん老朽化して様々な弊害が生じますし、物件の資産価値も低下します。
だから定期的に修繕工事をするわけですが(大規模な足場を組んでマンションの外壁塗り直しをしてる現場とか、きっと見たことがあるはず)、その時のために住民全員で積み立てていく貯金がつまり「修繕積立金」なのです。

日常生活の基盤である居住用マンションならば、これらのお金を滞納する住人はあまりいないのですが、たまにしか使わない別荘として買ったリゾートマンションの場合は納めない人間が結構いたりする。
そういう人は固定資産税も払わなかったりして、現地の税務署員を困らせがちです。
投げ売りリゾートマンションのメッカとしてマスコミにもしばしば登場する新潟・越後湯沢では、固定資産税滞納者の多い東京出張所を設けて徴収に躍起に取り組んでいるんだとか(テレビ報道でやってました)。

固定資産税滞納者には「おっ、安い!」衝動買いしたもののじきに行かなくなって「使ってもいないマンションになんで税金払わなきゃならないんだよ!?」と開き直ってる悪質な輩もいるでしょうが、「仕事が右肩下がりになって払いたくても払えない」なんてケースもあると思います。
そういう人は「もう売却したい」と思ってるわけですが、いかんせん「資産価値が低すぎる」ので売るに売れない。
「タダみたいに安い物件」には「タダみたいな値になる理由」が必ずあるので「タダみたいだから」というだけの理由で安易に手を出すのは禁物です。

熱海の話に戻りますが、私も最初は「物件の安さ」だけに目を奪われていたんですけど、付随事項をじっくり読み込むと「長い目で見ると必ずしも安くはない」という事実に気がつきました。
物件自体は確かにバカ安なんですが、月々支払う「管理費+修繕積立金」がバカに高い物件が散見されるんです。

熱海市街地

今もこの原稿を書くために不動産仲介サイトをチェックしてたんですが、「物件価格30万円/間取り1LDK/専有面積40 m²/バルコニー面積5.25m² /16階建の3階/築44年/南向き」という「一見、超お買い得!」中古マンションが出ていました。
しかし「管理費等」の項目を見たら「月6万7800円」とあってひっくり返りましたね。
この額だったら新宿駅の徒歩圏内で1DKくらい余裕で借りられますよ。

住居費にかけていい金額は一般に「収入の1/3まで」と言われてますから、この額を支払うためには東京在住者と同じく「月々20万円くらい稼ぐ必要がある」わけで、しかもローカルエリアの最低賃金東京ほど高くないから、ここに住んだら「全然怠けられない」じゃないですか!
とはいえ「物件価格30万円」という部分だけにしか目が行かなかった人もきっといるんでしょうねぇ……。

ちなみに「管理費」というのは「付帯設備がゴージャスであればあるほどアップする」ものなので、先ほどチラッと書いた「共用の温泉大浴場/スポーツジム/住民専用プール」みたいなのが揃ってる物件だとかなり高いと思っててくださいね(つまり、それらの維持費なわけですから)。
温泉大浴場はともかく、ジムとかプールとかは「使わない人は全然使わない」施設なので、「うわっ、豪華! みんなに自慢できそう」程度の理由で物件を選ぶと「無駄な維持費を毎月支払う」羽目になるので要注意です。

もうひとつの要注意事項が「修繕積立金の額」。
「月々の支払いはできるだけ少ない方がいい」と考えるのは人情というものですが、これがあまりに安すぎる「プール金が足りなくて定期的な修繕ができなくなる」恐れがあります。
この事態は「滞納者が多い」場合でも起こり、「外壁タイルが剥がれてる/外廊下のコンクリが割れだしてる」みたいな危うい状態になってるのに修繕工事ができないようなことだってあり得ます。
そこまでいってしまったマンションは転売だって出来にくいから、「オーナーが持て余す負の不動産」いわゆる「負動産」になってしまいがちです。

「怠けの達人」と私が一目置いているニートのカリスマ、pha(ファ)さんは昔、2人の仲間と熱海の温泉付きリゾートマンション(1DK)共同購入したのだそうです(幻冬舎刊『ひきこまらない』175P~「ニートが熱海に別荘を買った話」参照)。

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物件価格は90万円台ですが、頭割りなので1人あたりの負担は30万円くらいで、その程度の支払いなのに「温泉入り放題」「海上花火が特等席で鑑賞できる」とあって、当初はかなり満足していたそうです。
しかし御多分に漏れず「徐々に足が向かなくなった」うえ、管理費温泉使用料がそれぞれ月1万円かかり、更にそこへ固定資産税+住民税+別荘税(日本で熱海市にだけある税金)がかかってくるので、やはり負動産化してきたといいます。
三等分なのでphaさんの負担額は「年間13万円程度」だったそうですが、それでもやはり「ろくに使わない別荘のために払い続けることへの抵抗は大きかった」んだとか。

それに加えて、このマンションでは「元々あった管理組合と後で作られた管理組合のいさかい」があり、そのせいで修繕積立金がちゃんとプールされてなかったのか、phaさんたちは「老朽部分の修繕工事の分担金(提示された額は100万円くらい)を払ってほしい」と言われたそうです。
「年13万円の支払いだって嫌なのに、そんな大金まで負担するなんてジョーダンじゃない!」と嫌気がさしたphaさんたちは物件を、売主だった不動産屋に「8万円」で売却したといいますが、このような話はひょっとしたら「リゾートマンションあるある」なのかもしれませんね。

熱海遠景

「東京だと物件価格も家賃相場も高い。だから東京外で安い物件を買おう」と考える方に私が忠告したいのは「あまりに安すぎる家は要注意だよ」ということです。
くどいようですが、不動産価格が総じて安い地域であっても「相場」というのが当然あるわけで、「相場から極端にはずれた物件」には「その値をつけざるをえなかった理由」が必ずあります。
先人たちが言ったように「タダより高いものはない」のです。

伊豆半島あたりでは「事務手数料のみ買い主負担の実質ゼロ円物件」もちょくちょく流通してますが、それらは大抵、親から譲られた(実質「押しつけられた」)資産価値ゼロ物件「持っていると維持費ばかりかさんで大変」だから厄介払いしたいのです。
資産価値があるなら売るなり貸すなりしてますよ。
そういう物件は高確率で「人里離れた山中の別荘」なんで、「街の暮らし」しか知らない人の手には負えません。
そこまでのヘキ地ではないにしても、物件がかなり傷んでいる場合、そこを普通に住める状態にするには「数百万円のリフォーム費用」「数カ月から数年単位のセルフリノベーション期間」がかかったりします。
連ドラ版『北の国から』みたいな暮らし方をするくらいの覚悟があるなら止めませんが、そうでないならやめといたほうが身の為ですよ。

また近年は、専門家が「数十年に一回レベル」と呼ぶ天災が毎年訪れるニューノーマル時代です。
たとえば山間の格安物件を買ったとして、住み始めてから災害レベルの大雨に見舞われたらどうなるでしょう?
落石や倒木で道が通行止めなったり、水道施設が壊れて断水になったり(郊外部には公共水道が通っておらず私設水道でまかなってる地域も結構あります)することもありますし、大量の雨水が沁みて土がもろくなって「家の建つ土地が崩れた」「家の裏山が崩れた」なんてことだってあり得ます(実際、全国規模で被害が起きてます)。
公の災害復旧は「より多くの住民のいる区域」からまず始まりますので、ただ「安いから」というだけで市街地から遠く離れた地域に住むのは万一の際のリスクが大きいのです。

山間部

自分の移住用に調べた結果で言えば、賃貸だったら「月々の固定負担が2万円台の物件」が、購入だったら「東京だと35年ローンの頭金にしかならない額(1000万円以下)で一括購入できる物件」が、私のオススメ。
よその地域のことは分かりませんが、私の移住先だとこの程度の額が「安すぎず高すぎず」「ほどよく怠けやすい住居費用」ですね。
これより高い金額だと「東京を出る意味がない」ですし、逆に安いと「何か裏がありそうで怖い」と思います。

というわけで、今回のまとめです。
理想的な「怠けライフ」を送るためには「住居費を抑える」ことが必須だけれど、「ただ安ければいい」わけではない。
ポイントは「ほどほどな安さ」であり、それは現代ならばネットでいくらでも調べられます。
「自分の住みたい自治体名」「不動産」「賃貸」などのワードを打ち込んで検索すれば現地の仲介会社の取り扱い物件がずらずらと出てきますので、それらをひとつひとつじっくり見ていってください。
あと、余裕があればたまに移住希望地まで足を運び、実際に歩いて現地の雰囲気を体感したり、商店の充実度を調べたり、不動産会社の店頭情報をチェックしたりするのもいいですよ(私はこれにかなりの手間暇をかけました)。

あとで悔やむことのない(「安物買いの銭失い」にならない)「賢い住居費削減」をするためには「移住地の事前リサーチを怠らない」のが鉄則。
これもまた「怠けるための努力」のひとつです。
今回のアドバイスを参考にして、みなさんもどうぞ「楽しく怠けるための生活基盤」を手にしてくださいね。

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