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晴天、桜、焼きたての肉。

新年度になって、住んでいる地域の桜はふんわり散ってゆき、若葉がつんつんと混じっていた。
昨年の今頃はコロナの流行、緊急事態宣言の発令で、予定されていた恒例行事ほぼ全ての中止を余儀なくされてしまっていた。地域の掲示板で今回のお祭りの開催のお知らせを見た時は多少不安ながらも本当に心が躍った。

バスに乗って最寄りのバス停へ着くと、会場となる大きな大きな城跡の公園へ歩いてゆく。みんなマスクは勿論、各々のバッグに消毒ジェルをぶら下げたりと、自衛をして楽しいお祭りに向かう。鴨や鯉の泳ぐお堀の桜を見上げてシャッターを切ったり、花弁が舞う中を船が進んでいたり、舞う桜に喜んだり、こんなにも人々の足取りがうきうき軽いのを見るのは久しぶりだった。

息子と手を繋いで公園入り口に着くと、入場ゲートとテントが設置されており、爽やかな係員のお兄さんが検温と消毒の必須をメガホンでお知らせしてくれていた。検温をしてもらい、テントに入ると大きな加湿器のようなマシンから消毒ミストが噴き上がっていた。何台も設置されており、ミストを全身に振りかけられる形で入場出来るのだった。

消毒テントを抜けた途端視界に2年ぶりの屋台が広がった。イベント音楽や、ソースの香りやジャンクフードや甘い砂糖の香りがふわわ〜っと流れてきて、「おいしそう!たのしそう!!」と、息子は狂喜乱舞。
ああーーー、これ。これが見たかったよ!!!

全員きちんとマスクをしてても久しぶりに見ることができたお祭りのお客さんや、沢山の屋台や特設ステージ、イベントに出演する人たちの緊張の面持ち。全店舗、飲食スペースにも10mおきに設置された、手洗い消毒コーナー。普段向こうから歩いてきたら道を避けるようなパンチパーマのオヤジさんでさえ愛おしい。
眼孔の鋭さが隠しきれないオヤジさんから真っ青なバナナチョコを受け取って一口食べた息子は「きゃ〜〜!おいしーー!!ママ美味しいよ、食べてみて!!」とほっぺたをチョコまみれにして大喜びだった。

ほんわかしながら歩いていると、すぐそばで
「おいっしいハラミ串いかがですかー!!」と、からっとした売り子のお兄さんの声と同時に、あつあつの鉄板に肉がいっぺんに乗ったジューーウウウゥ!!!というすばらしい音が聞こえてきた。
凡そその場にいたほとんどの人が振り返った。やんわり間隔を開けた大きな列が速やかに作られ、みんな遠目に鉄板を覗き込んでいた。マスクはしていたが多分みんな口開けてたと思う。もう楽しくてちょっとも待てない息子は、すぐそばにあった大きな滑り台で遊びながらこちらを見ていた。

お待たせしましたー!!と焼き上がり次第手渡してくれたハラミは暖かい日光の下できらきら光っていた。
ウェットティッシュを取り出して手を拭き、串を取り出して一口、焼き立てのお肉を噛む。
筋のないハラミが、じゅわりとほぐれた。
なんだか飲み込むのが勿体無いのに、すぐに口の中で消えてしまう。

あちこちで聞こえる、いただきまーす 次これ食べたい!の声、クジの景品や公園の遊具で存分に遊ぶ子供たち。滑り台の静電気で髪が逆立った息子が「ママー!たのしーー!!」と手を振っている。

日常ってこんなに幸せだったんだなあ。
あったかい正午の陽の光、おいっしいお肉、駆け寄ってくる息子の満足そうな顔に、思わず泣き笑いして、マスクに涙が染みた。

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