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【第58回】松下隆一『春を待つ』PHP研究所

NetGalleyラジオ番組「ネットギャリーで発売前の本を読む」
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【第58回】
放送日:2021年3月16日(火)7:20~
※著者 松下隆一さんのコメントを収録!

★『春を待つ』
松下隆一
PHP研究所
刊行日 2021/03/18
NetGalley作品詳細ページはこちら
https://www.netgalley.jp/catalog/book/216784


《内容紹介》
愛する家族を喪った者たちの絶望が希望に変わる日
愛する息子を喪い、未来をなくした夫婦は悲しみの果てに離別。
平和だった家族は崩壊した。
それから数年を経た命日の前日、夫は過去を忘れるために、息子の骨壺を抱え、心が凍てつき暗い家に引き籠る妻を訪ねる。
だがその途上、夫は実の両親を亡くした少年と出会い、妻の家に一緒に泊まることに。
その日から心に仄かな灯が生まれた。
3人の孤独な魂が寄り添う時間のなかで、それぞれの絶望が希望に変わり、夫婦は再生の路に立ち、少年は未来に向かって歩みはじめる。
「人は少しずつよくなるしかない、少しずつ幸せになるしかないんだ……」

第1回京都文学賞受賞作家であり、NHK『雲霧仁左衛門』など、映画やドラマで絶大な影響力を誇るベテラン脚本家が、人間の業、そしてどん底から這い上がる人の強さと家族の絆を感動的に描く。



《編集担当者さんよりおすすめコメント》
文字を見ただけで情景が目に浮かぶ、少し読み進めるだけで文字だけの世界にいる人間がいきいきと走り回り、目の前にいるかのように 話りかけてくる……。そんな文章を書けるける書き手がごく稀にいる。この場合、作家、ライター、編集者といった肩書は関係ない。そんな書き手はプロでも多くはないからだ。

『春を待つ』を書いた松下隆一さんは間違いなくそんな稀な書き手の一人だ。松下さんの紡いだ文章は、読む人の頭の中で確実に鮮明な映像になる。

それは松下さんの本業が脚本家だからだと私は思っている。世界的名作映画『羅生門』や『雨月物語』に携わった元大映京都撮影所の出身のスタッフたちから、カツドウヤ魂を叩き込まれた経歴は伊逹ではない。松下さんの書いた文章は、読むそばから映像化されるので、読む方からすればページをめくる手が止まらなくなる。たとえそれが人間の負の部分を描いた作品でもだ。

じつは松下さんとは、ビジネス誌の取材や経営者の自伝などの仕事を一緒にすることもたびたびあった。そのときに思うのは、松下さんがその人のことを書くときに最も知りたがるのは、その人の内面にあるもの、表面的な取材ではなかなか見えてこないものにあるということだ。あえてその人が語りたがらない部分を聞き出して書き、あるいは推察して行間にさりげなく挟みこむ。人間観察があまりに鋭くて怖くなるほどだ。

考えてみれば年月を超えて残っている文学も映画もみな人間の内側をえぐり出している。中にはあえて目を向けることにためらいがちなものもある。しかしそれをいかに説ませるかが書き手の腕というものだろう。

『春を待つ』という作品は燦燦とした明るい物話ではない。むしろ崩壊した家族、絶望の中で必死に生きている人の物語だ。しかし決して暗くはない。春のやわらかな光がひと筋さしているような物話だ。私は本当の意味で明るいというのはこのような物話だと思う。


絶望から人はどう希望を見出すのか、どう一歩を踏み出すのか、救われるというのはどういうことなのか…。さまざまなことをこの物詔は教えてくれる。

私は、『春を待つ』は令和を代表する文学作品だと自信をもっていえる。

まずは1ページだけ読んでいただきたい。その労力だけで最後まで目が離せなくなるだろうから。

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