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ありえない設定なのになぜ面白い? 緻密な脚本で感情を揺さぶる最旬韓国ドラマ

不滅の命を持つトッケビと人間の恋を見つめた「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」、宇宙人と女優の恋を描く「星から来たあなた」など、ファンタジー色の濃い物語のなかでリアルな人間関係を描くのは、韓国ドラマのお家芸。国境線を越えて韓国の財閥令嬢と北朝鮮のエリート大尉が恋に落ちる「愛の不時着」もありえない設定といえるけれど、緻密な脚本とスター性のある俳優たちのきらめきですべてを乗り越えてしまう面白さがあります。

今回はNetflixで独占配信中の韓国ドラマのなかから、荒唐無稽な設定と感情を揺さぶる物語が同居している作品を、韓国ドラマ通の映画ライター細谷美香さんがピックアップ。笑って泣いて考えて、大人の心にも染みるドラマが揃っています。

AIの無償の愛に涙腺が刺激されるSFラブストーリー
愛しのホロ

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仕事でクタクタになった夜、もしもすべての望みを叶えてくれる理想的な人が目の前に現れてくれたならーー。「愛しのホロ」はそんな願いを具現化したような完璧なAIが登場するドラマです。映画『her/世界でひとつの彼女』(13)には声だけで主人公を導く人工知能との恋が描かれていましたが、このドラマのホロは癒し系のイケメン。人知れず失顔症という悩みを抱えているソヨンは、最先端技術を駆使したメガネを偶然手にしたことで、AIのホロとともに過ごすようになります。

メガネをかけるだけでいつでも現れて、雨が降れば傘のかわりに手をかざし、残業を押し付けられた夜には光の速さで資料を片付け、セレブをもてなすパーティでは顔と名前をこっそり教えてくれる有能なアシスタントに。ときには寂れた屋上に温かな光を灯してくれるホロは、穏やかな優しさに満ちています。

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そしてもうひとり、ソヨンの前に現れたのはホロとまったく同じ顔をした開発者のコ・ナンド。触れられないけれど心優しいホロと、触れられるけれど冷たいナンド。ユン・ヒョンミンのひとり2役の演じ分けも鮮やかで、ふたりの間で揺れ動くソヨンに感情移入してしまうこと必至です。

ナンドがホロのフリをするときには素直な思いを言葉にできるという、キュンとするシーンも。ありえない三角関係の真ん中にあるのは、地上に舞い降りた天使のようなホロの無償の愛。最後にはみんなの幸せを願いたくなる、遠赤外線のようにじんわりと心を温めてくれるSFラブストーリーです。

人と人との繋がりを見つめる笑いと涙のヒーリングドラマ
サンガプ屋台

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真面目でまっすぐに生きる人ほど損をしてしまうのが世の常。声なき叫びをすくいとり、誠実に生きようとする人へのエールを送ってくれる、笑って泣けるヒーリングドラマが「サンガプ屋台」です。

特別なお酒を飲むことでお客さんの夢のなかに入る能力を持つ、サンガプ屋台の女将、ウォルジュ。前世での罪を償うため、閻魔大王から10万人のお客さんの問題を解決して恨みを晴らすように命じられています。サンガプ屋台の管理人は、あの世では刑事だったクィ班長。この屋台で、体に触れただけで悩みを告白されるという特殊能力を持つ青年、ハン・カンベがアルバイトとして働きはじめます。

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気性は荒いけれど自分なりの正義感を持つウォルジュが美しくてチャーミング。「キルミー・ヒールミー」など数々のヒット作に出演してきたファン・ジョンウムは美魔女というより魔女っぽいキャラクターを楽しそうに演じていて、コメディ的なパートを盛り上げています。BTOBの末っ子ソンジェも不器用な青年カンベを愛らしく演じ、好感度がさらにアップ。

コミカルに描写されるあの世の仕組みで笑わせ、職場での上司からのセクハラや妻の死など様々な問題を抱えた人々の物語でしんみりと泣かせ、恨みを晴らすたびに観る者の胸もスカッとさせる。にぎやかにはじまるドラマですが、終盤に向けて深い愛と奇跡的な縁に涙腺が刺激される展開も。1話完結で進んでいくストーリーのなかに、感情を揺さぶる要素がたくさん盛り込まれています。

時空を超える“白馬の王子様”との運命に胸が締め付けられる
ザ・キング 永遠の君主

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ファンタジー色の濃い設定と、リアルな温度感の恋愛描写の両方を楽しみたい。そんな人にぴったりなのが、「トッケビ〜君がくれた愛しい日々」「シークレット・ガーデン」「太陽の末裔 Love Under The Sun」など、ユニークな設定を得意とするキム・ウンスクが脚本を手がけた「ザ・キング 永遠の君主」。「花より男子~Boys Over Flowers」以降アジア圏でスターパワーを発揮し続けているイ・ミンホと「トッケビ」のキム・ゴウンが共演し、話題を集めたドラマです。

イ・ミンホが演じるのは、謀反によって早くに父を亡くした大韓帝国の皇帝、イ・ゴン。謀反の夜に現場に残されたIDカードを頼りに自分を助けた人を探し続ける彼はある日、時空を超えて2020年のソウルへ。IDカードの写真の女性、刑事のチョン・テウルと出会います。スケール感のある世界観と、かつてつながりのあったふたりの関係をめぐる運命の物語には、まさに「トッケビ」を思わせるときめきがたっぷり。

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現代とパラレルワールドを行き来するというアクロバティックな展開に説得力を与えているのは、もちろんイ・ミンホの麗しい存在感です。現代のソウルの街に白馬に乗って現れてもまったく違和感がないどころか、「やっと会えたな」なんてセリフを自然に口にできるのは彼が真のスターだからこそではないでしょうか。ふたつの世界を舞台にした“遠距離恋愛”だけに、いつも別れ際は切なさマックスに。ちりばめられた謎や伏線を回収しながら、ぎゅっと胸を締め付けられるラブストーリーにも浸れるはずです。

特殊なパワーを持つ保健教師が投げかけるメッセージ
保健教師アン・ウニョン

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映画『82年生まれ、キム・ジヨン』(19)でも実力派女優としての存在感を示したチョン・ユミが、特殊なパワーを持つ主人公を演じたのがこのドラマ。「フィフティ・ピープル」で韓国文学界の若き旗手となったチョン・セランの「保健室のアン・ウニョン先生」を映像化した作品です。

子供の頃からアン・ウニョンに備わっていたのは、人に害を及ぼす“ゼリー”が見える能力。赴任した高校で不思議な出来事が次々と起こり、「スタートアップ:夢の扉」でもさらにファンを増やしているナム・ジュヒョク演じる素朴な漢文教師、ホン・インピョとともにさまざまな謎や邪悪な敵と戦う様子が描かれていきます。

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初回から惹きつけられるのは“ゼリー”の描き方。ネバネバと糸を引いたり、ピンクのハート型になったり、ときには新種のモンスターのようにうごめいたり……。生徒の体からゼリーが引き出されるシーンなど、いわゆるボディ・ホラーのような斬新な映像も織り込まれています。アン・ウニョンが光り輝くおもちゃの剣で立ち向かう姿や、つい口ずさみたくなるようなテーマソングには、ポップでシュールな楽しさも。

そしてもちろんこの作品の魅力は、オリジナリティあふれる映像だけではありません。遊び心のある映像から、謎の教団の存在や高校生たちの切実な悩み、女性たちの生きづらさまでもが浮かび上がってくるのです。自分の能力を生かして生徒たちに手を差し伸べるアン・ウニョンが、最後にどんな選択をするのか。心を揺さぶる、現代女性の生き方への問いかけを受け止めてみてください

不思議な玉で別人として生き返ったふたりの運命は?
アビス

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婚約者に逃げられてビルから飛び降りようとしていたチャ・ミンは、宇宙人が運転していたUFOにぶつかって死亡。焦った宇宙人から魂を蘇生させる不思議な玉“アビス”を手渡され、別人のルックスで復活する。……という冒頭から荒唐無稽でファンタジー要素が濃い設定にも関わらず、テンポのいい展開で冒頭からグイグイと引き込んでいくドラマ「アビス」。  

サエないルックスから超絶イケメンに生まれ変わった心優しい御曹司のチャ・ミンと、高嶺の花的な超絶美女から親しみやすいルックスに生まれ変わったエリート検事のコ・セヨン。ふたりがセヨンを殺した犯人を探すところから、物語がはじまります。

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定番の入れ替わり系をアレンジしたファンタジー、性格の違うふたりのラブコメディ、そして事件の真相をめぐるサスペンスと次々に転調していく物語を引っ張るのは、ケミストリーを感じさせる魅力的なふたりのキャスト。溌剌としたセヨンをキュートに演じたパク・ボヨンと、男性も振り向く清潔感あふれるイケメンを演じたアン・ヒョソプ、身長差カップルのロマンスが盛り上がっていく展開には、胸キュンもしっかり組み込まれています。謎解きのスリルとラブストーリーの高揚感、その両方を一気に楽しみたい人におすすめのドラマです。

文・細谷美香

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