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リアリティ番組は「普通の人」が人生の教科書になる|ネトフリ編集部座談会

生きている人間たちの姿とことんさらけ出すリアリティショーは、仕掛けやセットだけが用意され、あとはぶっつけ本番な世界。

モヤモヤ満載の恋愛模様を描く「ザ・ジレンマ: もうガマンできない?!」、デザインの才能がぶつかり合い花開く真剣勝負「ネクスト・イン・ファッション」、住まいからこだわりと生き様が浮き彫りになる「拝見! こだわりの住空間」などなど。非常にバラエティに富んでいるにも関わらず、Netflixで作品を選ぶとき「リアリティ番組」というひとつの“ジャンル”にまとめられています。

「そんなのもったいない!」

と、大のリアリティ番組ファンのネトフリ編集部・ちょこが、おすすめ番組を全力プレゼン。リアリティ番組初心者の編集部員とともに、その魅力を語り合うプチ座談会を開催しました。

ネトフリ編集部 ちょこ:ノンフィクション・ドラマやドキュメンタリー映画、リアリティ番組が好き。アニメ「進撃の巨人」をきっかけにアニメの扉を開き始め、リアルと想像の世界を往来エンジョイ中。
ネトフリ編集部 新里 碧:旅と工作と古いものが好きなイラストレーター/取材漫画家。好きなネトフリ作品は「ストレンジャー・シングス」と「ノット・オーケー」。最近のおすすめは「デリー・ガールズ」。
ネトフリ編集部 伊藤:アニメ好き。邦画、明るいコメディ中心にチェック。「クィア・アイ」はメンバーの著書も購入済のファン。

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気になるキャラが心に秘めた理想の自分?|セリング・サンセット ~ハリウッド、夢の豪華物件~

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ちょこセリング・サンセット ~ハリウッド、夢の豪華物件~」(以下、セリング・サンセット)の舞台は、LAの超高級物件を取り扱うセレブ専門のオッペンハイム不動産。そこで働く美しすぎる営業ウーマンたちを追うドラマ仕立てのドキュメンタリー番組で、最大の魅力は主軸となる6人の女性たちのマウンティングバトル。シーズンを重ねるごとにヒートアップしてゆくから中毒性もすごい。

みんな個性が強くて、恋愛事情や人間関係が絡むと昼ドラみたいな喧嘩をして、どこに地雷が落ちてるか分からない状態。それをハラハラ、イライラしながら見守りつつ、彼女たちが扱うLAの圧巻の豪邸が爽快感をくれる。ドロドロした人間味とゴージャスな非日常が交互にやってくる構成はなんとも新しい浄化を提供してくれます。視覚で感じる心の浄化というか、その発想がめちゃくちゃ面白くて、飽きずに見れるんです。

新里:この不動産屋さんは実在するんですか?

ちょこ実在する。なので本当は「セリング・サンセット」はドキュメンタリー番組になると思うんだけど、自ら「リアリティ番組」と銘打ってるんですよ。ドキュメンタリータッチなリアリティショーなのかなと。
私の憧れはイスラエル出身マヤ。その子は周りがいかにバチバチしてても、絶対キャットファイトに巻き込まれないんだよね。例えば「聞いてよ〜○○がさ」って、持ちかけられても「ふうん、そうなんだ」って同調するところで止めて、不要な発言をしないんです。賢い。おすすめはシーズン2のエピソード4。ちょっと空気読めない発言をした子に対して、クリスティーンっていう女帝みたいな人がキツく当たるのに対して、マヤはあくまで中立を貫くんです。

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新里:意見をはっきり言える時点で、全員に憧れてしまう(苦笑)。自分の意見を言わないで終わらせたくないんでしょうね。

ちょこ:これだけバチバチに喧嘩してもクリスティーンは次の日になるとバラをプレゼントして「ごめんね」って謝ったりするんですよ。でも二日後にまた喧嘩してるみたいな。もし身近にいたらすごく怖い人なんだけど、どこか憧れるところもある。ここまで自分をぶつけて、自分がやりたいようにやって、それでも周りはクリスティーンを頼ってくる。納得いかないことがあるととことん追求するし。武将ですよ、武将。ちなみに「クィア・アイ」のカラモもクリスティーナの顧客で「クリスティーナ派なんだ!?」って複雑でした(笑)。

伊藤:ちょこさん、実はマヤよりクリスティーンのほうが好きなんじゃないですか?(笑)。

ちょこ:そうなのかな(笑)? でも私はマヤでいたいんだよ〜。
登場人物みんな自分のスタイルを貫くから彼女たちの姿を見てスッキリするし、さらに豪邸を見てスカッとする。当てられちゃって疲れるときもあるんですけどね。とある物件が売れたか売れないかでシーズン3が終わっちゃったので、実際に売れたかどうかその物件を見に行った番組ファンもいるみたいです。

伊藤:そうか、実在するんですもんね。面白い。リアリティショーならではですね。

新里:番組を見て「あの人指名して、家買おうかな」って思う人もいるんでしょうね。

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無意識ってコワイ……。自分の価値観がむき出しに|100人の回答

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ちょこ100人の回答は、心理学や人間学を垣間見られるリアリティ番組です。リアリティ番組が苦手という人でも、見やすいと思います。

人種や性別、年齢、セクシャリティー、職種が多種多様な100人の被験者に「偏見」「飴と鞭」「男と女」といったテーマのもと、100人がどう動くかをテストしていく。興味深いし、感動もあってキャッチーだし、リアリティ番組入門におすすめです。

「偏見」の回は特におすすめ。「ジェンダー」のテストでは3人ずつ男女が登場して、被験者に「この6人の中からカップルを予想して」というお題を出します。99%は「男女」のカップルを予想するんですけど、本当は「男女」「男男」「女女」のカップルだったというネタバラシがあったり。
「訛り」のテストでは、イギリス訛りの先生の講義では「聞いてるだけで癒される」ってコメントするのに、北部や南部訛りの先生だと「意味がわからない」って言ってしまったりするんです。

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ちょこ:「銃」のテストはハラハラするけど興味深かった。物陰からスマホを持った人と銃を持った人がランダムに現れて、被験者には「銃を持ってる人をモデルガンで撃ってくださいね」と指示される。最初は「判断能力テストです」って説明するんだけど、実は人種的な判断が浮き彫りになるの。出てくる場所を入れ替えても、スマホを持ってる黒人が撃たれやすかったり。しかもその撃たれた黒人が、プログラム中被験者に寄り添って勇気づけてきた人だったというネタバラシも。自分の判断にショックを受けて泣きだす人もいるんです。

伊藤:この回、怖いですね。もし自分だったら、って投影してしまう。

新里:番組の雰囲気が「みんなでビックリ大発見!」に似ているなと思ったら、進行役の出演者が同じですね。「100人の回答」は2020年制作の作品ですから、アメリカの今を知るっていう意味でも面白そう。

ちょこ:100人の被験者はシリーズ通して同じ人たちなので、続けて見ているとだんだん「この人ぶっ飛んでるな」「この人は優秀すぎる」とか見えてくるんですよ。テーマもシリアスなものだけじゃなくて「トイレの拭き方」とかもあるので、好きな回から気楽に見てみてほしいです。最後に集計結果を見ながら専門家が解説したりするので、豆知識として友達に話したくもなる番組です。

伊藤:なんだか「ためしてガッテン」みたいですね。

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圧倒的自己肯定とファミリーの暖かさに触れる|ル・ポールのドラァグ・レース

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ちょこ有名ドラァグクイーン、ル・ポールが司会を務め、各国のドラァグクイーンたちが女装はもちろんのこと、リップシンクやスタンドアップコメディのショーで競って、勝敗を決めていく番組「ル・ポールのドラァグ・レース」。煌びやかなメイクやドレスアップは、見ているだけで楽しい。エミー賞も取ってますね。

この番組を通して「ドラァグ」ってたくさんの定義があるんだっていうのが発見で。近所のオバチャンみたいな親しみやすい「コメディ・クイーン」もいれば、細身でスタイルが良い「ビューティークイーン」もいる。そして全員「私が一番可愛い」って言うんです。もし「私はまだまだ」って言い出すと「そう思うなら帰れ」っていうスタンス。正直、一般的な物差しで見ると「どこが可愛いの?」って思うドレスアップもあるんだけど、これは彼らが見つけた「一番私をよく見せるものだ」って自信と誇りを持ってるんですよね。

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100人以上登場するから1人選ぶの難しいんですけど、個性的なクイーン達が多かったシーズン8に登場するキム・チーとか好きです。アニメのコスプレみたいなメイクと衣装で「これもドラァグなんだ!」って驚きました。植物の種から開花までをモチーフにした衣装もクリエイティビティで、最後のランウェイシーンは彼女のがどんなドレスを作ったのかすごく楽しみでした。あと、ちょっとだけシェイディーなところなんかも小悪魔的で可愛いです。

伊藤:私も好きな番組です。2020年放送のシーズン12ではジジが好きでした。この番組の出演者って家族とうまくいっていない人が多いんですけど、最年少のジジはお母さんと仲良しで衣装作りとかも手伝ってもらっているそうで。ドラァグの親世代の価値観も少しずつアップデートしてるのかなと感じました。

ちょこ:メイキャップシーンでポツポツ身の上話をすることが多くて、いいんですよね。学生時代にいじめられたとか、ちょっとしたトラブルで刑務所入っちゃっていま更生してるとか、親に教会へ連れてかれて「ゲイじゃない」って言うまで監禁された経験をしたりとか。そういう辛い経験をしたからこそみんな仲間思いで、だからドラァグのメンバーを「ファミリー」って呼ぶんだって納得できる。

新里:そういう身の上話をきくと一気に引き込まれますね。奇抜な見た目の彼女たちが、どうしてそこに行き着いたのかすごい興味ある。

伊藤:私はシーズンごとの振り返りが好きです。揉めたシーンとかを見ながら「あの時どう言う気持ちだったの?」ってル・ポールが尋ねていくんですが、すると当事者たちが「あの言葉は適切じゃなかった」「私も悪かった」と素直に謝って、バチバチで終わらないムードが良いです。もちろん「私なにか間違ってた?」って開き直るタイプもいますけど(笑)。

新里:どこから観るといいと思います? シリーズやシーズンがいっぱいあるので迷っちゃって……。

伊藤:まずは無印の「ル・ポールのドラァグレース」からがいいと思います。シーズン8はちょうど放送100回目で、エピソード1には歴代のクイーンも登場するので良いかもしれません。どんどん時代に合わせて見せ方もアップデートされていて、2020年のシーズン12はリモートでの撮影もあって親近感が湧きました。

ちょこセレブたちをドラァグに仕立てる「ル・ポールのセレブリティ・ドラァグ・レースも、Netflixらしい企画でとてもおすすめです。セレブが悩み相談もするんですが、クイーンからのアドバイスがすごくまっすぐで。改めて彼女達の懐の大きさを感じられる番組です。

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「平成のバラエティ」が恋しくなる|フロア・イズ・ラバ: 溶岩襲来!

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新里:私が面白かったのはフロア・イズ・ラバ: 溶岩襲来!。2017~2019年頃にアメリカで「フロア・イズ・ラバ」っていう動画がSNSで流行ってたらしいんです。室内で「フロア・イズ・ラバ(床が溶岩になった)!」って叫んで、床に落ちたら死ぬという設定で家具に飛び乗って移動するチャレンジ動画が流行ってたらしくて。それを豪華に仕立てた番組が「フロア・イズ・ラバ」ですね。

ちょこ:うちの子も家で「ここから下は海ね!」とか遊んだりする。大人がそれに奮闘してるわけでしょ。

新里:3人1チームとして3チームが闘い、最終的に辿り着いた人数が多いチームが勝ちです。最低限1人でも辿り着ければOKなので、仲間が落ちたら「仇をとるぞー!」って盛り上がったりします。参加者は結構クセがあって、例えば娘と息子とお母さんの三人組で、お母さんはやる気満々で息子もそれに付き合ってくれてるんだけど、娘は渋々で口数が少ないとか。SASUKEみたいに身体能力が高い人が出るわけではないので、出てる人のキャラクターによって面白さは左右されるかも。

伊藤:ステージ、意外とよくできてますね。足元が見えない場所があって他のメンバーのサポートが必要だったりとか。

ちょこ:Netflixは意外とおもしろ系のリアリティ番組多いんですよね。怖がっちゃいけない「フリンチ:怯んだら負け!とか。こういう番組を見てると「ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー」とか「しあわせ家族計画」とか平成初期のテレビ番組を思い出す。近所の人が「しあわせ家族計画」に出演してウナギを掴むチャレンジに失敗したの思い出すなあ。

新里:おっしゃるとおり一昔前の日本のバラエティー番組を思い出しました。仕組みが単純だから派手なことも起きないし、お酒飲みながらダラダラ見たいですね。

ちょこ:NetflixにTVチャンピオン~極~Youは何しに日本へ?も配信され始めましたね。一度見始めら止まらないですね。

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自分の痛いところにグサグサ|ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~

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ちょこラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~(以下、ラブ・イズ・ブラインド)は声とフィーリングだけで、真実の愛は見つかるのか?というコンセプトに基づいた結婚リアリティショー。顔を合わせない状況で一回告白して、実際一緒にバケーションに行って、結婚式がフィナーレとなります。一番好きなのはやっぱりキャメロン。

新里:私も見ました。キャメロンとローレンは理想ですよね。

ちょこ:見てる側からすると「こんなに早くお互い好きになるか?」って疑うようなスピード感なんですけど、キャメロンは終始真剣。リアリティショーでプロポーズ成功したとき、大袈裟で嘘っぽいリアクションが多いんですよ。でもローレンから「Yes」を聞いたときのキャメロンの瞳や表情を見て「この人、本気なんだ」って感動した。ちょっと泣いたもん。キャメロンとローレンの物語はエピソード1で完結しちゃってるんですよね。

新里:ローレンもキャメロンに不信感を抱かず信じきってますよね。恋愛に関して一番まずいのは不信感を抱くことだと思っていて、でもこの二人は相手を疑ったりせず、信じるってことを徹底したのがすごいなって。

告白のシーンでは、ダミアンとジャンニーナも好きです。ダミアンがプロポーズをしようとひざまづいたら、ジャンニーナが「やだ」って止めて「私はあなたと対等だから」って自分からプロポーズするんですよね。でも、この二人はだんだんと……(笑)。

ちょこ:あと“こじらせ女”のジェシカも気になるところ。バーネットとマークどっちが好きかわかんなくて、ジェシカは恋愛上手だから両方を好きにさせることもできるけど、全部うまくいかなくて相手のせいにしちゃう。

新里:ジェシカはまさに婚活で迷走してる感じ。婚活中の自分を見ているみたいで、ダメなところをえぐられる感じがする。「ラブ・イズ・ブラインド」は自分のよくなかったところばっかり見えた(苦笑)。以前、別の仕事で婚活している人たちにインタビューしたことがあるんですけど、恋愛から少し離れた期間がある人は、いざ婚活をするぞとなった時「自分が好きな人ってどんな人なんだっけ?」と、判断基準がわからなくなってしまって、決められなくなってしまうんですよね。私もそうでしたし、ジェシカもそんな印象を受けました。

伊藤:私もジェシカが「何かがダメだったんだけど、何がダメなのか分からない」って語ってる姿がグッサリきました。

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なぜリアリティ番組に惹かれるのか?

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タイニーハウス ~大きなアメリカの極端に小さな家~」に登場するキャロルとチャーリー。長年主催してきた「豚レース」引退を機に、小さな家の住人に。

伊藤:ちょこさんは本当にたくさんのリアリティ番組チェックされていますけど、なぜそこまで惹かれるのですか?

ちょこ:私は登場人物が“リアル”っていうのがすごく好き。生きてる人間が包み隠さずリアクションしてて、まるで「人間学」を見ている気分になる。「こんな時はこう振る舞えばいいんだ」「こう伝えればいいんだ」とか、誰かの存在が人生の教材のようにリスペクトできますし、勇気づけられる。彼らが実在するからこそ、自分の鏡になるというか。

言葉ひとつとっても、作り物じゃないその人のキャラクターなわけで。しかもそれが色濃く出るから「きっとこんな人なんだろうな」「こういう家庭なんだろうな」とか、人生のストーリーがより感じられるんですよね。

新里:番組を観たあと、出演者のこと調べちゃうんですよ。ネクスト・イン・ファッションとか観終わったあと優勝者のブランドの服が欲しくなって検索しちゃう。他の番組も「今どうしてるんだろう?」ってインスタ調べてフォローしたり。大体すでにちょこさんがフォローしてるんですけど(笑)。

ちょこ:バレてる(笑)。

伊藤:私たちの実生活と番組が地続きになってる感じがいいのかもしれないですね。みんな有名人じゃないけれど、一人ひとり人生にドラマがあって悩みながら頑張っていて、いろんな価値観があると実感できます。

ちょこ:リアリティ番組が嫌いな人って、恋愛ものばかりというイメージを持っている人が多いのかも? それか、普通の人を見ても面白くないと思ってるのかな? もし普通の人に興味がなかったら「セリング・サンセット」みたいにド派手で浮世離れした世界観の番組が楽しいかも。でも「100人の回答」は100人全員違うから見てて飽きないし、他にもタイニーハウス ~大きなアメリカの極端に小さな家~は家を建てる企画かと思いきやそこに住む人の悩みやドラマがあって面白い。入口がいっぱいあるのが、リアリティ番組のいいところだって伝えたいです。

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