【夜宵★日記㉔】進撃するオジイサン
2022/12/7
0:30過ぎまでアニメ「Dr. STONE」を観てしまい、朝から眠い。
バスでオジイサンに捕まった。
オジイサンは、乗るバスがわからないようで、バス停付近で人に聞いている姿がまず目を引いていた。
バスがわかるや、行列などお構いなしで、脇からバスに乗り込んだ。
それが私の並んでいる列だったのだが、
「オジイサンだからしょうがないか。」
と思ったのは私だけではなかったと思う。
ちゃっかり割り込んでおきながら、オジイサンはステップでズッコけ、さらに注目を集めた。
ようやく乗れた私はバス前方に立つ。
「お金と券はどこに入れるんかね?」
斜め後ろを振り返ると、あのオジイサンだった。
仕立てのよい服を着て帽子までかぶり、着衣にも乱れはない。
着衣の乱れや食べこぼしなどで認知症の入り具合がわかったりするが、それも見受けられず、こう見ると品のいいオジイサンという感じ。
教えてあげると、気を許したのか、そこからオジイサンの進撃が始まった。
唐突に、
「私はもう100歳なんだよ。」
え?マジで?!
「あと4年でね。」
ああ、人は年を取るとどうして逆サバ読みをしてしまうのだろう。
若い頃は年より若くサバを読むのに。
まぁ、100歳でないにしても、よく一人でバスに乗るものだとそれなりに感心はする。
オジイサンのマシンガントークは20分に及んだ。
戦時中、飛行気乗りだったこと、
トヨタで年間1000台以上売ったこと、
給料が多すぎて使いきらなかったこと、
現役時代は、銀座のクラブで夜な夜な遊び回っていたこと、
息子は海外で活躍した医者で孫も医者だということ、
息子は医師会の役職についていること、
外人相手の接待で身についた英語が、海外暮らしの長かった息子より堪能であること。
これらを繰り返し繰り返し。
同じ話を繰り返すあたり、認知症は0ではないなと思いながらも、私はひたすら聞き役に回る。
そのうちオジイサンは、英語のフレーズまで披露し、口説き文句のスラングまで繰り出してきた。
「これが英語で『セックスしない?』っていう意味だよ。」
こう言われたときには、もう苦笑するのみ。
オジイサン……進撃もたいがいにしてくれ。
最後は、降りるバス停が一緒のため、
「もうすぐなので、そろそろ小銭を用意した方がいいですよ。」
「次で降りますよ。」
「じゃあ降りますね。」
など、運賃を払うのも、ステップを降りるのも声掛けをしながら見てあげた。
もう私はすっかり介護士だった。
別れ際にオジイサンはこう言った。
「ここに来るのは4回目なんだけどね。」
ああ。
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