日記 キリギリスは働きアリの戯言を無視して刹那主義を貫いてほしい。

寿命が千年ないのに、ぼくは何から手を付けていいかわからなかった。何をすればいいのだろう。仮に、とりあえず、今のところは、しばらくの間は、アルバイトでもして様子を見る。そういうことだ。十年先に何をやっているかを今すぐに決めろというのはずいぶん理不尽な要求だと思って、ぼくは何も決めなかった。社会は早く決めた奴の方を優先するらしかったが、それはしかたのないことだ。ぼくは、とりあえず、迷っている方を選んだ。

スティル・ライフ 池澤夏樹

スティルライフという小説の一節である。世の中には自分のために存在しているんじゃないかって思うことが、そんな訳ないことは分かってるのに、何度かある。この小説がまさにそうだった。主人公の「ぼく」は定職に就かず染色工場でバイトをして根なし草のように暮らしている。ぼくもそうだ。IT業界を辞めて来月からリゾートバイトをしながら全国の観光地を巡ろうとしてる。バイトで貯めたお金で留学とかしてその後は海外を周遊してみたい。聞こえはいいが、ただの逃避行動に変わりはない。失われた30年、この先も失われていくであろう日本の景気を見て見ぬふりして刹那主義に切り替えた。世の中には自分を肯定する便利な言葉が多すぎる。その日暮らしのパチンカスでも「いや、自分は刹那主義なんで」って言えばむしろ馬車馬のように働いている社会よりよっぽど実存的な生き方をしているんじゃないかなんて危うく騙されそうになる。だからぼくも使っている。ぼくは刹那主義で、享楽主義で、楽観主義者だ。就職ビビりの夢縋りとかそういうんじゃない。それは合コンに明け暮れる若手お笑い芸人の別名だ。今週のマヂカルラブリーのラジオで言ってた。Spotifyで無料で聴けるから聴いてほしい。そしてぼくのように寝てる時以外はBGMとして流すくらいハマってほしい。閑話休題。思うに、親が子に望むような地に足ついた働きアリでいるためには、要らない知識が多すぎると思う。頼むから夢は叶うとか好きな事で生きていくとか保証のない断言はやめてくれ。その誘惑はぼくに効く。フリーランスという魅惑のカタカナに踊らされて、新卒の年に2回転職して、50万以上スクールにつぎ込んだ誇大広告の被害者はここにいるぞ。自分のことを少し賢いと思ってる自称進学校上がりの大学生ほどこうなってしまう。情けない。ちなみにぼくは大学1回生のときTwitterアフィリエイトのコンサル料を40万払って収益5千円を叩きだし、その後の大学生活は借金返済と自己嫌悪に費やした過去を持つ生粋のノウハウ依存者だ。今でもnoteで月10万稼げる系のアカウントがあるとつい見てしまう。ぼくの現状を芥川賞作品を通して綴る洒落た構成を試みたけどまた脱線してしまった。昨日の日記も最初はニーチェの哲学とぼくの日頃溜まってる鬱々とした悩みを対比させたかったのに、最終的に初恋の人と散歩する妄想って捗るよねって絶妙にきもいこと言ってた。だが、それでいい。日記は書いてる瞬間に書きたいことが浮かんでくる。洒落た文章構成なんてスケベ心を上書きする気まぐれと勢いが日記の本質だと思う。刹那主義を掲げるなら常に今を生きなきゃだめだ。例え自己満足の日記でも。

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