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信号待ちカップル

信号が赤に変わった。
「この青信号で渡るぞ!」と意気込んでいた過去の僕を嘲笑する今の僕。

青信号は大抵、「この青で行こう!」と思えば思うほど早く赤信号に変わるし、
「今回はいいか、次まで待とう!」と思えば思うほどなかなか赤にならない。

そんな赤信号を眺めながら、次の青信号を待つ僕。
後ろには、駅からずっと手を繋いでいるカップルの姿。
その姿を見て、そんなにずっと手を繋いでたら手が蒸れるぞ、と教えてあげたい。
でも、冬は乾燥してるから、むしろ蒸れる方がいいのでは、とも思えてきたので、
教えてあげるのはまた今度にした。

そんなカップルたちは何やら、次の週末、デートで少し遠くへ行くらしい。
聞き耳を立てることだけは得意な僕が聞いたのだから間違いない。

彼女「今週末楽しみだね!」
彼氏「そうだな。時間を早送りしたいよ。」

一人一人に与えられた人生の時間は限られているから、
早送りはやめた方がいいと伝えたい。
僕らは生まれる時に、神様に時間を与えられている。
その時間をいかに有意義に使うかが重要であると、僕は思う。
だから、そんないっときの感情で早送りなどするな!と怒鳴ってやりたい!
そうだな、赤信号が「自分が怒られているのか?!」と勘違いするくらい怒鳴ってやりたい!
が、我慢をした。

彼女「これが私たち最後のデートだもんね。」

ん?最後のデート?
こんなに手を繋いでいるのに、別れるのか?
どちらかに未練があって、別れる前にデートに行くことにしたのか?

〜回想〜
遊園地の観覧車に乗ってる二人。
彼女「これで最後だね。」
彼氏「そうだね。」
彼女「ここまでさいろいろなことがあったけど、楽しかったよ。」
彼氏「うん。そう。」
彼女「一緒に餃子パーティーもやったよね。」
彼氏「やったね。餡に味をつけるかつけないかでケンカしたよね。」
彼女「うん。したね。結局味つけたんだよね。」
彼氏「そんなケンカも楽しかったな。素敵な思い出をありがとう。」
彼女「うん。」

こういうことなのか?
こういうことならば、僕が仲介役になって仲直りさせてあげたい。
賃貸会社よりも有能な仲介役になる、という夢ができた。
いや、でも、
やっぱり別れるのだとしたら、デートはしないだろう。
いくら未練があっても、そんなことしてるカップルを見たことがない。
じゃあなんだ?どちらかが大病を患っていてもうすぐで寿命を迎えるのか?

〜回想〜
ブランコに乗っている二人。
彼女「今日のデートも楽しかったよ。」
彼氏「そう思ってもらえて僕は光栄だよ。」
彼女「少しの時間だったけど、あなたと過ごせてよかった。」
彼氏「俺も。」
彼女「多分、私の時間も喜んでる。」

彼女「これで私の人生は終わっちゃうけど、誰よりも幸せな時間を過ごせた。」
彼氏「うん。」

彼氏「なぁ。俺と出会ってくれてありがとう。来世でも会おうな。」
彼女が指を差し出す。
彼女「約束だよ。」
彼氏「あぁ、絶対。」

こういうことなのか?
こういうことならば、今すぐにでもなんでも治せる薬を作ってあげたい。
医者になる、という夢ができた。
僕の命と引き換えに二人には生きていてほしい。

でも待てよ。そんなドラマみたいなことがあるか?
こんなことなら、ドラマの撮影をしていることを疑わなければならない。

じゃあなんだ?
なんでこの二人は、最後のデートになるんだ?
最後のデート…

その時、信号が青になった。
それに気づいた僕はまた一歩を踏み出した。

二人はまだ手を繋いでいた。
ずっと手を繋いでいた。

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