見出し画像

20年前の自分に伝えたいこと

20年前くらいの自分が今の自分を見たらきっと驚くと思う。いろいろと驚くことはあるが、一番の驚きは、母親になっているということだ。しかも息子の母親だ。その息子は驚くほど自分にそっくりだ。自分の分身のような存在がこの世に生まれてくるなんて、きっと想像もしていないだろう。もちろん心の奥底では、いつかあたたかい家庭を築きたい、と切実に願っていたけれど、そんなことを周囲には絶対に言えないと思うほど、女子力、というようなものが結婚や出産には絶対必要で、そのようなものを持ち合わせていない自分には、そういう人生は「不可能だ」と思っていると思うようにしていたと思う。

それにはいろんな理由がある。「女子力」的なものがない、とみなされた女性に対し、この世(日本社会)は物凄く厳しい。全方位的に、厳しい。あまりにも失礼なことを頻繁に言われることが多いから、そういったものから完全に無縁の存在でいようと必死になっていた。しかしその「女子的なものに何の興味もない」というふるまいすらも、世間的な男女意識になんの疑問もない人たち(「セクシュアル健常者」たち)からのいじりの標的にされてしまうので、「もっとおしゃれをしなよ」とか「たまにはスカートはきなよ」とか、たまにははいてみるか、とはいたところ「ねすぎがスカートはいてる(ワラ)」とか言われてしまう。ある日突然「ねすぎも、メイキャップのオベンキョウをするノダ!」(ガラケーのメールby友人 原文ママ)とか、「そろそろ彼氏つくりなよー」(「そろそろ」と作れるものか!いやつくれん!)とか、ふとした瞬間に言われて、きっとなんとも言えない嫌な気分になるも、何も言い返すことができず、傷ついていることだろう。

その後結婚すると、そういった攻撃が減るかと思いきや、「なんであいつが結婚!?」というようなまなざしを受け、別の嫌な気持ちになる機会が増えることに気づくだろう。今まで仲良くしていたと思っていた女性たちが、「あいつが先に結婚するなんて」というような強烈な意地悪な目線を向けてくる。バスの後部座席にて、当時仕事のストレスにものすごく悩まされていた友人から八つ当たりのように「てめぇ(原文ママ)が結婚!?」と怒鳴りつけられたこともあったし、西荻窪の居酒屋で「ねすぎが結婚!?まじか!ねすぎが結婚!?まじか(×4回)」、くらいの絶叫をされたこともあったはずだ。小学校時代からの「こじらせ仲間」であった友人とは、新宿のルミネで結婚報告をして以来、その後、一切の連絡を絶たれてしまうこととなり、そのことは今もどこかでチクチクと心を刺していると思う。

長年のゆがんだ親子関係と、内向的だった幼少期の孤独感を埋めようと、あなたはきっと、どんなに嫌なことを言われても、そういうことを言ってくる人と距離をおかず、盲目的に「素敵!」などと思って関わってしまう、ゆがんだ友人関係を築いてしまう癖がある。場面緘黙(ある特定の場面になるとなぜか全く話せなくなる)があったため、小学生低学年まで、親しい友人と家族以外とはあまり会話をすることができなかった記憶から、異様なまでに人に話しかけたりしてしまう癖があるだろう。会話がうまくできなかったことの恐怖が根っこにあり、その場がシーンとなってしまうことが恐ろしくて異様にしゃべってしまう。大丈夫だ、友達はその後たくさんできるが、たくさんできた友人たちが、蜘蛛の子を散らすように去っていくことになる。その経験は今もあなたの心をチクチクと刺すが、別に友達が一人もいなくても平気になれるくらい、あなたの夫と子供はあなたを大切にしてくれるだろう。そして、昔の自分のイメージの更新を許さず、お互いの生活水準を競争しあい、いつも職場の愚痴や誰かの悪口しか会話をすることがなくなってしまったそんな友人たちとの関係性はとても悲しいが、そういったことを一人5000円くらい払ってお洒落な皿のうえにごくわずかに乗せられた気の利いた豆腐(照明などを使用して輝かせて見せている)みたいなものをつまんだり、串にささった焼き鳥を気の利いた女性がすべて串から外したりする様子を気まずく眺め、「最初から鶏肉が一個一個で出てくればいいのに」とか思いながら無理して話す会は、もはや、自分の人生になくてよいのだ、ということに気づくだろう。大丈夫、20年後にできている「ちょい飲み」日高屋では、個別にセパレートされた焼き鳥が出てくるから、もう串から外す作業を眺める必要はなくなる!日高屋で一人飲む生ビールで、十分だ!

無数の映画で親子関係が描かれていることに気づくだろう。そして、息子が生まれた後には、映画の見え方が変わることに気づくだろう。男性社会の暴力性は、男性にも向けられていることに気づくだろう。あなたが悩んできたその日本の女子力至上主義は、世界中の女性たちが、多かれ少なかれずっと悩まされ続けてきたことなのだと気づくだろう。

大丈夫、メーキャップのオベンキョウをしなくて大丈夫。そのまま映画を見続けるノダ。女性誌を読む必要もない。誰にも会うことがなくなるし飲み会はほとんど呼ばれなくなるし、あったとしてもzoomになるから、おしゃれなど一切しなくても大丈夫。そういうことを受け入れてくれる人に出会える。そのままひたすら映画を見続けろ。映画を見続けることで、新たな出会いがあり、居場所が見つかる。今時LINEではなくメールで感想を言い合える素敵な友人もできるだろう。仕事では今経験していることはとてもつらいが、そのつらい思いによって得た悔しさは絶対に役立つし、すべて点が線となったようにいい方向に行く瞬間がある。そして、「女子力」は「子育て」に必要な部分も多少はあるが、実はそんなに必要がないということに気づくだろう。

そしてあなたが一番心配していた、自分に似ている自分の子供が生まれた場合、そんな子供を愛せるのか、という不安は、本当に心配はない。似ているけれどまったく異なる個性を持った息子が、これまで経験したことのないような、幸せな気持ちを与えてくれる。これまで見てきた無数の映画のシーンよりももっと強烈に感情を揺さぶられることとなるだろう。そしてますます映画を見ることも、音楽を聴くことも、楽しいと思えるようになるだろう。

よろしければサポートをお願いします!サポートは、記事の執筆のための参考となる本の購入、美味しいものを食べることなどなどにあてさせていただきます。