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あのドレス…選んだのは…お母さんデハ? 〜地獄のピアノ発表会(4)〜

 明らかに常軌を逸した本格ドレスで出演したピアノの発表会は、緊張し過ぎて吐きそうになったとはいえ、なんとか、何も吐かずに、さして名曲なわけでもない、とても半端な課題曲を最後までつつがなく弾き終えることで終了した。母のどうにも悲しくずれたセンスへの苦い苦い思いと、親に異を唱えられない自分の不甲斐なさへの(無意識の)苦しみとともに、無事に幕を閉じた。

 しかし、ピアノの発表会の悪夢は続いたのだった。頓珍漢なドレス問題はここで終わりではなかった。次の日、学校へ登校すると、同じクラスの黒沢さん(仮名)が、にやにやとして近づいてきた。どうやら彼女は、同じピアノの発表会に出ていて、私の本気(ガチ)ドレスに度肝を抜かれたらしい。

 あのドレスは…やばかったよねぇ!と黒沢さんは猛烈に意地悪な目をして、にやにやと話しかけてきた。

「選んだの、ねすぎのお母さんでしょ?」

黒沢さんは以前から、私の母親のヤバさに気づいていた。自分にとって最も触れられたくない出来事であった、母親のヤバさについて、度々、何の悪気もなく、ズケズケと言及してくるのだった。そう、心に姑を飼っている女性は、すぐに私のように女子力の低めな人間を見つけ、その人間の何が弱点かを見極め、最も触れられたくない部分をじわじわと攻撃することに長けていた。

その後も黒沢さんは、度々、私のピアノの発表会のテカテカとしたドレスの場違いぶりについて、話題にしてきた。他の子たちが着ていた服ならば、まあ普通に街を歩いていてもそんなに問題はないけど、あのねすぎが着てた、あのドレスは、本当に、本気(マジ)でヤバかったよね…と。

「あのテカテカのドレスを着ていては、ガストには行けない。ましてや山盛りポテトフライをつまみながら過ごせない。ドリンクバーのおかわりも、足しに行けない…。」

「あのテカテカのドレスを着ていては、週刊少年ジャンプを立ち読みできない。ましてやジャンプ放送局に投稿はできない。竜王は生きていた!にも岡田です!さんにも勝てない…。」

「あのテカテカのドレスを着ていては、ローラースケートに乗ってくるくる回り、バンダナを巻いてようこそここへ遊ぼうよパラダイス♪と歌えない…。」

「あのテカテカのドレスを着ては、ローラースケートのようなものを身につけさせようと、バスケをやらされたり、キックベースをやらされたり、いろいろあったけど、なんだかんだで国民的な存在になったのに、生放送で集団で謝罪をさせられない…。」

「あのテカテカのドレスを着ていては、滑舌の良さで橋田寿賀子センセイに一目置かれることはない…。」

「あのテカテカのドレスを着ていては、サイゼリヤで節約のためにミラノ風ドリアと無料の水だけですませることはできない…。」

笑いの才能に満ちたバカリズム氏に憧れて、大喜利のふりをして、だいぶしくじってしまったが、私がピアノの発表会で着させられた昭和時代を生き抜いた母の怨念が詰まったドレスは、その後もずっと、なんと学年が変わったのちも、じわりじわりと私へのいじりネタとして使われ続けるのであった。

もういいよ、という感じもあるであろうが、地獄のピアノの発表会(5)に続く・・・!



 

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