『和朗フラット四号館』/カオの本棚より
古い建物って趣きがあって、それだけで良いなぁと思うのです。
それが時代を経て住み継がれる洋館アパートだったら、尚更です。
“和朗フラット”は東京タワーが見える街に、昭和11年に建てられた木造アパートです。
もうこれだけで物語の匂いがぷんぷん、「見てみたい!」と思いませんか。
本棚からお気に入りに一冊を紹介する「カオの本棚」も順調に4回目です。
今回は、アパートの管理人さんが慈しみを込めて綴った文と写真で紹介された一冊です。
そして建築繋がりで、紹介したいnoteがありますので最後までおつきあいいただけたらと。
和朗フラット四号館 ちょっと住んでみたいとこ。昭和十一年の洋館アパートメント
/ 和朗フラット四号館管理室 著
/モーリス・カンパニー記念出版部 発行 /星雲社 発売 /2013年発行
[↑カバー裏表紙より]
一般的なアパートはどの部屋も同じ間取りですが、和朗フラットは3k、2k、1kと部屋の大きさが異なり、同じ1kでも広さや窓やドアのデザインが部屋ごとに違うそうです。
お部屋拝見!と一部屋ずつ見てあるきたいな。
写真でご案内するのがいちばんいいのですが、そうすると著作権をゴリゴリ侵害してしまうので、僕の”ちょっと住んでみたい”ポイントを挙げていきますね。
◆白い外壁とペールブルーの窓枠とドア◆
建ったのは昭和ですが、大正浪漫の香りがするレトロな外観。
ミモザの樹に囲まれ、クリスマスローズ、月桂樹、りゅうのひげなど植栽のセンスの良さも素敵です。
◆細部の細やかさ◆
漆喰の壁に光る左官屋さんの技。ロゼッタ、櫛目、市松模様と描きわけが楽しい。
天井の飾りのさお縁。手斧(ちょうな)で削った幾何学模様がある。細かいです。
玄関の門灯は、ガラスの外円に緑青(ろくしょう)が浮いた銅製。経年変化っていいですね。
洋服ダンスの頭上の高い棚は、帽子箱をしまう専用だそう。帽子がお洒落に欠かせなかった時代の痕跡。
◆窓と光◆
多種多様な窓の形。
丸、角、楕円、アーチetc。矢羽根モチーフといって、矢についている羽の形のデザインを知りました。透明ガラスと摺りガラスを交互にはめてお洒落。
管理人さんが窓から見える景色や、入ってくる光を愛でています。
床に映った格子窓の影を、
[光は時として絵の具のようだ。跡を残さない絵の具。]
と評してみえます。
◆歴史と代々の住まい手◆
人が住まいを選ぶように、住まいもまた人を選ぶんだと思います。賃貸だと特に。奇跡的なご縁がなければこんなアパートには住めないでしょう。
自分は家賃3万2千円の外国人アパートに住んだことがあります。昭和の香りがボロ可愛いアパートでした。
話がそれましたが、和朗フラットの住人は、植物に話しかける女性や昭和30年代に赤坂のゲイバーを経営していたという毛皮の似合う人。
きっとたくさんの人が入れ替わり、住人は部屋を整え、時に手を入れ部屋を自分の色に染めたことでしょう。建物はそれらを包み込んでじっとただあるーー。そこある人と建物の交歓みたいなものを想ってしまうのです。
長年にわたり修繕しながら大切に受け継いでいるのがなによりもいいですね。
[↓雪の日ならではの美しさ]
小説のようなものを書いていますが、家(建物)はえてして情景や登場人物を補完するもの、添え物扱いになります。そうでなくて、建物(空間)自体が生命を持ったような話が書けたら面白いなぁと思ったりもします。
そこで建物が主役といえば、松尾友雪さまの『ローズ・テライ、502号室 <feat.こんにちは世界>』がまさにそれなのではと思い、ご紹介させていただきます。
透過する存在に、実は見透かされている。という物想う窓の小説です。
松尾さまとこんにちは世界さまがコラボレートされた作品で3話まであります。
このお話の”語り手”について考えると実に不思議な感覚を覚えます。まるでエッシャーのだまし絵をみているようなーー。
俺と称する窓と、ひと時の語り手になった女性が入れ子状に収斂していくようにも感じます。松尾さまの硬質な筆致が、内側であり同時に外側であるものを自在に書きかえているのでしょうか、それともーー。
どうぞ、あなたの手で物語を紐解いてみてください。
建物と人というのは、案外似た存在なのかもしれません、なんてね。
読んでくれてありがとうございます。