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中村勇吾さんが考える、「家具以上、建築未満」のNESTING

「あなたが新しく家を建てるとしたら」をお題に、問いかけます。
答え手は、借りものではない暮らし方を愛し、選ぶみなさん。
第1回目は、デザイナーとして幅広い領域で活動する中村勇吾さんです。


母家からこぼれるものを受ける小屋

Theme / Receiver from mother's house
Keyword / hut, non-activity, calm, fire, choose one
Size / S or XS
Person / Man(Partnership), age 52, Designer(Web, Interface, Movie)
Purpose / For spacing out with fire

非アウトドア派が火を求めるとき 
story by Yugo Nakamura

蓼科にある義父の別荘が老朽化し、立て直しに際して、建築家の堀部安嗣さんにお願いしました。すぐにでも早く建てたいと意気込む僕に対し「これから非常に長い付き合いをさせていただくから」と、すぐに仕事を受けることはできない、お互いを理解するための「お見合い」期間を設けてゆっくり進めていきましょう、と第一印象から変わらない静かで内省的な印象を崩さずに、そう答えられたのを覚えています。率直に言えば、えっ!となりましたが、それと同時にあらためてこの方にお願いしたいと強く思いました。

そんな風に建てていただいた「蓼科の家」ですから、今になってなにか手を加えることはなかなか憚られます。しかしながら僕は今、暖炉をとても欲しているのです。当初、堀部さんからのヒアリングの際には「そんな面倒くさいもの、大丈夫です」と答えてしまったことがとても悔やまれるばかり。その当時は暖炉について一度も考えたことがなく、電気さえ通じていればと思っていたのですが……。

火を焚べてやることがこんなにも楽しいことだとは知りませんでした。パチパチと爆ぜる火の粉なんかを前にぼうっとしながら、ウイスキー飲みながらチーカマとかカマンベールチーズなんかを食べる。そういった火のある生活に憧れるんですよね。

焚き火も好きですけれども、僕は全くもってアウトドア派ではないですし、外でどうこうするということも面倒くさく感じる性分。だから屋根があって、平らな床があって、あるのは暖炉だけ。そのほかは何もない。それだけでいい。シェルターに守られた状態でそれを楽しみたいという、怠惰なおじさんの願望を叶える場所です。そんな小屋のような場所があれば、堀部さんに作っていただいた母家(別荘)はそのままに保つことができますし。

僕にとってはちょっと足すくらい、しかも「自分が好きで選んだ手応え」があるものを敷地内に新たに置くのがちょうどよさそうです。

Behind the Story
Yugo Nakamura × NESTING

──中村さんの新しく建てたい家が「小屋」という形式とは。

中村:僕だったらの話です。基本的に建築や住宅は大好きなので、建てられるだけ建てたいなと思うんだけど、もちろんそんなお金はありません。

けれども小屋のような、住宅未満家具以上のようなものがあったらなとは思います。そういうものって世の中を探すと、大工さんに頼んでいろいろとお金がかかるものか、既製品となると急にプレハブになる。途端にデザインのよいものが少ない世界になってしまう。物置なんかもそうですよね。

──自分の嗜好にあったものを買いたいけれども、欲しいものはなかなか見つからない。

中村:こういったスケールのものって、目を見張るような斬新なデザインというよりは、10年20年のロングスパンで付き合っていても嫌にならないものであって欲しいというか。嫌なところを極力消していきたい、ってなるんですよね。

既製品であってもどうしてもちょっと気になるところってあるじゃないですか。「こここうだったらいいのにな」とか。無印良品のプロダクトはまさにそれをしようとしていると思うんですけれども。嫌なところがないみたいな。

ただ住宅、ひいては箱物でそういうことをしているところってあまりない。だから、それを、テンプレートを組み合わせながらカスタマイズベースで施主自らやるっていうのは、いろいろと手を動かしたくなる創造的な行為ですよね。そういうクリエイティビティって多分、一般的な建築から離れた人ってないだろうし、なんなら僕もないし。

──それらを踏まえた結果、中村さんの構想される「小屋」の設備は至って簡素なつくりになりました。

中村:でかい犬小屋みたいな感じっていうのかな。物置も兼ねた。トイレとか風呂とか水場は全部カットして、屋内のシェルターと、外部へと延長されていく平らな場所――デッキの平らな場所、あとは暖炉だけ。それで成立するものがよくて。使い方は自由でいい。

プロダクトデザイナーの深澤直人さんが自分で山を開墾して作った小屋に遊びに行かせて頂いたことがあるんです。深澤山荘というのか、ヒュッテのような必要最小限の小屋。

そこで印象的だったのは傾斜した地面の中にあった、石で舗装された平らな場所と、そこに置かれたアウトドアチェアの様子。それだけでここに場所ができた、そう感じました。建築未満インテリア以上というか、すごく深澤さんらしくて。その発想はなかなか素人には発想できないし、そこで僕の欲望が啓発された部分もあるのかもしれません。

──形式が内容を定義する、というような。

中村:家にずっと住んでいると当初の枠からはみ出していくじゃないですか。どうしても物が増えてあふれだしたり、こんなこともあんなこともしたいって活動だったり。

そのこぼれてしまうものを受け止めるため、建て直すほどではないけれどもなにかを加えるかたちでのニーズが僕の中ではありました。

──ニーズを叶えつつ、「嫌なところを極力消していきたい」。

中村:嫌なところを極力消したいと先ほど話しましたが、一方で、そうすると「無味乾燥なお白湯みたいなものでいいのか?」とも思うわけです。

NESTINGの施工デザインはそういった意味で驚きが深い。三角屋根のでかいのとか、プロポーションがちょっと特殊で変わっているんだけれども、ちょうどよい出っ張り具合っていうのかな。

ちょっとケレン味というと言い過ぎだけれども、パーソナリティーというか、キャラが出ているというか、「この人と過ごしていくぞ」と箱物に対して思うような。「自分が選んだ証」というのかな。自分が選んだ手応えみたいなものがあると、ここで過ごそうと思えるんじゃないですか。

──「自然と暮らしを愛する人のための住宅」でありたいと私たちも思いますから、そう言っていただけるのはうれしいです。

中村:家に関する話はドキドキするものです。一生を左右するものですし、話しだすと重い話題ですから。

コミュニケーションに関しても、お金に関しても、いろいろとその「重さ」がつきまとう。それがアプリケーションのシステムだったり、発注のフローだったりでNESTINGはちょっと軽減してくれるような気がしています。東京は特に住宅も土地も高いから、ひとつ背負うだけでめちゃくちゃ「重い」ですもんね。

中村勇吾(なかむら・ゆうご)
ウェブデザイナー、インターフェースデザイナー、映像ディレクター。1970年奈良県生まれ。東京大学大学院工学部卒業。多摩美術大学教授。1998年よりウェブデザイン、インターフェースデザインの分野に携わる。2004年にデザインスタジオ「tha ltd.」を設立。以後、数多くのウェブサイトや映像のアートディレクション/デザイン/プログラミングの分野で横断/縦断的に活動を続けている。主な仕事に、ユニクロの一連のウェブディレクション、KDDIスマートフォン端末「INFOBAR」の UIデザイン、 NHK Eテレ「デザインあ」のディレクションなど。主な受賞に、カンヌ国際広告賞グランプリ、東京インタラクティブ・アド・アワードグランプリ、TDC賞グランプリ、毎日デザイン賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞など。http://tha.jp/

Writer:Yuria Koizumi
CG:studio anettai
Brand director:Genki Imamura(B&H)
Director:Koki Akiyoshi(VUILD)

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