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サッカーも故郷も嫌いだった大学生が、地元・奈良クラブを猛烈に愛する理由。【奈良クラブ】

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Jリーグ以外にも、愛するサッカークラブに強い想いを抱いているサポーターはたくさんいる。JFL・奈良クラブの応援を引っ張る咲良さんもそのうちの一人だ。その後の人生に多大な影響を与えた奈良クラブとの出会いから、サポーター交流会を主催するに至るまでの半生をお送りする。

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【プロフィール】咲良(さきら)。奈良クラブサポーター。中学3年時に初観戦。その後応援席で観戦するようになり、現在は全国各地を飛び回ってチームを後押ししている。Twitterアカウントはこちら。 Instagramアカウントはこちら。


JFL、奈良クラブの魅力とは。


取材班:本日はよろしくお願いします。まずはJFL、奈良クラブの魅力を聞いていこうと思います!

咲良:よろしくお願いします!JFLに所属している奈良クラブを応援しています。今は大学に通いながら、週末はホーム・アウェイ問わず奈良クラブの試合を見に行っています。試合中は太鼓をたたいて応援をリードしたり、試合以外ではサポーターの交流会などを主催しています。


取材班:実は、Jリーグ以外のカテゴリーに所属するクラブのサポーターにお話を聞くのは、咲良さんが初めてになります!咲良さんが思うJFLの魅力ってどんなところですか?

咲良:一つ目は地域密着です!もちろんJリーグのクラブも地域に密着していますが、JFLはJリーグに比べると小規模なクラブが多くて、小さいからこそ地域から愛される必要性をどのクラブも感じている印象です。

あとは「Jリーグよりも下」「アマチュア」だと見られることが多いのですが、中にはHondaFCのように天皇杯でJリーグに勝利しているクラブもありますし、さすがにJ1レベルには叶わないですが、スピード感という意味でも面白い試合を見れると思います。


取材班:その中で奈良クラブの良さをアピールするならば、何を挙げますか?

咲良:ピッチ内では若い選手・監督が中心となっているので、今年のチームはすごく若い印象があります。現地で試合を見れていないので確かではないですが、若返って生き生きしてるんじゃないかなって。

あとはスタグルです!JFLで奈良クラブほどスタグルが充実しているクラブはないと思います。東京の有名なシェフさんがわざわざ奈良まで来てハンバーガーを作ったり、リーズナブルなのに美味しいものがいっぱいあります。


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また、コンコースにキッズスペースやキックターゲットが用意されていたりするので、家族連れで来たとしても試合前から楽しめるようになっています。


取材班:私は奈良といえば大仏が浮かびますが、スタジアム周りの観光も楽しめそうですね!

咲良:大仏がある東大寺はスタジアムから1.5kmほどしか離れていないんですよ!本拠地である『ならでんフィールド』とシカで有名な奈良公園はともに近鉄奈良駅から行けますし、世界遺産の春日大社なんかもあるので歴史に興味がある方はスタジアム周辺で1日潰せると思います。


サッカーのことが嫌いだった。


取材班:咲良さんはどのようにして奈良クラブを知ったんですか?

咲良:中学生時代、好きなアーティストのライブに通っていて、そのアーティストが奈良クラブの公式応援ソングを歌っていたんです。ある日、ライブに行ったら奈良クラブの選手がゲストとして来ていて、「奈良県からJを目指しています」ってPRをしていました。

実際に試合を見に行ったのはその次のシーズンです。中学校に無料招待券が配られて、妹と一緒に行きました。


取材班:ライブハウスとは思わぬ出会いですね。初めて見に行ったサッカーはどんな印象でしたか?

咲良:そもそも私、サッカーは嫌いな方だったんです。地上波で代表戦の放送とかがあると、見たいドラマが一週休みになったりするじゃないですか(笑)。「でも無料だし…」と思ったのと、家からスタジアムが近かったので、どうなったら勝ちなのかもよく分からないまま会場に行きました。

そしたらスタジアムの雰囲気がすごい良くて、気づいたら自然と手拍子しちゃってましたね。特に試合後にラインダンスをしてたのが印象的で、当時はサポーターが作ったゲーフラを選手が持ったり、被り物をして勝利を分かちあっていて、その距離感に惹かれて「あそこ(応援席)に行ってみたいな」と思って。

あと私は吹奏楽部で打楽器を担当していたので、太鼓を叩いている人が楽しそうに見えたんです。その人に声かけてみたら「おいでよー!」って言ってもらえたので、それからは応援席の真ん中に入れてもらって試合を見ていました。


取材班:サッカーについてよく知らないまま、応援席に行って声を出すことに抵抗はなかったんですか?

咲良:最初はありました。でも、当時の私はタオマフやユニフォームを買うお金もなかったのですが、サポーターの皆さんからグッズを頂くことも多くて。周りの方々があったかくしてくれた分、打ち解けるのも早かったです。


奈良クラブ中心の生活へ。


取材班:先ほど吹奏楽部に所属していたと仰っていましたが、応援と部活の両立はかなり大変だったんじゃないですか?

咲良:奈良クラブを好きになった中学3年生の頃は両立が難しくて、部活と勉強を優先していました。本当は高校でも吹奏楽部に入る予定だったんですが、めっちゃ奈良クラブが好きだったので吹奏楽部に入るのを辞め、遠征費を稼ぐためにバイトを始めたので、そこでガラリと変わりましたね。


取材班:すごい決断ですね…。

咲良:あと部活とは別に、習い事でフラダンスもやっていました。フラダンスのインストラクターになるのが当時の夢だったんですけど、奈良クラブの方が楽しいなって思って。すごく悩んだんですけど、そこで奈良クラブ一本に絞りました。


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取材班:親御さんからは反対されたんじゃないですか?

咲良:最初は反対されてたんですけど、一回試合にお母さんを連れていったらドハマりしまして(笑)。今も一緒に遠征に行ったりしているんですけど、「遠征行くならバイトしな~」みたいな感じで見守ってもらっています。

取材班:サッカーが好きじゃなかった咲良さんを、何がそこまでのめり込ませたのでしょうか…。

咲良:それまでの人生、勝ったり負けたりして色々な感情になることが少なくて。スポーツをやったことがないので、サポーターや選手と喜びあったり、一喜一憂しながら気持ちを共有できるのがすごくいいなぁと思ったのがのめり込むキッカケになりました。



Jリーグから学ぶこと。


取材班:ご自身なりの楽しみ方を見つけてスタジアムに通う中で、他人のため・クラブのために頑張ろうという気持ちが芽生え始めた転換点はどこだったんですか?

咲良:去年、一昨年からの話です。ずっと慕っていたコールリーダーだったりが仕事の都合で来れなくなり、自分が応援席の前に立つ機会が増えていきました。今までやってきたことを引き継がなきゃって思いもありましたし、それをただ引き継ぐだけじゃなくて、私なりに新たなチャレンジをしなきゃとも思うようにもなりました。サポーターや外部の人に向けて積極的に活動を始めたのは一昨年からです。


取材班:となると、奈良クラブを見る目線にも変化がありそうですが。

咲良:だいぶ変わりましたね。昔は勝っても負けても楽しくて、選手と触れ合って写真やサインを貰うのが楽しかったです。一昨年からは、例えば勝った試合でも喜んでる暇はないというか、チームとしては勝ったけどサポーターとしては課題が残ってるから次の試合ではこうしよう、みたいなことをめっちゃ考えるようになりましたね。


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取材班:咲良さんは他のクラブの試合にも足を運ばれている印象があるのですが、他のクラブのサポーターから学ぶことは多いですか?

咲良:多いですね。個人的には栃木SCと柏レイソルが好きです!栃木は大学生くらいの子が中心となって応援していまして、若いながらに周囲との関係性をどうやって築くかという部分でたくさん参考にさせていただいています。

レイソルはゴール裏を黄色で埋めようと動いていて、ビニール袋のTシャツみたいなものをユニフォームを持ってない人に配ったりしているのがいいなぁと思って。でもうちにはそんな予算がないので、「過去のユニフォームレンタルしよう!」って話になって、実際に過去のユニフォームをみんなで持ち寄って、初めて来た人に声をかけてレンタルしたりしています。

反応もだいぶ良い印象です。以前、試合中にずっと応援席を見ている人がいて、ハーフタイムに「ユニフォームをレンタルしているんで、良かったら応援席来ませんか?」と話しかけに行ったら、そこから毎試合来てくださっています。そういうのを見ると、やってよかったなーって思いますね。


取材班:奈良クラブの応援席はメインスタンドにあるんですよね?

咲良:はい!試合日はメインスタンドしか開放していないので、私たちはベンチの裏あたりで応援しています。座っている人と応援している人の距離が近いので、手拍子が伝染しやすいのはメリットです。あとは先ほど言ったように、「ずっとこっち(応援席)見てるな~」って人を見つけやすいので、気になった人にはどんどん話しかけに行っちゃいますね。

私自身、試合をあまり見れていないというか、どっちかというとメインスタンドの反応を見ながら応援を組み立てています。もう一人の太鼓が試合展開、私がメインスタンドの反応、という風に割り振っています。メインスタンドの反応があまり良くなかったら、状況に応じてチャントを切ったりしています。


取材班:話しかけに行っちゃうのはけっこう斬新というか、メインスタンドしか開放していない奈良クラブだからこそなせる業ですね。

咲良:私は奈良クラブを家族みたいなものだと思っていて。週末になればみんなとスタジアムで会えて、「学校どうやった?」とか、サッカー以外の話もたくさんします。

色んな人に話しかけに行っているのは、応援席に来る人の数を増やしたいという思いもありますが、スタジアムの中で"交流"をもっと作っていきたい気持ちがあります。私はサッカーの内容ではなく、そうしたスタジアムの雰囲気に魅了されて奈良クラブを好きになったのもありますし。

特に去年は、スタジアム内で色々な人に話しかけることを意識していたのですが、時間が限られているので難しい部分もありました。だから今は交流会やフットサル大会を主催してスタジアム外での交流の場を設けたりしています。スタジアム以外でも繋がっていられるようなサポーターの仲になっていったらいいなと思っていますね。私もサポーター仲間とプライベートでも遊ぶようになって、今すごく楽しいので!


取材班:咲良さんがより先頭で活動するようになったここ2年間、手ごたえはありましたか?

咲良:少しずつですけど、特に去年の1年間は増えてきた印象を持っています。クラブとサポーター、サポーターとサポーター、人と人を繋げていけるようになりたいです。


目指すは「歩く広告塔」。


取材班:取材にあたって咲良さんのSNSを拝見させていただいたところ、「歩く広告塔になりたい」という言葉が気になったのですが…。

咲良:(笑)。そう思ってます(笑)。奈良クラブのグッズは普段から使っていますし、アウェイに行った時は町中をユニフォームで歩いています。

サッカー好きな方からは「奈良クラブのユニフォーム着てるんですね」って声かけてもらうことも結構多いですね。「今日試合あるんですよー」って会話をすることで結果だけでも気にしてもらえたらいいなって思いますし、シーズン中はなるべくSNSで積極的に発信するようにしています。



取材班:学校の友人など、プライベートな関係性でも奈良クラブを布教しているんですか?

咲良:めちゃくちゃしてます。インスタもTwitterもサッカーアカウントではないので、私の発信は大学や高校の友達の目にも入ってるはずです。中には馬鹿にしてくる子もいるんですけど(笑)、「すごいね~」って言ってもらったり、試合を見に来てくれる子もいます。サッカーが好きじゃなくても、「咲良が頑張っているところを見に行くわ」って感じで来てくれたりするのは嬉しいです。


取材班:J3昇格のためには観客動員数も指標の一つですから、そうした積み重ねによってサポーターをいかに増やしていくかが大事なんですね。

咲良:先ほども言った通り、私自身がスタジアムの雰囲気で飲み込まれたタイプなので、楽しい応援や居心地の良さはサポーターで作れると思っています。

あとはそもそも、次の試合の日程を自分から調べない人が多いので、ゲートのところで「次の試合〇〇日にあるので来てください~」と呼びかけたりしています。スタジアムに滞在している間にできるだけたくさんの情報を伝えておくことが大事だと思っているので、こうした活動をしているクラブスタッフのお手伝いをしています。


取材班:咲良さんが奈良クラブのためにここまで捧げられる原動力はどこにあるんですか?

咲良:原動力はホームとアウェイで全然違って。ホームに行くのは試合を見れる楽しさもあるんですけど、スタジアムに行けばお馴染みの人がいて、行くたびにここ1、2週間の話をするのがすごく楽しくて…。親戚に会いに行くみたいな感じのノリですかね。スタジアムに行かないと会えない人がいるので、その人たちに会えるのが個人的には大きいかなと。

アウェイは旅行が好きなのもありますが、奈良クラブの応援席に誰もおらん状況だけにはしたくなくて。リーグを通して私も選手たちと一緒に戦っているつもりなので、一緒に戦うからには現地に行って感情を共有したいですし、JFLは試合のライブ配信がないので、サポーターのみんなにチームの状況をしっかり伝えられたらなと思っています。

でも、すべての根本にあるのは『奈良にスポーツを根付かせたい』という気持ちです。その上で、自分が現地に行って声を出すことでチームの力になれたらとか、チームがしんどい時にあと一歩踏み出せるように背中を押してあげられる存在になれればなという思いで毎試合足を運んでいます。


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奈良クラブが、人生を変えた。


取材班:奈良クラブと関わらなかったら、咲良さんの人生は違うものになっていたと思いますか?

咲良:私はもともと一人でいるのが好きなタイプで、皆で楽しくワイワイやるのが苦手だったんですけど、奈良クラブと出会ったおかげでみんなといるのが楽しいと思うようになりました。応援席には幅広い年齢層の方が遊びに来るので、色んな年代の人と話せるようになったことはバイト先でも役立ちますし、人間関係をうまいこと築けるようになったなとはすごく思いますね。

個人的なところでは、家族との会話がめちゃくちゃ増えた気がします。妹とお母さんも奈良クラブが好きで、お母さんと2人で車に乗って遠征したりするんですが、車で片道1~2時間2人っきりだと、プライベートな話もたくさんします。もし遠征に行ってなかったら、私は部屋で2時間引きこもっていたと思うので、こんなに話すこともなかったやろなーって。家族との距離が縮まったのも大きかったですね。


取材班:念のためお聞きしますが、カテゴリーが上のクラブ(=レベルの高い)の試合を見に行っても、奈良クラブを愛する気持ちが揺らぐことはありませんでしたか?

咲良:全然ないです。やっぱり私は地元の奈良クラブが好きです。


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取材班:ではそんな奈良クラブとともに、今後成し遂げたい目標があれば教えてください。

咲良:「J3昇格」はもちろんのことですが、昇格できても地域に愛されていなかったら寂しいので、地域に愛された奈良クラブがJ3に参入することで奈良県のスポーツに対する注目度が上がればいいなと思っています。

奈良にはバスケ、自転車、バレーボールなど多くのスポーツチームがあります。奈良クラブをはじめとして色んなチームに目線を向けていただきたいので、Jリーグ参入にとどまらず奈良県のスポーツをもっと知ってもらいたいなって思います。


取材班:先ほども『奈良にスポーツを根付かせたい』という発言がありましたが、そうした想いを抱くようになったのはいつからなんですか?

咲良:約3年前です。『Top Sports City 奈良』っていうイベントが毎年あって、その年は奈良クラブ(サッカー)、バンビシャス奈良(バスケ)、シエルヴォ奈良(自転車)、南都銀行シューティングスターズ(ホッケー)の4チームとそれぞれのファンが集まって運動会をしました。各チームのファンと話したら、それぞれ理由があって応援していて、でもどこもファンが少ないと。大阪や京都にファンを取られてしまうという話を聞く中で、「奈良県にはまだまだスポーツが根付いていないんだな」という課題意識を抱くようになりました。


取材班:お話を聞いている限り、地元愛がすごく強いんですね。

咲良:いや、もともと奈良は大っ嫌いだったんですよ(笑)。田舎すぎて、早く出ていきたいとさえ思っていました(笑)。でも奈良クラブを好きになって、そこから奈良に興味を持って調べたら「魅力的な県じゃん!」って気づいたんです。奈良という名前がついたクラブを応援しているだけで、地元愛がかなり増えました。

取材班:愛するクラブとの出会いが、サッカーへの印象、地元への愛、咲良さんの性格、すべてを変えたんですね。

咲良:はい。奈良クラブに出会って、私の人生はだいぶ変わりました。


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【了】

---------nest編集部より----------

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