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スタジアムをエンタメ会場に。J3を席巻するだんちょ~の挑戦。【SC相模原】

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J3・SC相模原の本拠地であるギオンスには、3シーズン前からお馴染みとなった光景がある。応援グッズなどを制作するワークショップだ。その企画からレクチャーまでの全てを一人で担当するのが、だんちょ~の愛称で親しまれる一人のサポーター。相模原市民ではない彼がSC相模原をサポートする理由、そしてワークショップを通じて目指す世界とは――。

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【プロフィール】
だんちょ~。SC相模原サポーター。2017年よりホームスタジアムでのワークショップ活動をスタート。ユニークかつ実用的なアイデアで人気企画を生み出し、老若男女問わず高い人気を誇る。Twitterアカウントはこちら。

スタジアムでワークショップ!?

取材班:本日はよろしくお願いいたします!実はとあるサポーターから「スタジアムでワークショップ活動をしている、面白い方がいる」とのことで推薦いただき、今回の依頼に至ったんです。

だんちょ~:よろしくお願いします!僕はSC相模原のサポーターで、昨シーズンはホーム全試合、アウェイでも数試合でワークショップを開催していました。

取材班:ワークショップというと、どういった内容で開催していたのでしょうか?

だんちょ~:試合日によって様々ですね。選手の応援うちわを作ったり、風鈴を作ったり、バスボムを作ったり、トートバックにガミティ(マスコットキャラクター)を染める「たたき染め」だったり、基本的にはSC相模原に絡めて、内容はその時次第で決めてっていう感じです。

取材班:めちゃくちゃ幅広いですね!、そして何より皆さん楽しそう!これ全部だんちょ~さんのアイデアで?

だんちょ~:まぁ一応そうです。僕は元手がないので「身の回りにあるもので楽しくオリジナルグッズを作ろう」というところで。たとえば先ほど言った「たたき染め」のワークショップでは、スタジアムに併設する公園の雑草をむしって材料にしましたし、なるべく自然界のものを使おうとは意識しています。

アイデアは…その時その時で思いついたもの、って感じですかね(笑)。

取材班:いつ頃からやられているのでしょうか?

だんちょ~:2017年からです。クラブに「ホームゲーム全試合でワークショップをやらせてほしい」と直談判して今に至ります。

相模原に恩返しがしたい。

取材班:すごく気になるのが「どうしてこのような活動をされているのか」という部分なんですが、そもそもSC相模原との関わりはいつ頃から始まったのでしょうか?

だんちょ~:僕は2012年くらいから相模原で地域おこしの活動をしているのですが、その一環として作っていた野菜をスタジアムで売ってほしいとクラブ側から依頼されたのが最初です。その機会が2015年と2016年に1試合ずつありました。

取材班:最初は出店側だったんですね。それ以前にサッカーとの関わりはあったのでしょうか?

だんちょ~:実は僕、20代前半まで全く違うチームの応援団体に所属していたんです。でも自分の至らなさもあり、そこを離れることになって。その後5、6年はJリーグを見ることすらしていなかったので、2015年に出店者として見たSC相模原の試合が本当に久々だったんですね。

取材班:初出店から2年後にワークショップの活動を始めると思うのですが、だんちょ~さんの中で何が原動力になって、そのような行動を引き起こしたのでしょうか?

だんちょ~:一番大きかったのは、相模原という地域に対する恩返しです。地域おこしのボランティアをしていく中で、お世話になった方もたくさんいましたし、相模原の将来を憂いている方々に何かできないかな?と考える部分も結構あって。あとは一度サッカーから離れた自分に居場所を与えてくれたって意味でも、相模原への恩は大きいです。

「じゃあ僕に何ができるのか?」って考えたときに、プロスポーツクラブの存在意義と地域活性って重なる部分が相当あるんじゃないかなと。2015年に久々にJリーグを見て、スポーツが好きって思いが自分の根底にあることも確認できたので、SC相模原を通じて地域に貢献できる活動をしたいなって思いました。

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スポーツの存在価値とは。

取材班:そこから「ワークショップ」という手段を選んだのはどうしてですか?

だんちょ~:これはサッカーから離れている間に感じたことなのですが、日本のスポーツは勝敗に着目しすぎというか、もっと結果に依存せず楽しめるものであるべきだと思うんです。

たとえば2014年のソチオリンピック。浅田真央選手の演技が振るわなかったときに叩く人が一定数いましたが、僕としては許せなかった。彼女はとてつもない価値を見ている人に与えたにも関わらず、それを含めて全否定しているかのようで。ひいてはスポーツの価値すら否定されている感じを受けました。

「結果に依存せずスポーツを楽しむ」って考え方をこの国で広げていかなくちゃいけないって考えたときに、それを牽引できるのはプロスポーツクラブだと思います。使命感って言ったら大袈裟ですけど、そのためにはスタジアムがエンターテイメントに富んだものでないといけない。とはいえ僕には協力者もお金もない、という観点から出てきたのがワークショップでした。

取材班:一人でやることに対する不安はなかったですか?

だんちょ~:今思えば「よくやったな」と(笑)。でも初めて開催した日に立ち寄ってくれたコアサポの方が拡散してくれたみたいで、5回目くらいで既にそこそこにぎわっていた記憶がありますね。

取材班:ワークショップのターゲットはどのような方を想定しているのでしょうか?

だんちょ~:これまでのシーズンでいうと、「試合に飽きちゃうお子さんやお母さん」です。たとえば、お父さんはサッカーが好きだけどお子さんはあまり好きじゃない、みたいな家族ってあると思うんです。そんな時に、サッカーでは満たせない楽しみや喜びがスタジアムの中にあれば、SC相模原との関係を家族全員が持ち続けたくなるのでは?と思って、そういう人たちをターゲットにしています。

最初は、そんなこと全く考えてなかったです。とにかくホームゲームにないものの中で、自分ができることを提供するっていう感覚でした。でも、お客さんはさっき言ったような方が多くて、実際に「ウチの娘はサッカーが好きじゃないけど、ワークショップが楽しみで毎週来てるんです」って言葉をいただく中で、この活動の大切さを気づかせてもらいました。

取材班:サッカーだけをやっているスタジアムだと、サッカーに興味がなければ次回以降は足を運んでくれなさそうですよね。

だんちょ~:リピーター戦略じゃないけど「お父さんだけで観に行ってきなよ」って言われないようにする。娘は娘でスタジアムに楽しみがあるというか「お父さんがサッカー見てる間、私たちは外で時間をつぶしているよ」でもいいから、同じ場所で時間を共有してほしいなと。それがないと観客動員も厳しいのかなって思います。結果の良しあしに関係なく、「また来ようね」って思ってもらうためには、スタジアム外での活動が大事だと感じます。

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取材班:というと、試合中もワークショップをやっているんですか?

だんちょ~:そうですね。試合に飽きちゃう人が出てくるからずっと開けてますよ。むしろ試合中こそ本領発揮かな。だから昨シーズンのホームゲームは1試合も生で見れなくて、チームの細かい話を聞かれると少し厳しいかもしれない(笑)。

取材班:それはビックリと言うか、いや、すごいですね…。

だんちょ~:自分の役割に徹しているので、試合を見たいって感覚は実はあまりなくて。この活動が必要とされているんだっていう使命感の方が大きいです。

応援がメインの時は自己中心的というか、自分が享受したい喜びとか楽しみのためにスポーツに関わっていました。でも今は周り中心の感覚。僕の周りにいる人たちがどう思ってくれるのか、という視点でスポーツと関わっています。

取材班:「試合中にサッカー以外の楽しみを作る」というのは僕にとっても全くの盲点でした。

だんちょ~:家の近くに違うクラブのスタジアムがあるので、年に何回か散歩がてら視察に行くのですが、やっぱり試合が始まるとイベントスペースをガタガタと撤去していて。現実問題、金銭面を考えるとメリットは少ないんでしょうけど、試合中でもフラッと立ち寄れるようなものを提供できれば、クラブの関係人口は増えていくのかなって思います。

取材班:だんちょ~さんが掲げる「スポーツの楽しみ方」を理解してくれる方が増えている実感はありますか?

だんちょ~:とはいってもサポーターである以上、勝敗がどうでもいい人はいないので、負けても大丈夫って思えるかどうかが大事だと考えてます。もし負けても、「今日はこのイベントに参加だ来たからいいじゃん」「スタグル美味しかったからいいじゃん」って思ってもらえるような取り組みをしていく中で、少しは影響を与えられているかもしれないなとは感じていて。

去年の活動でいうと、試合当日にワークショップの講師をやってくれたり、僕のサポートをしてくださる方がたくさんいました。少なくともそういう方にとっては、今までとは違う視点での価値を感じてくれたのかなと思います。

日本全国をかけまわる理由。

取材班:アウェイ会場でもワークショップをやっているとのことですが、その意図はどこにあるのでしょうか?

だんちょ~:一言でいうと、「僕と一緒にスポーツを変えたい人がいないかな」っていう声かけのつもりでやっています。場所が必要だというワークショップの特性上、時間的な制約はかなりあります。でも全国にネットワークができたら、この考えが伝わるスピードが上がって、輪も広がっていくのかなと。たとえ参加者が少なくても、思いを持っている人に届けば僕は満足できます。

取材班:アウェイで行ったワークショップのうち、何か思い出深いものはありましたか?

だんちょ~:2019年の熊本戦ですかね。試合会場での僕の活動を気に入っていただけたみたいで、試合後に熊本サポの花見に呼んでもらって。そこで知り合った一人の学生が「熊本を襲った地震を風化させたくない」と言うんです。(※その試合は熊本地震復興支援マッチとして開催された)

で、シーズン後半にホームで熊本を迎えるとき「熊本を知ってもらえる企画として物産展をやらせてほしい」と僕に相談が来て、サポーター有志で熊本物産展をやらせていただきました。アウェイでのつながりがホームで花咲いたって意味では、最も印象深い出来事です。

取材班:だんちょ~さんがいたからこそ、スタジアムにまた一つエンターテイメントが生まれたわけですね。

だんちょ~:自分で自分を評価するつもりはないけど、こういう意識で動く人が全国にいると、提供できるコンテンツの幅が広がっていくはずです。熊本サポの想いとしては「復興の最中である熊本の物産を買ってほしい」。でもお客さんからすると、食のエンターテインメントというか、純粋な楽しさがスタジアムにある。

想いが乗っかっていることも大切ですが、地域性を生かすってのはJリーグの優位性だと思っていて。サポーターの交流の中で色んな企画が生まれていけばいいんじゃないかなって思います。

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人気チームが、弱いわけがない。

取材班:だんちょ~さんは今後、SC相模原をどう成長させていきたいですか?

だんちょ~:市民のみんなが参加できるクラブ。実は昇格や優勝に強いこだわりはないんです。でも理想である「市民70万人が何かしらの形でSC相模原を応援する」っていう形ができたとき、そのクラブが弱いわけがない。

僕はサッカーに対しては何も関与できないし、投資もできない。でも、チームを強くする土壌を作ることはできる。そうやってSC相模原の成長ストーリーに関わって、満員のスタジアムで選手を迎えて、選手が神がかった力で勝利を重ねていってビッグクラブを打ちのめすのが最高に気持ちいいなと。

取材班:そのためにも、だんちょ~さんのような活動を他のサポーターにもやってほしいと思っていますか?

だんちょ~:今の僕には大した影響力がないと思っているので、人の心を動かすのは流石に難しいと思います。だからまずは「僕と一緒になんかやってくれたら嬉しいな」って感じですかね。ワークショップはあくまで手段の一つ。もし僕と一緒にやって感じたことやアイデアがあった時に、それがより有効な手段であれば、どんどん力を貸していくつもりです。

取材班:いずれにせよ、サッカー以外の価値を高めていく活動は続けていくということですね。

だんちょ~:考えさせられることはたくさんあります。たとえば、5Gはスポーツの観戦体験を変えると言われていて、将来は自宅観戦がより定着してくる可能性があります。確かにスタジアムに行かなければ、日焼けせずに済むし、視力の関係でよく見えないなんてこともないし、大事なプレーを見逃すこともない。

てなると、スタジアムで提供できる価値は観戦ではないかもしれない。逆に今、観戦だけを追い求めてる人がいたら、現地観戦の価値が今後下がってしまうかもしれない。そういう流れを考えると、スタジアムの在り方をもう少し真剣に考えないとっていう危機感はあります。

SC相模原を地域のアイコンに。

取材班:クラブの認知を上げていくという段階において、だんちょ~さんが考える策のようなものがあればお聞きしたいです。

だんちょ~:スタジアムでワークショップをしていく中で、スポンサーとの関わりが少しずつできてきました。「SC相模原にどういう思いを持っているのか?」「なんでこんなことやってるのか?」とお話をする中で気づいたのが、やっぱり地域貢献の意味合いでスポンサーをしている企業が多いんです。

正直、J3のチームにスポンサーをするだけで、その広告費を回収するのは一部を除いてなかなか厳しいと思います。なので利益というよりは、普段のビジネスの中では疎かになりがちな「地域貢献」を一緒にやれる仲間と、つながる感覚で集まってる印象です。そんな人と一緒に何かできれば、SC相模原に関わる人が増えるのかなと。

企業にはお客さんのネットワークがありますが、その層はSC相模原の層とはまた違うはずです。そこに向けて企画などを通じてコンテンツを発信できれば、新規層を迎え入れることができるのかなって。たとえば、怪しいコンビニと呼ばれているローソンスリーエフ富士見町店オーナーの渡邊さんのように、オリジナル商品を開発・販売し、コンビニの客層にSC相模原を認知させてきた方もいます。

渡邊さんからも「スポンサー企業がどれだけクラブを使えるか」という言葉をよく聞くのですが、スポンサーを通じて相模原市民に知ってもらうというのも、一つのやり方だと思います。

取材班:SC相模原というクラブを中心に、地域貢献への取り組みが活性化して同志の企業が集まってくるだけでも、良い効果を生みそうですよね。

だんちょ~:スポーツクラブが地域のアイコンとして存在することが理想ですね。「地元のために」というのは、相模原で商売をやっている企業に共通する部分だと思っています。スポンサーにならずとも「SC相模原を中心にやってる地域貢献が面白いから関わってみたい」って企業が出てきてもいいと思うし、直接的なお金は生まないにせよSC相模原にとってもメリットですよね。

取材班:最後の質問です。もともと「相模原への恩返し」を原動力に始めた取り組みだと思いますが、満足はされていますか?

だんちょ~:恩返しなんて10%もできてないんじゃないですか? 終わりなき旅だと思いますよ。ゴールなんてものはなくて、思ったときから続けていくことに意味がありますし、僕は死ぬまで続けていきたいなって思ってます。

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【了】

----------nest編集部より----------

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