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(仮題)伝奇系ホラー

Twitterで言葉を募集して作る小説
伝奇系ホラーの一部です

 『護です。突然知らない人から手紙を届けられ、驚かれた事と思います。
 その方は恐らく信頼出来る方なので、まずは安心して下さい。

 さて、どのように伝えれば良いものか。私も書きながら随分迷いましたが、まずこの手紙は遺言です。

 なぜこの手紙を書かねばならない事態になったのかは、説明するのが難しいです。この手紙を届けてくれた人にもきっと分かりません。

 ここまで書いてて思ったのですが、もしかすると私が死んだという確証は得られない可能性があります。
 その際は私が居なくなって七年経ったら失踪宣告の手続きをして下さい。

 自分で書くのも少し気が引けるのですが、私の死体は見つからないような気がするのです。その辺りは、もし分かりそうであれば手紙を届けた人に聴いていても良いと思います。

 そうそう。大事な事を忘れそうでした。権利書や預金通帳、印鑑等は私の書斎にある金庫に入っています。
 暗証番号と鍵は机の引き出しにあるので、自由に使って下さい。

 最後になりますが、どのような結末を迎えるにせよ、私はあなたと会えただけで十分に生を全う出来たと胸を張って言うことが出来ます。

 いつまでも、あなたの幸せを願っています』

 祖父が亡くなった?手紙を読み終えても全く実感が湧いてこない。私が最後に見た祖父は、死とは縁遠い元気な姿だ。

 四日前に突然祖父が居なくなった。居間でくつろいでいた筈の祖父は、食べかけのミカンと流したままのテレビを置いて忽然と消えた。

 祖父の事だからすぐ戻るだろうと思った私は、あまり気にせず寝てしまった。
 祖父が現役の武術家であり、恨みを買うような人柄でもない事から、ただの外出だろうと油断したのだと思う。

 事の重大さを認識したのは、祖父が翌朝も戻っていなかった時だ。
 すぐに警察や近所の人、祖父の御弟子さん達に連絡した所、皆が懸命に捜索してくれたが、祖父の足跡は全く追えなかった。

 祖父と私は二人暮らしだ。祖父に何かあったらと考えると居ても立っても居られない気持ちだ。
 途方に暮れていた今日、目の前の人が祖父からの手紙を届けてくれたのが顛末だ。
 綺麗な若い女性だ。祖父との接点が全く思いつかない。

「手紙を届けてくれて有難うございます。あの、祖父とはどこで…」
 どこで別れたのか。どこで会ったのか。どちらを聴くべきかを迷う。

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