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【シナリオ】イルカロード

シナリオセンター通信本科課題8「窓」

なんでも屋社長の米沢のもとに弟子入りしにきた小学生。それはかつて出て行った妻が連れて行った息子の蒼汰だった。

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<人物>
米沢浩史(40) なんでも屋の社長
園田蒼汰(9) 小学3年生
園田文香(35) 蒼汰の母
今野銀太(24) なんでも屋の社員
園田祐介(42) 文香の再婚相手
柏木春恵(79) なんでも屋の客
森崎義雄(75) なんでも屋の客

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〇園田家・前
真新しい一軒家の前。
引っ越しのトラックが道を塞いでいる。
『高齢者専用なんでも屋』と書かれた
ワゴン車がクラクションを鳴らす。

〇なんでも屋のワゴン車・車内
運転席に今野銀太(24)、助手席に米沢浩史(40)。
横の窓から外を見る米沢。
家の前に立つ園田蒼汰(9)。
目が合う蒼汰と米沢。
ふとベランダを見る蒼汰。
つられて見上げる米沢。
ベランダに園田文香(35)と園田祐介(42)。

米沢「文香…?」

再び蒼汰を見る米沢。
蒼汰、不服そうにベランダを見ている。

〇園田家・蒼汰の部屋
文香と蒼汰が来る。嬉しそうな文香。

文香「ここが蒼汰の部屋だって。
   初めての自分の部屋、どう? 気に入った?」

ベッドを見つめる蒼汰。

蒼汰「……」
園田の声「文香~」
文香「パパが呼んでる。はーい」

浮かれ気味に出ていく文香。

蒼汰「…パパじゃない」

〇なんでも屋のワゴン車・車内
運転席に銀太、助手席に米沢が乗り込む。
助手席の窓がノックされ、
米沢が見ると外に蒼汰がいる。

米沢「……」

〇なんでも屋事務所・駐車場
なんでも屋のワゴン車の助手席を
覗き込む蒼汰。
窓が開き、米沢が顔を出す。

蒼汰「料理とか掃除とか…
   そういうの教えてください!
   お金はあります!」

と貯金箱を差し出す。

米沢「ママの手伝いでもすんのか?」

真剣な表情で米沢をじっと見る蒼汰。

米沢「…乗れ」

〇森崎家・リビング
森崎義雄(75)とオセロをする蒼汰。
買い物袋を持った米沢と銀太が来る。

森崎「この子、社長の息子かい?」
蒼汰「違うよ! 弟子だよ!」
米沢「…おい、手伝え」

台所に行く米沢と蒼汰。
銀太、買い物袋から雑誌を出し、
森崎に渡しながら、

銀太「だめっすよ~社長に息子の話しちゃ!」
森崎「なんとなーく似てないかい?」
銀太「昔、親父さんの介護が嫌で、奥さん、
   息子さん連れて出てっちゃったんすから」
米沢の声「おい、銀太、早く来い!」
銀太「あーい!」

〇園田家・食卓(夜)
料理を並べる文香。
蒼汰、ピーマンの肉詰めを見つめる。
園田が席につく。

園田「うまそう! これ好きなんだよ~」
文香「そう言ってたから作ってみました~」
蒼汰「…僕、全然好きじゃない」

ぼそっと一人つぶやく蒼汰。

〇道
なんでも屋のワゴン車が走っていく。

〇なんでも屋のワゴン車・車内
運転席に銀太、助手席に米沢。

銀太「事務所の前の道が海に繋がってるとか、
   ロマンチックすねぇ~」

後部座席で車窓を眺めている蒼汰。
イルカの描かれた看板を通りすぎる。

蒼汰「!」

ハッと看板を目で追う蒼汰。
驚いたように目を見開き、
窓の外を見たまま、固まっている。

蒼汰「……」
銀太「キター!! イルカロード!! キター!!」

一面に広がる海。窓を開ける銀太。
車内に一気に風が入り込む。

米沢「(ぼそっと)…懐かしいな」

蒼汰、海側とは逆の道沿いの住宅を
一生懸命目で追っている。

蒼汰「……」

〇柏木家・リビング
大きな一軒家。引っ越し準備中の様相。
柏木春恵(79)と米沢、銀太、蒼汰。

蒼汰「お引っ越しするの?」
春恵「おじいさんおばあさんのお家に行くの」
蒼汰「この家、誰も住まなくなっちゃうの?」
春恵「そうねぇ。僕、代わりに住んでくれる?」
蒼汰「…タダ?」
米沢「おいおい…」

〇園田家・前(夕)
なんでも屋のワゴン車が停まり、
蒼汰が降りる。
米沢、助手席の窓から、

米沢「じゃあな」
文香の声「蒼汰?」

蒼汰、振り向くと文香がいる。

米沢「……」

米沢を見て凍り付く文香。

文香「蒼汰…何してるの?」
蒼汰「ママには教えない」

文香、すごい形相で蒼汰の頬を叩く。

蒼汰「!」
米沢「おい!」

蒼汰を引きずるように家に入る文香。

米沢「……」

〇なんでも屋事務所
リサイクル品手入れ中の米沢と銀太。

銀太「最近、蒼汰、来ないっすねぇ」
米沢「……」

文香が駆け込んできて米沢に詰め寄る。

文香「蒼汰?! どこ?!」
銀太「なんすか! 来てないっすよ!」
米沢「いないのか?」

紙を見せる文香。
『ここはぼくの家じゃない』の文字。
紙を見つめる米沢。アッとなって、

米沢「銀太、車のキー貸せ」

〇道・イルカの看板前
なんでも屋のワゴン車が通り過ぎる。

〇なんでも屋のワゴン車・車内
助手席に文香。

文香「ここって…」

じっと前を向きハンドルを握る米沢。

米沢「……」

〇柏木家・前(夕)
蒼汰が自転車の脇に座り込んでいる。
なんでも屋のワゴン車が停まり、
文香と米沢が降りてくる。
駆け出す文香。

蒼汰「来ないで!」
文香「蒼汰…」
米沢「お前、チャリで来たのか? やるなぁ」

米沢、ゆっくり蒼汰に近づいてしゃがみ、
蒼汰の顔をじっと見る。

米沢「ここ、さすがにタダじゃ住めねぇぞ?」
蒼汰「…本当のパパの家に住む」
米沢「…本当のパパ、覚えてんのか?」

首を横に振る蒼汰。

蒼汰「でも、あのイルカの看板は見たことあるんだ。
   もっと小さいとき、車の窓から…。
   ここにいたら、パパが車で通って、
   僕のこと見つけてくれるかも
   しれないでしょ?」

蒼汰の頭をぐしゃっとする米沢。

米沢「俺もチャリで家出したことあるぞ」

蒼汰の脇に座る米沢。

米沢「俺がお前くらいんときな、
   親父が事故で体が動かなくなったんだ。
   その日からおふくろは親父にかかりっきり」
文香「……」
米沢「おふくろを親父に取られて
   さすがの俺も寂しくなっちゃったんだな。
   で家出した」
蒼汰「…それからずっと独身貴族なの?」
米沢「お前、銀太に何吹き込まれた?」

蒼汰キョトン。
米沢、気を取り直して、

米沢「で、どうだ? チャリこいでここまで来て、
   ここのモヤモヤはなくなったか?」

と蒼汰の胸を叩く。
首を横に振る蒼汰。

米沢「俺が家出してわかったモヤモヤの
   解決方法は一つだ。
   はっきり言葉にしてみろ。
   お前のママも人間だからな。言葉は通じる」
蒼汰「でも…モンスターになったら?」
文香「……」
米沢「ママはもう平気だ。それに…」

蒼汰の頬に手を当てる米沢。

米沢「何があっても俺がどうにかしてやる。
   師匠だからな」
蒼汰「……わかった」

意を決して文香のもとに進む蒼汰。
文香をじっと見て大きく息を吸い込み、

蒼汰「ママをおじさんに取られて、
   さすがの僕も寂しくなっちゃったんだっ!」
文香「……」
蒼汰「たまにはママとお話しながら寝たいし、
   ピーマンも細かくしてほしいんだっ!」
文香「蒼汰…」
蒼汰「そうしないと…そうしないと…
   僕も明日から独身貴族になっちゃうからね!」

文香、ふっと笑って蒼汰を抱きしめる。

文香「ごめん、蒼汰…ごめんね…」

蒼汰のおなかが盛大に鳴る。

蒼汰「…ハンバーグ食べたい」
文香「お家に帰って、一緒に作ってくれる?」
蒼汰「…ピーマン入れないでね」

米沢、ふっと笑い、車へ歩き出す。

〇なんでも屋事務所・駐車場
なんでも屋のワゴン車の助手席を覗く蒼汰。
窓が開き、米沢が顔を出す。

米沢「おい、ママに怒られ…」

蒼汰、重箱の包みを窓から突っ込む。

蒼汰「お弁当。ハンバーグだって」
銀太「いいねぇ! 乗れ乗れ!」
米沢「おい!」

蒼汰が乗り込み、ワゴン車が走り出す。

<終わり>

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