【シナリオ】羊、空を舞う
シナリオセンター通信本科課題1「ハンカチ」
いじめっ子にちょっかいを出されても、心太朗は元気に学校へ向かいます。大好きな幼馴染のみーちゃんがいるから。そんな心太朗の下駄箱にバレンタインのチョコが…。
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<人物>
宇野心太朗(16) 高校1年生
宇野心太朗(5) 幼稚園児
竹内美翔(みか)(16) 心太朗の幼馴染
竹内美翔(みか)(5) 心太朗の幼馴染
宇野一葉(26)(15) 心太朗の姉
鈴森武(16) 心太朗のクラスメイト
宇野幸江(49)(38) 心太朗と一葉の母
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〇宇野家・ダイニング
3LDKのマンションの一室。
お絵描き中の宇野心太朗(5)と竹内美翔(5)。
心太朗はハートを、美翔はモコモコを
描きまくっている。
それを眺める宇野一葉(15)と宇野幸江(38)。
一葉「みーちゃん、何それ?」
心太朗「羊さんだよ」
美翔「みーちゃんのお名前、羊さんいるの」
幸江、画用紙にクレヨンで『美翔』と書き、
それぞれ羊に〇をつける。
一葉「もはや謎解きじゃん」
心太朗「みーちゃんの羊さんかわいいねぇ」
美翔「心ちゃんのハートもかわいいねぇ」
見つめ合ってにんまり笑う二人。
〇宇野家マンション・外観(朝)
〇宇野家・ダイニング(朝)
のんびり朝食を食べる宇野心太朗(16)。
テーブルの上に『秋田第三高校』のパンフレット。
タブレットに映る宇野幸江(49)とビデオ通話中。
宇野一葉(26)、心太朗に弁当を渡す。
一葉「今日はバレンタインスペシャルだよ」
ニコニコで受け取る心太朗。
幸江「今日こっち雪すごいのよ~
あんたたちも慣れるまで大変よ~きっと。
ねぇ、心ちゃん。時間平気なの?」
箸くわえて一葉を見る心太朗。
一葉「え、私? 今日休み」
心太朗、目を大きく開き、驚きの表情。
〇双葉高校・正門(朝)
せっせと走る心太朗。
〇同・昇降口・中(朝)
駆け込んでくる心太朗。
竹内美翔(16)が靴を履き替えている。
心太朗、息整え、
心太朗「みーちゃん…おはよ…」
そっと周囲をうかがう美翔。
美翔「…おはよ」
言うや否や、その場を去る美翔。
心太朗、美翔の背見て小さくにんまり。
鈴森の声「朝から邪魔くせぇなぁ」
鈴森武(16)、心太朗を見下すような目。
心太朗、おずおずと脇に寄る。
〇同・教室
床に散らばる弁当。呆然と立つ心太朗。
ニヤニヤ見ている鈴森と取り巻き達。
心太朗、膝をついて片付け始める。
席からその様子を見ている美翔。
女子生徒「美翔~、はい、友チョコ~」
とラッピングされたチョコを差し出す。
美翔、ハッとして、
美翔「あ、かわいい~。待って、私もある」
心太朗、弁当を手に教室を出ていく。
美翔「……」
〇同・外観
チャイムの音。
〇同・昇降口・中
下駄箱を開ける心太朗。
心太朗「!」
素早くぱたんと閉める。
周囲をうかがい、ゆっくり下駄箱を開ける。
中にラッピングされたハートのチョコ。
心太朗「……」
下駄箱の裏に鈴森と取り巻き。
陰から心太朗を覗き見て、ニヤッと笑う鈴森。
〇宇野家・ダイニング(夕)
心太朗、姿勢よく座り、
嬉しそうにチョコを眺めている。
一葉、来て、
一葉「弁当おいしかった?」
心太朗「え? あ…うん…」
チョコに目を向ける一葉。
一葉「えぇ⁈ あんたチョコもらったの⁈」
心太朗、鼻の穴膨らむ程のどや顔。
一葉「至急お母さんに報告しなければ…」
とスマホを手に取り、
一葉「じゃあ、ここから一か月が勝負ね」
キョトンと一葉を見る心太朗。
〇デパート・ハンカチ売り場・前
戦場に向かうかの如くたたずむ心太朗。
緊張の面持ちで一歩を踏み出す。
〇商店街
歩く美翔。
一葉の声「みーちゃーーーん」
美翔振り返ると自転車の一葉が来る。
かごを見る美翔。食材でいっぱい。
一葉「絶賛食べ盛り中。あ、弟がよ?」
美翔「……」
一葉「みーちゃん、学校どう?」
美翔「…うん、楽しい」
一葉「よかった。少し心配だったの。
中学ん時心太朗のせいで
迷惑かけちゃったから」
美翔「……」
一葉「心太朗もなんとかうまくいってるみたいだし。
今日もさ、すっっっごい考えて、
バレンタインのお返し買いに…あ…」
美翔「え?」
一葉「いやいやいやいや…まだ寒いねぇ」
美翔「……」
〇デパート・ハンカチ売り場
両手にハンカチ持って困り顔の心太朗。
ふと横の棚見て、パーッと目を輝かす。
〇双葉高校・4階廊下
人気のない廊下。窓の外は青空。
心太朗と美翔。
心太朗「あの…えっと…これ…チョコの…」
と、はにかみながらハンカチの箱を差し出す。
顔を強張らせる美翔。
美翔「……私じゃない」
心太朗「…え?」
美翔「こんなところ誰かに見られたらまた…
また中学の時みたいに…私まで…」
心太朗のはにかんだ顔がひきつる。
美翔「私に話しかけないで…お願い…」
心太朗の顔からスッと笑みが消える。
鈴森と取り巻きがやってくる。
鈴森「お前にチョコ渡す奴なんているわけねぇだろ。
バカか?」
硬直している心太朗。俯く美翔。
鈴森「え、それともお前らそういう関係?」
美翔「ちが…」
心太朗「違う‼」
廊下に響く心太朗の声。
美翔「……」
鈴森「んだよ、るせぇな」
心太朗「みーちゃ…竹内さんは関係ない…」
美翔「……」
鈴森、箱を奪い、心太朗を突き飛ばす。
倒れる心太朗。
雑に箱を開ける鈴森。
小さな羊の刺繍の入ったハンカチ。
鈴森「ハンカチ! だせぇ~。これ何? 羊?」
ハッとする美翔。
鈴森「なんで羊なんだよ! センス疑うわ~」
と窓からハンカチを投げる。
ハンカチを目で追う美翔。
心太朗、廊下の隅で両ひざに顔をうずめ、
座り込んでいる。
〇同・裏・外観
青空の下、舞い落ちるハンカチ。
〇宇野家・心太朗の部屋(朝)
膝を抱えて座っている心太朗。
〇双葉高校・教室(朝)
朝のざわつき。
心太朗の席を見る美翔。
美翔「……」
鈴森と取り巻き達、心太朗の席見て、
鈴森「え、何? あいつ死んだ?」
とへらへら笑う。
静かになる教室。
勢いよく立ち上がる美翔。
倒れる椅子。
美翔「あんた最っ低…でも…」
教室を出ていく美翔。
〇宇野家マンション・前
引越しのトラック見送る心太朗と一葉。
美翔が来るのが見える。
心太朗「みーちゃん…」
一葉「あ、ちょっとコンビニ行ってくるね」
と心太朗の肩をポンと叩き駆けていく。
美翔、心太朗に小さい紙袋を押し付け、
美翔「チョコ」
心太朗「え?」
美翔「あと、これ…」
とポケットからハンカチを出す。
羊の刺繍の入ったハンカチ。泥のシミ。
心太朗「……」
美翔、それも心太朗に押し付け、
美翔「……私が一番最低だった…ごめん」
パッと背を向けて歩き出す美翔。
心太朗「……」
ハンカチを見つめる心太朗。叫ぶ。
心太朗「みーちゃんは嫌かもしれないけど‼」
立ち止まる美翔。
心太朗、美翔の前に回り込み、ハンカチを押し付け、
しっかりと美翔の目を見る。
美翔「……」
心太朗「みーちゃんは僕の一番の友達だから。
大切な友達。今までもこれからもずっと」
美翔「……」
ハンカチを握りしめる美翔。
美翔「……嫌なわけないじゃん」
心太朗「……」
美翔「ありがとう…心ちゃん」
微笑む美翔に急に照れる心太朗。
目を合わせ、にんまり笑う二人。
〇新幹線・車内
心太朗、大きなハートのチョコを大切そうに
両手の上に乗せ、にこにこ見つめている。
一葉、心太朗を小突き、
一葉「なんかいいことでもあった? ん?」
心太朗、思いっきり照れながら、
大きなハートのチョコを見つめ続けている。
<終わり>
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