【シナリオ】すすきが原に風が吹く
シナリオセンター通信本科課題7「すすき」
一方的に婚約者に別れを告げて、一人、思い出の地〈すすきが原〉に向かう未央。そんな未央の前に、迷子の少年クウが現れて…。
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<人物>
矢吹未央(32) 会社員
五味雄大(34) 未央の婚約者
クウ(5) ダイゴ池に住む少年
ゼン(70) ダイゴ池に住む男
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〇ダイゴ池
暗い森。濃い霧。
池を覗くクウ(5)。何も映らない。
手を見ると透けている。
クウ「……」
隣に立つゼン(70)に手を見せるクウ。
ゼン「……」
池に視線を移すゼン。
途端に霧が晴れ、ススキの草原が広がる。
ゼン「夜明けまでだよ」
クウ「……」
〇すすきが原(早朝)
『すすきが原』の看板。
ススキの草原。遠くに山々。
山際が赤く染まり、空が徐々に白んでくる。
強い風が吹き、一斉に揺れるススキ。
朝日に照らされるススキの中に、
クウがぽつんと立っている。
〇未央の家・寝室(早朝)
そっとベッドを出る矢吹未央(32)。
ベッドでは五味雄大(34)が眠る。
〇同・リビング(早朝)
アウトドアウエアの未央、
棚の小物入れから車のキーを取り出ていく。
壁に写真。ススキの草原の中の未央と雄大。
〇道(早朝)
一台の車が走っていく。
〇未央の家・リビング(朝)
眠そうに見回す雄大。空の小物入れ。
雄大「……」
足元のゴミ箱にくしゃくしゃの婚姻届。
婚姻届を拾い、皺を伸ばす雄大。
雄大「……なんなんだよ!」
雄大、再び婚姻届をくしゃくしゃにして
ゴミ箱に投げ捨てる。
〇サービスエリア・ベンチ(朝)
コーヒーを飲む未央。
赤ちゃん連れの家族をぼーっと見ている。
未央「……」
未央のスマホに『五味雄大』から着信。
スマホ裏返し、ため息をつく未央。
〇すすきが原キャンプ場・管理棟
管理人の立つ受付に未央。
管理人「今ちょうど見頃ですよ」
微笑む未央。
〇同・テントサイト
テント設営中の未央。
ペグを打っているとスマホに
『佐江』からメッセージ。
『お姉ちゃん今どこ?
雄大さんにちゃんと話した方がいいよ』
未央「……」
ペグにトンボがとまる。
未央「ちゃんと話したら、あっちだって
別れづらくなっちゃうじゃんね」
飛んでいくトンボ。ペグを打つ未央。
〇すすきが原
観光客でにぎわっている。
クウ、女性客の構えたカメラの前に
邪魔するように立つ。
女性客、何も気にせず写真を撮り、
行ってしまう。
クウ、他の女性客の目の前で飛び跳ねるが、
女性客はクウの脇を通って行ってしまう。
肩を落とすクウ。
〇すすきが原キャンプ場・展望台
遠くに山々。眼下に広がるススキの草原。
眺めている未央。
ふとベンチを見るとクウが座っている。
目が合う二人。
周囲を見回す未央。他に誰もいない。
立ち上がり、未央を見つめるクウ。
未央「…こんにちは」
クウ「!」
強い風が吹き、ススキが一斉にそよぐ。
〇同・管理棟・前
振り返る未央。
クウがついてきている。
管理人が出てきて、
管理人「ススキ、きれいだったでしょう?」
未央「あ、はい。あの…この子…」
と振り返るが、誰もいない。
未央「あれ…」
〇同・テントサイト(夜)
コッフェルで白玉をゆでている未央。
顔を上げるとクウが立っている。
未央「うわぁ、びっくりした~。
君、お父さんとかお母さんとか心配して…」
クウ「まだいない」
未央の前にしゃがみ、
覗くように未央の顔をじっと見るクウ。
未央「…どっかで会った?」
クウ、白玉に目を向ける。
未央「…君も白玉にひっかかったか」
未央、湯から白玉を取り出しながら、
未央「前にも、これにひっかかっちゃった
お兄さんがいたんだよ」
未央、白玉見つめて、
未央「こんなの、作らなければよかった」
未央をじっと見るクウ。
〇すすきが原(夜)
空に月。月明りに照らされたススキ。
〇すすきが原キャンプ場・テントサイト(夜)
未央とクウ、並んで白玉小豆を食べている。
未央、クウを見てふっと笑い、
クウの口についた小豆を指で拭う。
クウ「……ママ」
未央「え?」
未央をじっと見つめるクウ。
未央「…もしそうだったら、嬉しいけど」
クウ「……」
未央「お医者さんにね、ママになるの難しいって
言われちゃったの」
月を見上げる未央。
未央「普通に結婚して普通にママになるもんだと
思ってたけど、全然普通じゃなかった」
クウ、未央を見つめている。
クウの頭を撫でる未央。
未央「朝になったら一緒にママ探そう。
お布団シュラフ持ってきといてよかった~」
立ち上がり、車に向かう未央。
ゆっくりと両手を頭に乗せるクウ。
未央の後ろ姿を見つめている。
〇同・テント内(深夜)
シュラフにくるまっている未央とクウ。
クウ、むくっと起き上がる。
〇未央の家・リビング(深夜)
ソファーに寝転がり指輪を眺めている雄大。
ガチャという音に起き上がる。
〇同・玄関(深夜)
雄大の声「未央?」
と出て来るが、誰もいない。
ため息ついて、ふと下を見る雄大。
〇すすきが原キャンプ場・テント内(早朝)
起き上がる未央。隣に空のシュラフ。
〇同・テントサイト(早朝)
テントから出てくる未央。
まだ薄暗い中にクウが立っている。
未央「起きちゃったの?」
クウ、未央の手をとり歩き出す。
〇同・展望台(早朝)
登ってくる未央とクウ。
うっすら赤く染まる山際に目を向ける。
未央「これが見たかったの?」
クウ「……」
雄大の声「未央」
未央、振り返ると雄大。
未央「え、なんで…」
雄大に駆け寄るクウ。
雄大の手を引き、
未央と手をつながせる。
戸惑う二人。
満足気に未央を見上げるクウ。
未央「……」
未央、しゃがんでクウを見つめる。
未央「君は、誰なの?」
未央に抱きつくクウ。
クウ「大丈夫だよ。僕がママのところに
ちゃんと来るから」
未央「え?」
その瞬間、強い風が吹き、
一斉にそよぐススキ。
太陽が昇り、一気に周囲が明るくなる。
朝日に照らされながら風に揺れるススキ。
見とれる未央と雄大。
未央「……」
我に返る未央。クウがいない。
雄大「今の子って…」
未央「…どうして、ここってわかったの?」
雄大「玄関にこれ、落ちてて」
雄大の手に一本のススキ。
ふっと風が吹き、草原のススキが揺れる。
未央「……」
未央、しっかりと雄大を見て、
未央「あのね、話したいことがあるんだ」
〇ダイゴ池
池を覗き込むクウ。クウの顔が映る。
ゼンの声「見つけたかい?」
クウ、顔を上げ、にっこりと笑う。
〇五味家・リビング(夜)
開かれた窓からきれいな月が見える。
窓辺に生けられたススキ。
雄大が隣の椅子に座る
赤ちゃんをあやしている。
テーブルに白玉小豆のお椀を置く未央。
雄大「お~うまそっ」
一生懸命、お椀に手を伸ばす赤ちゃん。
未央「君はこっちだよ~」
と離乳食を運びながら口を指で拭う。
優しい風にススキが静かに揺れる。
<終わり>
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