【シナリオ】ジャスミン

シナリオセンター通信本科課題６「時計」

女子高生が殺害されたというニュースに呆然とする桃子。それは茉莉花と行った公園で見かけた女子高生だった。その話をする桃子の横で突然倒れる茉莉花。その日から茉莉花は、学校に来なくなった。

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＜人物＞
有本桃子(11)　小学６年生
安藤茉莉花(12)　桃子の友達
有本早苗(35)　桃子の母
安藤愛(32)　茉莉花の母
渡辺香蓮(16)　高校２年生
Ｋ(30)　茉莉花のネット上の男友達

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〇双葉小学校・校庭
隅のジャングルジムでジャングル鬼をする子供達。
その中に有本桃子(11)。ひと際小さく幼い。
少し離れたバスケットゴールの下に座り、
校舎の時計をじっと見ている安藤茉莉花(12)。
背が高く大人びている。

茉莉花「休み時間、終わるよー！」

ジャングルジムから校舎に走る子供達。
茉莉花のところに駆けてくる桃子。

桃子「茉莉ちゃん、いつも時計番でいいの？」
茉莉花「私には小さいの、ジャングルジム」

と桃子の頭をぽんぽん叩く。

桃子「だめ！　縮む！」

〇同・教室
プリントを配る先生。
後ろの茉莉花に変顔で回す桃子。
茉莉花、変顔返し。

〇安藤家マンション・前
桃子、ランドセルからラッピングされた
小さな袋を出し、茉莉花に差し出す。

桃子「誕生日おめでとう。
　　　茉莉ちゃんはジャスミンで、私は桃。
　　　おそろいだよ」

と桃のキーホルダーを見せる。

茉莉花「…ありがとう」
愛の声「茉莉花」

安藤愛(32)と男Ａ。曇る茉莉花の表情。

桃子「あ…初めまして。有本桃子です」
愛「あら、かわいいわね、ちっちゃくて」

冷めた表情で見ている茉莉花。

愛「お金、テーブルの上に置いといたから」
茉莉花「……」

立ち去る愛と男Ａ。
茉莉花を見る桃子。
茉莉花、愛を睨んでいる。

〇有本家・ＬＤＫ
キッチンに有本早苗(35)。
桃子来て、

桃子「今茉莉ちゃんにプレゼントあげたの」
早苗「転校生の？　もうそんな仲良くなったの」
桃子「茉莉ちゃんちもパパいないんだってさ」
早苗「そうなの…」

早苗、手を止め、桃子を抱きしめる。

桃子「ママ、カレーの匂いする」
早苗「急にお仕事行かなきゃいけなくなって」
桃子「早く帰ってこないと、
　　　モモがママの分まで食べちゃうからね」
早苗「うわぁ～急がなきゃ！」

早苗、再び桃子をぎゅっと抱きしめる。
返すように早苗を抱きしめる桃子。

〇安藤家・茉莉花の部屋（夜）
真っ暗の中でスマホを見ている茉莉花。

〇有本家・ＬＤＫ
パソコンを睨む早苗。
桃子が来て、

桃子「茉莉ちゃんち行ってくる」
早苗「はーい、気を付けてね」

早苗を少し見つめ、出ていく桃子。

〇西口公園
広場のような人気のない公園。
中央に大きな時計。
ジュースを手にベンチに座る桃子と茉莉花。

桃子「子供だけで電車乗ったの初めて！」
茉莉花「……」

時計を見上げる茉莉花。十二時少し前。

茉莉花「……」

公園をゆっくり見回す茉莉花。
少し離れたベンチに渡辺香蓮(16)が座る。
ピンクの髪に制服。手にスマホ。

茉莉花「……」

スマホを出す茉莉花。
桃子、香蓮見て、

桃子「あの人、ピンクの髪！　いいなぁ！」
茉莉花「……」

時計をじっと見つめる茉莉花。
針が十二時ちょうどを指す。

桃子「ねぇねぇ、あれ彼氏かなぁ」

香蓮に目を向ける茉莉花。
黒いパーカーのフードを深くかぶった
Ｋ(30)が香蓮に近づいていく。

茉莉花「……」

香蓮、すっと立ち上がり、
Ｋの後について歩き出す。

桃子「やっぱ彼氏だよ！　いいなぁ～」
茉莉花「……なんで…」

不意にＫが振り向く。
パッとそっぽ向く桃子。
固まる茉莉花。
Ｋの口元がニヤッと笑う。

茉莉花「！」

去っていくＫと香蓮を見ている茉莉花。

〇有本家・ＬＤＫ（朝）
テレビの前に呆然と立っている桃子。
ニュース番組。香蓮の写真。

キャスター「昨夜遺体となって発見されたのは
　　　　　　渡辺香蓮さん16歳…」
桃子「……」

〇双葉小学校・校庭
バスケットゴールに座る桃子と茉莉花。

桃子「あの男の人、犯人じゃないよね？」
茉莉花「……」

茉莉花、校舎の時計を見つめている。

桃子「私達、警察とか行かなくていいのかな」
茉莉花「……」

茉莉花、徐に立ち上がり、
校舎の時計に向かってふらふらと歩き出す。

桃子「茉莉ちゃん？」

校舎の時計を見つめ、倒れる茉莉花。

桃子「茉莉ちゃん？！　茉莉ちゃん！！」

〇有本家・ＬＤＫ
転寝する早苗。
テレビでワイドショー。

レポーター「渡辺香蓮さんの遺体発見から
　　　　　　１ヶ月が経過しましたが、
　　　　　　犯人は未だに…」

〇双葉小学校・教室
ざわついている教室。
桃子、後ろの席を見る。空席。

桃子「……」

〇安藤家・前
インターホン押し、ドア見つめる桃子。

桃子「茉莉ちゃん、桃子だよ。また来る…」

ドアが開く。
息を飲む桃子。
茉莉花、髪がピンクで、
ひどくやつれている。

桃子「……」

〇同・ＬＤＫ
閉め切られたカーテン。散乱したゴミ。

桃子「…お母さんは？」
茉莉花「……」

桃子、気を取り直すように息をつき、

桃子「一緒に食べようと思って持ってきた」

とポテトチップスを出す。
茉莉花、奪うように取り、
貪るように食べ出す。

桃子「……」

思わず後ずさる桃子。
落ちている置時計に足が当たり、
反射的に拾う。

桃子「…こ、公園行こう。まだ４時だし…」

と置時計を指さして見せる。

茉莉花「やめて！」

置時計を払い落とす茉莉花。

桃子「…茉莉ちゃ…」

茉莉花、ゴミの中からジャスミンの花の
キーホルダーを掴み、投げつける。
おびえた表情で茉莉花を見る桃子。

茉莉花「私とあんたは全然おそろいじゃない」
桃子「……」
茉莉花「どうして…私だけ…」

急に置時計を拾い、震え始める茉莉花。

茉莉花「十二時に来る…」
桃子「…え？」
茉莉花「どんな人か見てやろうと思った
　　　　だけなのに…なんでついて行くの…」

茉莉花、頭を抱えてわめき出す。

茉莉花「ごめんなさい…私のせいで…
　　　　私の代わりに殺された…ごめ…
　　　　ごめんなさい…」

桃子、呆然と立ち尽くしている。

〇（回想）同・茉莉花の部屋
暗い部屋でスマホを見つめる茉莉花。
画面にはハンドルネーム『ジャスミン』と
『Ｋ』のメッセージのやり取り。
『ジャスミン／今日誕生日なの』
『Ｋ／お祝いをしよう。明日、十二時に』

〇（回想）西口公園
ベンチに桃子と茉莉花。
少し離れたベンチに香蓮。
茉莉花のスマホに『服装は？』と
Ｋからのメッセージ。
『制服。髪はピンク』と送信し、
時計を見上げる茉莉花。
針が十二時を指す。

〇双葉小学校・校庭
校舎の時計を見つめている桃子。

桃子の声「茉莉ちゃんはもう学校に来なかった。
　　　　　家も引っ越したらしい」

〇道
愛と男Ｂが桃子の脇を通り過ぎる。

桃子の声「一回だけ茉莉ちゃんのママを見た。
　　　　　前とは別の男の人と歩いてた」

〇有本家・早苗の寝室（夜）
早苗が眠るベッドに潜り込む桃子。

桃子の声「私と茉莉ちゃんは、
　　　　　同じように小学生で、
　　　　　同じように子供なのに、
　　　　　どうして同じじゃないんだろう。
　　　　　どうして…」

早苗に抱きしめられ、目を閉じる桃子。

〇西口公園
時計の針が十二時を指す。
黒いパーカーのフードを深くかぶったＫが
ベンチに座る茉莉花に近づく。
茉莉花立ち上がり、
Ｋの後について歩き出す。
振り返るＫ。
フードの下から見える口元に
不敵な笑みが浮かぶ。

＜終わり＞