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セロイの信念とひとを何より大切にする姿勢に共感!また新世代のヒロイン像としてのイソの魅力! 「苦い夜」を抱えている全てのひとに見て欲しい『梨泰院クラス』

以前、Netflixの日本視聴者数でずっと不動の1位を飾っているNetflixオリジナル配信の韓国ドラマ『愛の不時着』にハマったという記事をあげた。

その後、その『愛の不時着』を追い越す勢いで同じく韓国ドラマの『梨泰院クラス』がトレンドに出てきた。概要欄見ただけでも面白そうだと思い、さっそく視聴。ぶっちゃけると『愛の不時着』よりもハマってしまった。というのも、改めて自分の人生を肯定してくれたドラマだったからだ。2周したのは言うまでもない。今、人生でつらい思いをしているひとにこそ見て欲しい作品だ。どうしてぼくがそう感じたか、一般的な観点から個人的な経験を踏まえて書いていこうと思う。

外食産業トップに挑む落伍者たち

最初に概要をざっと追った時は、韓国版の『半沢直樹』と『美味しんぼ』を合わせたような復讐劇かと思っていた。それでも面白そうではあるが。。しかし、そんな単純なものではなかった。

今期の『半沢直樹』はテレビがないので見てないのだが、最初の社会現象となった時の『半沢直樹』は、勧善懲悪で嫌味な上司の不正を暴き、会社の犬にならない強さというのが、当時日本では大ヒットにつながった。ぼくは社会に出てからずっと自営業をやってきたので、大企業などに就職したら、こんな感じのパワハラとかあったのかなと思いつつ、役者さんたちのやりすぎな顔芸や怒鳴り声を楽しんで見てた派であり、共感で見ていたわけではなかった。

『半沢直樹』については上記の記事で詳しく書いたが、冷静にあれを振り返ってみると、半沢含め、誰一人として会社の売上に貢献しようとか、会社全体を良くしていこうという人物が出てこない。会社の金を不正に横領、自分の立場に固執する上司、出向先でのいじめ。そういった理不尽に対して半沢たちは声を上げて裁く。たしかに観た瞬間は勧善懲悪の物語で気持ちがスカッとするが、保身や横領、そんな社内の小物を潰すのに持ちうる力を使ってしまい、会社を大きくしようとか、利益をどうしたら効率よくあげられるのか、イノベーションを起こそうという気概がまったく見えない。

社内でこんな足の引っ張り合いばかりをしていれば、銀行も廃れるはずだ。あれに多くのサラリーマンが共感したのも、実際、会社内での理不尽ないじめやネコババが多々あったからだろう。そりゃ日本の経済は30年停滞し、世界から置いていかれるのがよくわかる。

『梨泰院クラス』はたしかに復讐劇だが、外食業界の頂点に君臨する長家グループに対抗する為に、主人公のセロイが率いる従業員たちが、いかに会社の利益になることを追求していくか、社会からの理不尽な扱いからも屈せずに戦い抜いていく姿、それを迎え撃つ長家の方もどのように業界トップで居続けるか、どのように叩き潰すか、そういったスケールの大きい攻防戦なのだ。

その対比も面白く業界最大手の長家の会長チャン・デヒの好きな言葉は「弱肉強食」、ひとを金と権力で奴隷のように扱い、自分の言う通りにひとを操り、自分が絶対だと思っている権威主義者だ。対する主人公のパク・セロイは、無骨で不器用でも信念を貫き、不当ないじめや差別を嫌い、ひととの繋がり、仲間との絆を何よりも大切にして行動する。「金・権力」vs「ひと・アウトローたち」という構図になっている。セロイのお店、タンバムの仲間たちは、元ヤクザ、トランスジェンダー(韓国ではLGBTに対して差別意識が強い)、ソシオパス、黒人(韓国の黒人差別も酷い)、愛人の息子など、一般のレールから外れた人たち。それをまとめるセロイも中卒で前科者という経歴の持ち主である。こういったバラバラな属性を持った仲間たちと時には喧嘩したり、気まずくなったりしながらも絆を深めていき、巨悪に立ち向かうのだ。こんなにワクワクする展開があるだろうか。

信念を貫くセロイ、そんな息子を誇りに思う父親の姿

物語はセロイが地方都市の高校に転校したところからスタートする。そこでセロイは酷いいじめを目撃。いじめをしていたのは大手外食チェーン・長家グループ会長の息子、グンウォンだった。グンウォンはその高校で先生すら丸め込んで王様のように振る舞っていて誰もそのいじめを止めなかった。セロイは己の信念に従い、言葉で言っても聞かないグンウォンを思いっきり殴ってしまう。

それにより長家のチャン・デヒ会長が学校までやってきて、セロイに自分の息子に土下座で謝罪するように理不尽にも要求するのだ。しかも、セロイの大好きで尊敬する自分の父親も長家の会社の部長だった。ここで自分が謝らないと父親も巻き込んでしまう。しかし、それでも自分の信念に間違いはない、正しい行いをしたと胸を張って言える。そもそも信念を持って生きるように教えてくれたのは父親だった。だからセロイは謝る気はないとそれを突っぱねた。それを見た父親は信念を貫く息子を誇りに思うと言い、長年努めてきた会社をその場で辞職。セロイもたった1日で退学処分になってしまう。

そして、会社を辞めた父親と居酒屋を親子でやっていこうと思っていた矢先、セロイの父親がグンウォンの運転する車に轢かれて殺されてしまう。会長は権力を行使し、事件を別人の犯行に仕立ててしまう。しかし、同級生から真実を知ったセロイはグンウォンを殴り殺そうとするが、駆けつけた刑事たちによって逮捕。そこから彼の人生をかけた復讐が始まるのだ。

この冒頭だけでも惹かれるのは、やはり、セロイのたとえどんなに自分にとって損な状況であっても、自分の信念を貫き通すセロイの生き様。そして、そんな息子を父親が誇りに思うところだ。

『愛の不時着』にハマった4つのポイントのひとつにも書いたが、親が自分の子供が信念を貫くところを応援しているところが本当に素晴らしい。現実のほとんどの親は自分の子供の行動を叱るばかりで誇らしく思うことなどないだろう。少なくとも日本ではあまり見かけない。それは親自身が、自分がこれまでやってきたことに自信がないからだ。自信のない自分が育てた子供が正しいわけがない。そんなふうに思っているからこそ、世間様に迷惑をかけたとひたすら周りに謝り倒して、自分の子供のことを悪し様に言うニュースをよくみかける。さみしいご時世だ。そんな情けない親子が多い中、セロイの家族は親も子もお互いのことをひとりのひととして尊重している。

これは家族愛であると同時に、仁義を重んじているバディ関係でもある。完全に身びいきの世界観だ。いざという時に「いもをひかない」(ビビらない)のもヤクザの世界に通じるものがある。徹底的に身内がしたことを体を張って守る。これに熱いものを感じるのはぼくだけじゃないだろう。

まったく異なったふたりのヒロインの魅力

『梨泰院クラス』にはふたりの対象的なヒロインが登場する。ひとりは、セロイの1日だけの高校の同級生だったスア。長家が寄付をしていた孤児院育ち故に同情されるのが何より嫌いであり、誰からも憐まれられない自分の人生を生きることを信念に持っている。大学入試の日に受験票を忘れ、取りに戻っても次のバスじゃ間に合わないから、走っているところで偶然、セロイと出くわす。セロイが荷物を持とうとするのもはねのけて、自分の力で大学入試に間に合う。荷物を持つことはしなかったが一緒に横を走って励ましていたセロイは、大学の階段を登っていく時のスアの自立した背中を見て恋に落ちる。たしかにあの背中はカッコいい。しかし、何よりもスアは美少女すぎるので男性視聴者のほとんどはまずスアに絶対落ちる。かくいうぼくも「ちょ、美少女過ぎんか!」と思って落ちた笑

韓国アイドルの子をあまりかわいいと思ったことなかったし見分けもつかないのだが、この子は一撃でかわいいと思ってしまった。多分、日本人ウケする美人だと思う。見て、めっちゃかわいいでしょ♪

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セロイがスアに電話番号を聞いた時、「わたしを好きにならないで」と言うのは、自分がモテることを自覚している自己肯定感の強さが表れていると同時に、相手に求めているものの高さも出ている。セロイが長家の親子からひどい目にあって刑務所に入れられても、長家の会長からの奨学金の申し出をチャンスと捉え、セロイに申し訳ないと思いつつも、長家で誰にも同情されない為にバリキャリの道を進んでいく。セロイはひとにはそれぞれの信念があると思っているから、スアの裏切りともいえる行為を見てもずっとスアのことを一途に想い続けるのだ。

もうひとりは、セロイが梨泰院で店を出したばかりだというのに、未成年に酒を出してしまったということを通報され、しばらく店が営業停止となったその原因の未成年張本人であるイソ。ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)の傾向があり、面白ければ社会を壊してもいいと思っている。そして「欲しいものは必ず手に入れる」がモットーの天才少女でもあり、ネットでの広告戦略に長けていて、ブログやインスタで強い影響力を持つインフルエンサーでもある。愚直でどんな事があっても信念を曲げないセロイの生き様や、たまたま聞いてしまった長家との悪縁に対するセロイの姿勢を見て、やがて惹かれていく。セロイやセロイの店(タンバム)が売れるためなら、敵に対しては容赦ないし、自分のことを思ってくれるひとの気持ちすら利用する。はっきり言ってむちゃくちゃ性格悪い笑

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ぼくも最初の頃は「なんだこいつは?」と思った。しかし、タンバムでマネージャーになって、店をセロイと一緒に大きくしていく姿を見ていくうちにぼくのイソへの印象は180℃変わった。

スアは、セロイの宿敵である長家の幹部ということで、自分の気持ちを押し殺してセロイの前でも「セロイの片想いだ」と言い続ける。セロイは愚直にその言葉を受け取りながらも、心はギブアンドテイクではないからと、ずっと片想いでもいいと思い込んでいる。

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しかし、どんな作品であっても、実際の人間関係であっても、言葉を額面取りに受け取るのではなく、そのひとがどういう行動をしているのか、そちらに目を向けないとそのひとの気持ちや、本当にしたい事は見えてこない。ここでも行動に目を向けると、スアも完全にセロイのことが好きなのは一目瞭然だ。しかし、セロイに「お金持ちになって」「私を苦しめる長家を潰して」などとお願いばかりしていて、自分からはセロイには何もしない。セロイの仇が本当に嫌ならば、長家を辞めればいいのにそれをしないのは、やはり、それでも自分ひとりで生きて同情されない生き方にこだわっているからだ。セロイも他人の信念を変えようとはしない。だから仲は進展しない。

しかし、イソは真逆なのである。セロイを「金持ちには私がしてあげる」「セロイを苦しめる長家はわたしが潰す」と自ら行動を起こす。母親に大学を辞めてタンバムで働いていることがバレて家を追い出された時ですら、「絶対にセロイを自分が大きくし単なる居酒屋じゃなく、成功してみせるから少しの間待っていて」と自信を持って言い放ち、出ていく。スアもイソも自己肯定感は高いし、仕事の能力も高い。

しかし、決定的に違うのは「愛」というものに対して受け身かそうでないか。イソはどんなにセロイから女としては見れないと拒絶されても、好きなセロイのために、自分の意思を捻じ曲げてでもセロイが成功するためにアシストしていく。最初はイヤな奴というイメージが、ここまで報われなくても前向きに支えていく力強さ、ひたむきさには心が打たれた。

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障害がある恋愛というロミオとジュリエット的なのがスアとセロイだとしたら、イソとセロイはちょっとたとえが浮かばないような新しいヒロインの在り方だ。Twitterのアンケート機能やぼくの周りで『梨泰院クラス』を見たひとでスアとイソ、どちらが好きか?という問いに、女性のほとんどがイソは嫌いというのに対し、男性はイソの方が好きという回答を得た。これも『愛の不時着』の感想でも書いたが、今の不安定な世の中、ただ守られる存在ではなく、愛する相手を経済的だろうと命がけだろうと守る強いヒロイン像が男性陣にとても受けているのだと思う。かくいうぼくも完全にイソ派だ。美少女は見ているだけでいい。人生をかけるに値するひととは、自分のことも強く支えてくれるひとだ。

個人的に理不尽な出来事や苦い夜も、セロイの信念とイソの愛の力に勇気づけられた

セロイはスアに裏切られた夜(本当はスアは裏切っていなかったのだが)、「大丈夫ですか?10年も好きだった相手に裏切られたんですよ」とイソに心配される。しかし、「心と言うのはギブアンドテイクではないから"10年間好きだったから、お前も好きになってくれ”は違う」と悟ったようなこと言うので、イソは呆れてしまう。第4話のワンシーンだ。

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しかし、酔いが回ってきてセロイが本当に思っていることを少しずつこぼし出す。「(信念を突き通すことで)苦い夜ばかりで一度たりとも甘い夜はなかった。だからせめてお店の名前をタンバム(甘い夜)と名付けた」とイソに話して酔いつぶれてしまう。信念を貫くことで辛い生き方をしてきたし、だからこそ好きな相手であっても他人の信念や生き方を曲げようともしない。そんな不器用な生き方をしているセロイに対して、イソは「愛なんて愚かしい気持ちだ」と頭では考えつつも、どうしようもなくセロイに惹かれていき、タンバムで働くようになり、セロイの苦難続きの人生が少しでも「甘い夜」になるようにと決意する。そしてセロイのためだったら自分の持ちうるすべてを使って周りの敵を叩き潰す。自分の好意すら押し殺して、セロイのビジネスに全力を尽くす。そんな愛の力を見せられたら、そりゃイソリスペクトになりますわ笑

※ここからは極めて個人的な話ですが、、

というのもぼく自身、信念を貫き通してきたことでとても理不尽で苦い夜をこの一年、ずっと過ごしてきた。ぼくは信念に従い、正しいと思った行動をとってきた。不当な暴力を受けたひとを保護した。しかし、そしたら今度はぼくが助けた本人から理不尽な精神的暴力を受け続けることになった。やがて、本当にショックな事件が起きて心が完全に折れてしまった。PTSDになり、何ヶ月も寝たきりの月日が流れ、ようやく最近になってリハビリを行いつつ、自分の人生を取り戻そうとしている。自分の選択で起きたことだから、こうなったことは誰のせいでもない。自分の決断でこうなったのだ。そんな時にこのドラマを観た。

セロイの己の信念を貫き、自分が正しいと思う行動をしている様には共感しかなかった。また、タンバムで働く様々なマイノリティの仲間たちを信じ、差別を嫌い、ひとが店を作るという熱い思いには救われた気分だった。そして、セロイの苦い夜を甘い夜にしてあげようという、たとえ嫌な女だと思われようとセロイを守るためには手段を選ばずに敵を潰し、ビジネスを拡大していく、しかし、そこまで想っていながら決して重い印象を与えないイソの愛情表現には、癒やされたというか、ものすごくパワーをもらえた。

だから、ぼくもやはり不当な暴力には屈しないし、それでいてひとを恨まないという信念を改めて貫き通していこうと思った。おれはおれ自身の選択で人生を決めていく。だから、また新しい価値をみつけて楽しく生きていってやると自分に誓った。

『愛の不時着』も面白かったが『梨泰院クラス』に関しては、人生を改めて振り返る良いきっかけとなる作品だった。

セロイを演じたパク・ソジュンもインタビューでこんなことを語っている。

「『梨泰院クラス』は自分自身を振り返り、これからの人生について考えさせてくれたありがたい作品。このドラマがみなさんにも癒される時間になればと思う。毎日、甘い夜を迎えてほしい」と。

ちなみに今の自分の写真をTwitterアイコンにしたら友達からこんなことを言われた笑

本当は真っ赤な色を入れていたのが落ちただけなんだけど、もうイソリスペクトってことでしばらくこの髪型髪色の変化は当分しないんじゃないか笑

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自ら選択しないと幸せが訪れない。信念を持ち続けていても、肝心なところで選択を他人に任せていると、自分が求めていたものを逃してしまう。スアはまさにそういうキャラクター。彼女が自ら長家を出る選択をしたことで彼女の新しい人生がスタートする。もし、続きやスピンオフが作られるならスアのその後のストーリーが見てみたい。

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