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『僕が死んだあの森』

※ネタバレあり

ピエール・ルメートル著『僕が死んだあの森』 橘明美訳 (文藝春秋、2021年)

久しぶりに読み直した、たまにおすすめする本。

ひたすら終始暗い。
静かな雨の降っている、グレーの空が何日も続くような感じ。
陰鬱で、雨音以外に聞こえるものと言ったら自分の足音だけなくらい静か。
その静けさがうるさくて参ってしまうような、あの暗い感じ。

1.タイトルとチャプター

この本の原題は、”Trois jours et une vie”.
3日(3日間、3つの生涯、生命、時期)と、1つの生命(人生、生涯)
3日(3日間、3つの生涯、生命、時期)と、そして1つの生命(人生、生涯)となるのだろうか。

なぜ3日なのか。
この物語の全体構成も3章立てなのだが、

1999年
2011年
2015年

と西暦が書かれているだけだ。

2.あらすじ

1999年。
物語の舞台は、フランスにある村。
12歳の少年、アントワーヌには友達のそれっぽい楽しみがない。
口うるさい母と暮らす少年だ。

彼は森にツリーハウスを建てた。
それでもクラスの子がゲーム機を買ってもらい、
ツリーハウスは彼が友達と過ごす時間を与えてくれなくなる。

アントワーヌは好きな女の子、エミリーをツリーハウスに誘う。
上手く話せず、エミリーは背を向けて帰ってしまった。

しかし、6歳の少年レミは彼の側にいることが多かった。
ある日、鬱憤を抱えたアントワーヌの側にレミがいる。
苛立った彼は、側にあった小枝をレミに振り下ろす。
その意思があったわけではないが、レミは死んでしまう。
慌てたアントワーヌは様々考え、レミを隠す。
途中、森の側で車が停車する。
アントワーヌは、さらに焦るがレミを隠した。
この時、彼はお気に入りの時計を森で落としている。

いつバレてしまうのか。
母は落胆するだろう。
レミを捜すポスターが貼ら流ようになる。

この出来事のすぐ後、クリスマスが待っている。
村の者はみんな教会に集う。


2011年。
アントワーヌは24歳となり、医学生になっている。
彼女、ローラと上手くやれない別れそうなところから始まる。
アントワーヌにとって彼女は、

”明るい向こう岸”

ピエール・ルメートル著『僕が死んだあの森』 橘明美訳 (文藝春秋、2021年)、184頁。

である。
鬱々とした暗い中、アントワーヌにとってローラは異なる存在であり、
明るいと称する向こう岸の存在。

アントワーヌは、たびたび発作を起こしている。
彼女はそのことも、大量の薬をアントワーヌが服薬していることも知っている。

大雨の災害が村を襲う。
様々なものが流される被害を被る。
これにより、過去のものが露呈することもある。

アントワーヌは、村にあるルメルシエ氏の誕生日に参加する。
久しぶりに会うクラスにいた、かつての子どもたち。
憧れていたエミリーは、婚約者がいることを嬉しそうに知らせる。
昔話や、何より思い出したくない話の多い集まり。
アントワーヌはルメルシエ家を出ると、エミリーも共に出る。
かつて好きであった相手は、自身の理想と異なっていた。
それでも、婚約者のいるエミリーと1度の間違いを起こす。

翌日アントワーヌはあの森に近いうち、遊園地ができると知らされる。
森林伐採が進むと、子供の白骨死体が見つかり、その側にあった毛髪の
DNA鑑定が進む。
だが、その村に住む者であるとは考えにくいと判断される。

エミリーは、妊娠をする。
アントワーヌは拒否をし続けるが、彼女の父親が家に来る。
ついにアントワーヌは、村からもフランスからも出られない。


2015年。
アントワーヌはエミリーと結婚し、村で暮らす医者となる。
ある日、コワルスキーという男性を診断する。
そこでアントワーヌは、”あの日”停車した車は彼の物であったと知る。
コワルスキーは、当時母親と関係があったという。
そうであるなら、車内に母親もあの日乗っていたのだろう。

診療所に、数日後あの日アントワーヌがなくした時計が届く。

3.感想

はじめに、本レビューを書こうと本棚を漁っていた時、
この本を見つけた時には、もっと前向きな気持ちでいた。
だから選んだんだけどな…(・ω・`)

うーん、形容し難い暗い気持ちになった。

3日というか、3つのアントワーヌの時期なんだろう。
そして、もう1つの生命はレミか。

ただ静かに、フランスの田舎の村で起こったこと。
最後に明らかになるけど、それは知られていた。

大きな事件が起きるわけではない。
本当に、静かに暗く沈んでいくような物語。

小学生が死体を隠すか??
アントワーヌは、何度も手錠をかけられるところを想像する。
最初のうちは、涙を流したのに。
あの森でアントワーヌの人生も同じように死んだんだろう。
邦題考えた方、心から尊敬します。

エミリーのことも、お金で解決させようとする。
医者を志している者が。
人を救うはずの医者が、なんだって?って話になる。

どこか海外へ、そう夢見ていたアントワーヌはきっと生涯、
あの森のあった村で生きるんだろう。

彼が頭が空っぽだと思って見下げていた者より、
多くのことを背負って生きていくわけだ。
んー…ピエール・ルメートルの本は、他のも読んだけど。
もう読まないかもしれない。


興味のある方は、実際に読んでみてください。
おすすめしたくなる本ではあるので。









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