見出し画像

⑥罪の声ー記者のリアリティ

『罪の声』塩田武士 3/5

物語の世界にぐいぐいと引き込まれるという訳ではないけれど、一度掴むと離さない力が強い。23時から読み始めて3時まで一気読みし、起きて続きを一気読み。

関係者が数珠つなぎになっていて、この人に話を聞いたら次はあの人、というように順々に少しずつ真相が分かっていくため、ある人に話を聞くことで生まれた謎がずっと先まで持ち越されることがなく、きちんと次の人の話で解消される。せっかちで謎の解明が引き伸ばされるのに我慢できず、ついつい後ろから読む暴挙に出るミステリー初心者でもちゃんと読めた。

かつ、次々に事件のベールが剝がれていくから思わず次は、次は、とページをめくってしまう。登場人物が多くて(この発言はどこにあったっけ)ってちょちょいページを飛んで探したりしたから、こういう過去の発言や伏線を遡りたい時にすっと目的地に行けるのは紙の良いところ。


キーになる舞台がロンドンっていうのが重苦しい全体の雰囲気とマッチしていた。暗くて寒くて重厚。新聞記者の描き方がリアル。人の懐にいつの間にか入り込む距離感や、プライベートでも滲み出るぴりっとした雰囲気。特に、このプライベートでも分かる雰囲気っていうのは実際の新聞記者とかなり近い立場の人じゃないと描写出来なさそう。オンの様子はなんとなくの想像はできるし巷にもよく出回っているイメージがあるけれど、オフの様子は業界人でないと分からない要素が書かれている気がした。(業界人でもなんでもないただの大学生なので実態は分からないけれど)



社長を誘拐して身代金を要求、って聞くと犯人の狙いは莫大な身代金にあるのかと思うけれど、企業イメージの低下とそれに付随する株価操作が真の目的、というのが意表を突いていて面白い。


犯行の動機がしょぼしょぼやったことに、英士と同じく私も気が抜けた。学生運動崩れの、権力者への反発心。そんな動機で家族を奪わて人生を台無しにされた生島親子が可哀想。

生島親子があっさり再会してめでたしめでたし。な話の締め方が安直な気がするし、俊也は身バレが家族に及ぼす影響をあれだけ気にしていたのに、実際に彼が身バレしたその後についてほとんど触れられていなかったのが物足りないけれど、話の本筋ではないからしょうがないのかもしれない。


(追記)

某K談社の面接会場でこの作品の話になった時に、社員さんが塩田さんは元神戸新聞の記者だった、と教えてくれた。なるほど、どうりで。記者のリアリティの理由が分かった。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?