魔法使いになる前に
人間はおよそ10歳を過ぎると、魔法使いになれるらしい
それは、どこどこ村のへのへのもへじを国民にしたり、人材にしたり、顧客にしたり、患者にしたりする力だ
その魔法はまたの名を、「抽象的思考」という
その力があれば、すべてを数えあげ、箱に入れて動かすことができるそうだ
原因を突き止めることも、未来を予測することもお手のもの
すすんで自分も抽象化され、抽象物を集めれば、高く遠くにいけるらしい
少年へのへのもへじに、立派な身なりをした魔法使いは言う
「どうだ、これはすごい魔法だろう」
少年は答える
「すばらしいですね。ちなみに、わたしはいつどうやって、へのへのもへじに戻してもらえるんですか?」
魔法使いは黙った
そして、微笑んだ
「いいかい、へのへのもへじ
人は魔法使いになると、誰もが具体的な人間だいうことを忘れてしまう
立派な魔法使いほど、魔法の解き方を知らないんだ
でも、今の君には簡単なことだ
ただ、今感じ取っている具体的な世界をもう一度感じればいい
魔法を解くのに、魔法はいらない」
へのへのもへじは、魔法使いの顔を見た
彼は、ずいぶん疲れているように見えた
気まずそうに、俯いていた
へのへのもへじは、魔法使いの顔を覗き込んで言った
「じゃあ、魔法使いになる前に、魔法の解き方を試していいですか?」
魔法使いは、一瞬目を見開いて顔を上げ、それからゆっくりうなずいた
自分の書く文章をきっかけに、あらゆる物や事と交換できる道具が動くのって、なんでこんなに感動するのだろう。その数字より、そのこと自体に、心が震えます。