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おしりのケンカ
右のおしりが左のおしりよりすぐれていると、右のおしりをバカにして
左のおしりは右のおしりよりかしこいと、左の尻を見下している
おれがいるのだから、おまえなんていらない
どちらが本当に正しいおしりか天に聞こうとさわぎたて
いつも二人の間では、激しい噴火が起きている
右の足はいつも、左の足は自分のマネばかりしていると言う
左の足はいつも、先に出たのは自分の方だと 首をかしげて言い返す
じっくりたしかめたら、どうやら左の足の言うことが正しいとわかった
でも右の足がへそを曲げてマネをするのをやめたら、左足も動けなくなってしまった
右の手が左の手を役立たずだと殴った
左の手は宙を舞い、なにかにぶつかり血がにじんだ
右の手はいいきみだと思ったけれど
なぜか体は勝手に左手の傷におおいかぶさっていた
「なんだよ、役立たずのおれなんて放っておいて自分の仕事をしろよ」
左手はそう言いながら、なぜだかわからないけれど、右手が自分を抱き止めるのを拒まなかった
わたしはふたつの目でこの様子を見ている
右のおしりが左のおしりといつもケンカしていることなど知らず
右足と左足が意地の張り合いをしていることなど知らず
右手と左手がいがみあい、ときにそれを忘れて助け合っていることも知らず
ただ、自分の不注意を後悔しながら立ち尽くし、とりあえず用を足せる場所はないかとあたりを見渡している
こんな不注意を起こさせたあいつのバカさ加減を思い出し、なにもできないくせにマネばっかりしてくることに腹を立て、でも困ったときは助け合いながら明日もいっしょにやっていくんだろうなあと思い出しながら
自分の書く文章をきっかけに、あらゆる物や事と交換できる道具が動くのって、なんでこんなに感動するのだろう。その数字より、そのこと自体に、心が震えます。