おちんぽナイト

俺の名前はおちんぽナイト。チンポ以外が鎧で覆われている。呪いのせいで。誰に呪われたかはわからない。俺は元々農民だった。妻子を養うため、毎日真面目に働いていた。だが、呪われたことで俺の妻は子供を連れて出ていった。人様に顔向け出来ないっていう理由で。しょうがない。もし妻が同じ呪いにかかったら、守ってやれる自信がない。いや、この呪いは力が手に入る。守るのは陰部だけでいいな。

「あ、あなたは、おちんぽナイト様……お目にかかれて光栄です。よい一日を」

何が光栄だ。チンポ以外が鎧に覆われた人間の気持ちがわかるか。
俺は喋ることが出来ない。これで鎧がなかったら愛想笑いをして誤魔化すのだろうが、顔面も鎧が侵食してるので相手は表情を読むことが出来ない。思いきり悪態をつきまくれるってワケだ。それがこの呪いの利点だ。利点は他にもある。腹が減らない。確かに。口も鎧で覆われているので、食べることが不可能だ。呪いはそこも配慮している。呼吸がしやすい。鎧はピッタリと顔面に張り付いているのに、不思議と快適だ。何なら、農民だった頃より息がしやすい。鼻炎が解消されている。用を足さなくていい。鎧はピッタリ張り付いて取れないからな。あって当然の能力だ。カッコイイ。紫と黒が混ざった色合いの鎧は唯一無二のものだ。一番のお気に入りポイントと言っていいだろう。強い。俺はめちゃくちゃ強くなった。足元に落ちている石を拾い、力を込めて握るだけで砂のように出来るくらいには強い。素晴らしい呪いじゃないかって?バカ野郎。チンポ丸出しの屈辱感が常に付きまとう俺の身になってみろ。しかもこの屈辱感は、農民だった頃には感じたことのない類いのものだ。明らかに呪いのせいで増幅されている。なんて呪いだ。悪趣味にもほどがある。
そう、欠点もある。一番の欠点はチンポ丸出しなんだが、普通に考えれば隠したい。そこで俺は布を巻きつけて固定しようとしたが、チンポが光って布が弾け飛んでしまった。固定がダメらしい。試しに仰向けで葉っぱを一枚乗せてみたら、無反応だった。ひもで巻きつけようとすると弾け飛ぶ。終わっている。
あとは……そうだ、性欲が無くなった。減退どころではない。全く無いのだ。ある日、山賊から女性を助けた事があった。女性はお礼に奉仕がしたいと言い、しゃがんで口を近づけようとした。俺は女性の頭を優しく手のひらで止めた。
「残念だが、これ以上大きくなることはない」
ポカンとする女性に背を向けたとき、俺の心には何とも言えない空虚さが漂った。

しばらくして、俺に前線で戦えとの命令が下された。パイオーツの群れが向かって来ているらしい。奴らは凶暴で繁殖力が高い。農民だった頃にも畑を荒らされたことが何度かあるし、襲われて死んだ人間は数えきれない。
正直な話、パイオーツの群れなど俺ひとりで何とかなる。だがブリーフ騎士団にも面子がある。俺だけに任務を任せてしまったら、他の騎士たちは不要になってしまう。実際不要なのだが、俺が皆と歩調を合わせるのが暗黙の了解になっていた。

パイオーツの群れと対峙する。予想以上だった。この数のパイオーツは見たことがない。顔は人間の女性の胸に似ており、体は熊のようなガッチリ体型でふさふさの黒い体毛で覆われているが、身長は子供くらいだ。なかなか気持ち悪い。ちなみにパイオーツ1匹からは、約牛1.2頭分のミルクを取ることが出来る。豊作だ。そう思ったとき、前列にいたパイオーツたちが一斉に飛びかかってきた。予想の範囲だ。俺に飛びかかってきたパイオーツ3匹を拳ひとつで薙ぎ払う。1匹の首が捻転し、2匹は四肢が吹き飛んだ。これでも加減した方だ。
頭が人間の女性の胸なら、揉む奴がいてもおかしくないと思うかもしれないが、それだけはやってはいけない。揉んだら最後、中央にポツンと付いている黒い乳首から酸が噴射される。誰であろうと無事では済まない。俺の鎧に効果は無いが、万が一チンポにかかったらと思うと金玉が縮む。揉まない限りは無害だ。もちろん死後も揉んではいけない。ではミルクはどこから出てくるのか。尻尾の先端である。本当に気持ち悪い。チンポ丸出しの俺が言える立場ではないが。
……慢心していた。俺は、上から襲ってくるパイオーツに気を取られ、別のパイオーツに思いきり金玉を蹴られてしまった。おそらく白目を剥いてしまっただろう。本当に情けない。チンポの耐久力だけは一般人と変わらないのだ。そこからの記憶は飛んでいる。

「どうしてなの!?あなたは一人で戦えるくらい強いはずよ!?あんな奴らに殺られるなんて!!みっともない死に方して!!」
「やめなさい。彼はやるべき事をやったんだ」
「うぅ……」
「さ、陰部に布をかぶせてあげなさい。薔薇の花を上に」
「安らかに、おちんぽナイト」

安らかに、おちんぽナイト。そう聞こえた気がする。勝手に死なすな。……あれはアミタイツ夫人の声か。俺を慕っていたからな。しかし、ずいぶん長いこと失神していたもんだ。
まぁそんな事は置いといてだ。俺は今、土の中にいる。誰かが埋葬したのだろう。色んな人が集まり、俺の死を悼んだのだろうか。そう思うと感慨深い。
そして、意外と土の中が快適だという事に気づいた。呼吸も問題なく出来る。しばらくここにいるのも悪くないな。

あれからどのくらい経っただろうか。おそらく2ヶ月は経っている。呪われる前の暮らしに浸ったり、呪った奴の正体を俺なりに妄想したりした。さすがに飽きる。体は快適だが、脳がもう出ろと言っていた。俺は勢いよく拳を突き出すと、ザザン!という音とともに被さっていた土塊が飛散した。体を起こす。太陽の光が気持ちいい。
この位置は確か、村が近くにあったはずだ。タマーキン長老に話を聞きたい。俺は死んだことになってるので驚くだろうが。

村のシンボルである見張り台が見えてきた。が、様子がおかしい。パチパチという音が聞こえる。村は、燃えていた。見張り台が崩れる。
「お、おちんぽナイト……様!?」
タマーキン長老が俺に気づくと、目を丸くした。これほど説明したい瞬間があっただろうか。俺は喋れないのだ。
「ポ、ポコチンドラゴンが村を襲ったのです!おちんぽナイト様が生きておられたのなら話が早い、ぜひとも討伐を!」
ポコチンドラゴン。普段は山にいて大人しいはずだが、何があった。
俺はゼンラ山脈へと向かった。

ゼンラ山脈は巨大だ。村がある場所からもよく見える。しかしここは冷える。チンポが寒い。
ポコチンドラゴンがここを根城にしている事はわかっていた。日が落ちそうになる頃まで探したが、奴の姿が見えない。どこにいる……?そう思ったとき、足元がグラつき始めた。雪だと思っていたそれは、ポコチンドラゴンそのものだったのだ。
(ポコチンドラゴン。お前も俺と同じ、呪いをかけられた人間のひとりなんだよな)
心の声が聞こえたのだろうか。うなり声をあげた。こいつは何百年も前に呪いをかけられた。という事は、騎士たちも含めお偉いさんなら誰でも知っている。が、民衆には教えられていない。不安にさせるからだ。ちなみに、俺が呪われていることは同じ理由で知ってる人と知らない人で分かれる。つまり、民衆は俺が好きでこういう格好をし、それを上が黙認してると思っているのだ。俺が呪われてから一番嫌な部分はここなのだ。その事実が、屈辱感をより一層増幅させた。出ていった妻も、俺が好きでこうなったと思っている……。

ポコチンドラゴンは、巨大な白いチンポだ。それがうねうねと空を舞っている。カッコ良さと気持ち悪さが同居している。俺と同じだ。だが、こいつの呪いは規模がでかい。チンポ以外が鎧で覆われる俺の呪いが霞んで見えた。
ポコチンドラゴンは俺を背中に乗せたまま、ムクムクと首をもたげて俺のことを睨んだ。完全にチンポの先端だ。そこに顔が付いている。チンポなのか龍なのかわからなくなる。頭が混乱しかけたその時、ポコチンドラゴンの吐いた炎が俺を包んだ。
この鎧は何でも防ぐ。ポコチンドラゴンの炎でさえも。だが、俺は忘れていた。チンポ丸出しだったことを。チン毛は全て焼失し、チンポは黒焦げになった。そして、ダークおちんぽナイトに生まれ変わったのだ。力を感じる。しかし、屈辱感が1.5倍増しになってしまった。
俺は炎を吐き切ったポコチンドラゴンのカリ、いや、首に手刀をかました。首は反り返り、ゴボゴボと泡を吹いている。涙も流していた。

……ポコチンドラゴンがなぜ村を襲ったのかわかった。こいつは、俺に殺して欲しかったんだ。何百年も苦しみながら生きてきたんだ。
そんなことを考えてると、俺を強烈な頭痛が襲った。
辺りは闇に包まれた。

(お前を呪った張本人、ノロイ・マスだ。お互い直に喋ることが出来ない。脳内で話そう)
「お前から現れてくれるとは」
(俺に会えて嬉しいか)
「姿が見えない奴に大した感想はない。声にエコーがかかった名前が安直な野郎としか思わん」
(仕方ない、そういう世界だ。お前の名前だってそうだろ。さて、さっそく本題に入ろう。お前のチンポはまもなく破壊される。自らの手によってな)
「なんだと!?」
(呪われた人間の運命ってやつがある。お前は2回あった死の予定を狂わせた)
「2回……いつだ」
(パイオーツの群れと騎士団が戦ったとき、ポコチンドラゴンと戦ったときだ。その機会は俺が用意したものだ。だが死ななかった。だから直々に俺が出向いてやったんだ)
「死神だな」
(そういう側面もある。パイオーツもポコチンドラゴンも、元々お前を殺すために存在していたわけではない。ちょっとだけ介入し、物事を利用して死の軌道に乗せてやるのさ)
「なぜ介入する必要があるんだ。運命って決まってるもんじゃないのか」
(普通の人間はな。だが呪われた奴は死を回避しやすい性質がある。だから介入は必要なんだ)
「ちょっと待て、死を回避して何が悪いんだ」
(悪い。この世の均衡ってやつがあってな、それが崩れると世界は終わりを迎える。お前にかけた呪い。屈辱感たっぷりのチンポ丸出しに対し、色々恩恵もあったはずだ。お前自身にもあるんだよ。呪いの均衡ってやつがな。例えば俺が介入せずにお前を無視したとする。いずれ天変地異が起こって大変なことになるだろうな。誰かに呪いをかけないでいても同じことだ。簡単に言えば、呪いはこの世の必要悪なのさ)
「……ひとつ聞きたいことがあった。ポコチンドラゴンはなぜ何百年も生きたんだ。運命とやらで死ぬんじゃないのか」
(それも均衡ってやつさ。理性が無くなり人としての全てを失い巨大チンポと化した代わりに、長生きと空を飛び炎を吐く能力を手に入れたってワケだ。そうそう、ポコチンドラゴン、あれは俺の作品だ。なかなかの傑作だろ?お前に倒されるとは思わなかったが)
「くっ、もてあそびやがって」
(弄んではない。多少の趣味嗜好は混ざっているが、仕事だからな。やるべき事をきっちりやる俺の評価は呪い界では高いぜ?)
「呪い界だと?」
(冥土の土産に教えてやろう。実はな、俺も元々人間なんだよ。1200年前のな。だが呪われてしまった。その結果が今の俺だ。俺はな、選ばれたんだよ。呪い界の住人に)
「何がなんだかわからん……」
(詰め込んだからな。話す必要もないんだが、久々にこういう機会を得たからな。そうそう、タマーキン長老は元々女の子だ)
「なんだと!?それもお前の仕業か!」
(違うな、俺と同じ能力を持った別の奴だ。女の子をジジイに変える趣味はよくわからん。俺はチンポ呪い専門だ)
「悪趣味な野郎め」
(はは、褒め言葉として受け取っておくよ。さて、長話もここまでだ)
「なんだ、右手が勝手に……!?」
(お前はポコチンドラゴンを倒して更に強くなったようだが、それが自分のチンポに向けられるってワケだ。良かったじゃないか。お前を苦しめた原因を破壊できるんだ)
「くそおぉおおおおお!!!!」

俺は、俺自身の力によって、チンポを破壊し、死んだ。正確には、魂は生きていた。
(次はお前が呪う番だ)
奴の声はこれを最後に、聞こえなくなった。

「は、初めまして!今日デビューさせて頂くおちんぽナイトです!呪い界のこと、よくわからないので色々ご教授ください!!」

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