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「"非効率"な伝統野菜たち。」

去年(2021年)あたりから、いわゆる「伝統野菜」「固定種」というものを中心に栽培をはじめました。

あいち伝統野菜のひとつ「かりもり」。お漬け物に最適。

「農家」として独立し始めたときは、「周りののんびりした農家とは一線を画す!!俺は農家としてしっかり稼ぐんじゃい!!!」と鼻息荒く初期投資をして、はたけ作業をしていましたが、ほどなくしてあっけなく打ちひしがれ、「野菜つくって生計立てるツラすぎもう無理やめたい」になってしまいました。打たれ弱い。

ちょっと語弊はあるのですが、農業って、作業を頑張れば頑張るほど、「薄利多売」の世界観にハマっていってしまう部分があり、どうしてもすでに力を持っている先輩たちに力負けしてしまう現実が、すぐ目の前にあります。ここは始める前に知らなきゃいけない部分でした。これからの方、ぜひ。

持っている設備(倉庫やトラクター、農作業機械など)の差や、作業効率、スタッフなどあらゆる面でまったく追いつけず、、。そんな中で、農業をはじめてわりとすぐに「俺はいったい何をつくったら良いんや…」ってなっていました。はじめる前もでしたが、はじめてからもでした。「やってみなくちゃわからない」って、勢いではじめましたが、やってみても、わからないものは、わからない。

あいち伝統野菜のひとつ「早生冬瓜(わせとうがん)」。大きい。

農業の「王道」は、「規格の製品を、定期、定量で出荷する」というもので、この世界で食っていくためには、いかにここで戦うかにかかっています。自分もJA出身なので、そこは身に沁みております。

ただ、実際にやってみると、この「規格、定期、定量」というものが「無農薬野菜」という世界観とかなり相性が悪い。時期外れに規格のものをつくるって、やっぱり生態系になにかしらの負荷をかけないと、なかなかむずかしい。

そんな中で、なし崩し的に「うわぁぁあ、大量生産、ごめんなさい!!」とすぐさまギブアップ。王道で戦うことを諦め、自分の農家生活はいきなり迷路に入り込みます。「大量生産」という世界以外で生きていくために考えると、次に来るのはいわゆる「高付加価値化」というやつ。生産量で勝てないなら、単価で勝て!ということですね。

そこで見えてくるものは、「30aで1200万円!」とか「ブルーベリーの観光農園化で収益アップ!」とか「六次化でしっかり稼ぐ!」とか「葉っぱビジネスで2億6千万円!」とかネギ王子やら、太陽のたまごやら、これからはトマトだとか、、もう、もうそこは魑魅魍魎の世界でございました。いわゆる「販売戦略」の世界なのですが、こっちもこっちで自分からすると「ひぃぃぃい!!すいませんでした!!!間違えました!!」で、すぐさまギブアップ。根性なさすぎました。

生産量と規格性で戦う戦士たちは、ゴリマッチョ体育会系で、販売戦略で世の中を席巻していく社長たちはズバズバITスマート系、というイメージ。なんなら、いまどき生き残っている農家さんたちって、どっちも使いこなすような化け物ばっかりだったりします。自分みたいな、ポンコツのんびりギリギリ生きていけたらラッキータイプは、ついに手も足も出なくなってしまいました。

うちのおくさまが大切に育てた「愛知縮緬かぼちゃ(ちりめんかぼちゃ)」。皮がうまい。

そんな中で、自分がぎりぎり今でも「農」の分野で生きている理由は、「農の本質は経済性にあらず」的な文脈があるから。経済性ととっても相性の悪い「非効率」な部分に、ぼくらの「生きる」ために必要な要素が結構詰め込まれていたりします。ほんでほんで、ちょっと飛んだ話になっちゃうのですが、いまの経済圏って、少し「非効率さ」と相性が良いな、と思ってる自分もいたりします。

「伝統野菜」や「固定種」って、まささにその「非効率」なものの代表格のように思います。少なくとも、鼻息ふんふん言っていた頃の自分は、そう思って、これらを切り捨てたりしていました。「固定種が、固定種なまま残ってるのって、改良すべき品種として魅力がなかったからでしょ」的なことまで言っていました。今考えるとよくわからない理論。固定種として残すだけの価値があるんですよね。

いまでも思うのですが、やっぱり「F1種(交雑種)」(わからない人ごめんないさい、置いていきます。)はすごい。固定種やってみて余計に思いました。やっぱりF1種(交雑種)の方が栽培しやすいし、品種の幅も広い。ぼくらみたいな多品目やる農家にしても、この品種の幅の広さは魅力的。ひとつの野菜、たとえばタマネギやキャベツにして、超極早生からはじまって、早生、中生、晩生までとっても長期間出荷ができる。固定種にしぼっちゃうと、ここの体系がなかなか組めない。「ないものは無い!」と言い切るしか無い。ホームセンターなどで手軽に入手しやすいのも魅力的。「種蒔いてて足りないから買ってきてー」なんてのも可能。固定種や伝統種はなかなかかんたんに手に入らない。

話にには聞いていたけれど、やっぱり固定種は揃わない。生育が。出荷しにくい。サイズがばらつくし、発芽も不揃いなので、定植作業などもしにくい。なかなかやっかい。

それでもやっぱり固定種を育てることの楽しさは、この非効率性や、経験としてのおもしろさ。あとは食文化や歴史、地域との交流なんかも生まれます。とにかく経済性特化型の作物よりも「話してておもしろい」ことが多いんですよね。人は効率性よりも、おもしろさに心が動くんだよなって、つくづく感じています。きっとF1種の開発秘話とかもめちゃくちゃおもしろいんだろうけど、なかなか世に出てこないので、このあたりの話も結構聞きたいです。

効率主義、大量生産、高付加価値型の農業になかなかハマれなかった自分ですが、なんとかこの「文学的」な農に魅力を感じて今に至ります。それはそれでまたイバラの道なのですが、どうせどこ行ったって痛いものは痛いので、一番きもちの良い痛さを選んでいこうと思う所存でございます。

またこれからもいろいろな伝統野菜や固定種野菜の栽培記録なんかも残していこうと思うので、とってもニッチな人たちに楽しんでもらえればと思います。

ありがとうございました!

スギヤマナオキ


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