病理基本用語集#4　細胞死について

細胞死は大きく「壊死」と「アポトーシス」の２種類があるが、実際には両者の境界はときに不明瞭で、また、「壊死」にはいくつかの種類がある。また、角化も広義には細胞死の一種と考えることができる。今回は細胞死について概説する。

（１）細胞死の種類

ⅰ）アポトーシス（apoptosis）
制御された細胞死で、regulated cell death あるいは programed cell death とも呼ばれ、通常、周囲に反応性の炎症を伴わない。発生過程の生理的な細胞死などが有名である。

ⅱ）壊死・ネクローシス（necrosis）
致死的な細胞傷害による細胞死で、accidental cell death とも呼ばれ、周囲に反応性の炎症を伴う。細胞傷害の原因および組織形態によって、いくつかの種類がある。

ⅲ）ネクロプトーシス（necroptosis）
壊死とアポトーシスの中間的な細胞死。

ⅳ）パイロトーシス（pyroptosis）
炎症を伴うアポトーシス。

（２）壊死の種類

ⅰ）凝固壊死（coagulative necrosis）
組織・細胞の構造が保たれており、ゴースト化した構造・輪郭が確認できる。 特に虚血による凝固壊死（梗塞）では硝子様壊死を示す。中枢神経以外の組織の梗塞は基本的に凝固壊死の形式をとるが、腸など血流が二重（多重）に支配されている場合は出血壊死が多い。

ⅱ）融解壊死（liquefactive necrosis）
組織・細胞が融解・消失し、粘稠な液状物質（膿 pus）に置換される（感染や中枢神経の梗塞）。

ⅲ）乾酪壊死（caseous necrosis）
組織構造が完全に破壊され、好酸性無構造物に置換される（通常は周囲を肉芽腫が取り囲む）。抗酸菌感染症などで認められる壊死である。

ⅳ）壊疽（壊疽性壊死）（gangrenous necrosis）
明確な細胞死のパターンではないが、多層化した凝固壊死に伴って虚血が加わり、細菌感染や白血球の集簇により液状化を起こす。

ⅴ）脂肪壊死（fat necrosis）
進行すると鹸化、石灰化を伴う。

ⅵ）フィブリノイド壊死（線維素様壊死）（fibrinoid necrosis）
抗原抗体複合体の血管壁沈着により、フィブリンと免疫複合体が混ざり合って血管外へ漏出し、好酸性無構造沈着物を形成する。

ⅶ）その他
角化壊死：角化しながら壊死に陥る（癌真珠のような感じ）
面疱壊死（comedo necrosis）：胞巣中心が”ニキビ”のように壊死に陥る

（３）細胞死における細胞形態の変化

類壊死（necrobiosis）：細胞死に陥る細胞の形態変化

【アポトーシスに至る過程】
▶ 核融解（karyolysis）：クロマチンの好塩基性の減衰
▶ 核濃縮（pyknosis）：核の収縮と好塩基性の増大
▶ 核崩壊・核破砕（karyorrhexis）：濃縮された核が分解される現象

核破砕物・核塵（nuclear dust）、アポトーシス小体（apoptotic body）：断片化した核破砕物は細胞質基質を伴う膜物質で被包化され、マクロファージに貪食される（tingible body macrophage）。

（４）角化を表す用語

角化（keratinization）は細胞核が濃縮・消失して細胞骨格（主にケラチン keratin/cytokeratin：上皮細胞の中間径フィラメント）のみが残存した状態であり、一種の細胞死と考えることができる。

▶ 角化・角化症（keratinization, keratosis）
▶ 正角化（orthokeratosis）
▶ 過角化・角質増生（hyperkeratosis）：角化が亢進して角層（角質層）が厚くなる
▶ 錯角化・不全角化（parakeratosis）：細胞核が残存したまま角化する
▶ 異角化（dyskeratosis）・個細胞角化（single cell keratosis）：唐突に細胞１個単位で角化する

（５）表皮細胞の細胞死を示す用語

以下の５個程度の用語があるが、基本的にいずれも同義と考えてよい。表皮細胞が壊死に陥る際には核が濃縮して

▶ 異角化（dyskeratosis）
▶ 個細胞角化（single cell keratosis）
▶ アポトーシス（apoptosis）　
▶ シバット小体（Civatte body）
▶ コロイド小体（colloid body）

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