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【リンパ節】リンパ節病変の診断の基本的考え方(1)検体処理

リンパ節の病理診断の作法について
以下の項目に沿って総論を示す

【内容】
(1)検体処理 👈今回はココ
(2)リンパ節の正常構造
(3)診断アルゴリズムの概略

(1)検体処理

リンパ節に生じる病変の鑑別診断を念頭に処理する。主たる鑑別診断は、悪性リンパ腫癌の転移反応性リンパ節腫大であるが、反応性の中には「感染症」が含まれるので、臨床情報にもよるが必要に応じて N95マスクなど感染対策を行う。臨床的に何が疑われているのか、というのは非常に重要であるので、必ず確認する。

まず、針生検や FNA での診断は難しいことが多いので、実施する場合には診断に限界があることを十分に臨床医に理解していただく必要がある。これを臨床医が理解していない場合、診断のつかない侵襲的手技を何度も患者に課すことになり得るので注意が必要である。基本は腫大リンパ節をまるごと1個(またはそれ以上)摘出してもらうのが望ましい。

摘出された生のリンパ節1個を半割する。かなりの大きさの場合は 5 mm 幅くらいに適宜分割する。次に割面から捺印細胞診を作製し、病変の鑑別診断を絞っておくのが望ましい。

特に感染症が疑われる場合または除外できない場合には培養や PCR など菌学的検査を行う必要がある。特に結核あるいは非定型抗酸菌症が疑われる場合には、病理部門の感染対策および患者の治療方針において重要である。

反応性および悪性リンパ腫についても、ある程度細胞診で推定可能な症例がある。フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)染色体検査(G-Band)、免疫グロブリンやTCR(T-cell receptor)などの遺伝子再構成検索(サザンブロット法)用の凍結検体などを確保しておく必要がある。これらが組織診断に差し支えない範囲で、十分量採取するのが望ましい。

検体の切り分けの例
(症例ごとに考える)

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腹腔内リンパ節の場合など、全身麻酔下で腹腔鏡で生検されることがある。その場合、病変が採取されているかを確認するために迅速凍結組織診断が必要なことがある。その際にも、最終診断に支障のないように迅速診断用の切り分けを施行しなければならない。必要であれば、検体をより多く採取してもらうよう外科医に依頼するべきである。全身麻酔までされて診断がつかない、ということを最も避けなければならない。患者の負担を考えれば、より正確性を期す必要があるので、できれば迅速で細胞診も併用すべきであろう。

割面および細胞診所見からの病変推定

👉悪性リンパ腫の場合

リンパ節の中で細胞が増殖し、パンパンに、緊密・緊満化しているので、割面が膨隆してくる。そして軟らかく瑞々しく、色調は均一で肉様、乳白色調、いわゆる【髄様】な感じがする。捺印するとたくさん細胞がガラスにくっつく。特に捺印部の真ん中に細胞が多くつくのが特徴である。反応性では辺縁に細胞がくっつき、真ん中が抜けることが多い。擦ると、ザラッと細胞がたくさん取れる。

細胞診では、明らかな異型リンパ球様細胞が多数あれば悪性とわかる。一般に核のねじれ・くびれが強いと T 細胞系(ATLL の flower cell 的な)と言われるが、個人的にはそこまで簡単に言えないことが多いという印象である。異型はそれほどなくても、均一な細胞が一様にみられる場合には low-grade B-cell lymphoma が多いが、これは反応性との区別が難しい(この場合ときに組織も難しいので、FCM が重要である)。また、捺印で濾胞様に結節状構造を呈していると濾胞性リンパ腫の可能性がある。ホジキンリンパ腫は、組織所見と同じように、Hodgkin-Reed-Sternberg(HRS)細胞に加えて、特徴的な背景所見があればわかりやすいが、HRS 様細胞は DLBCL でも出現し得るし、免疫不全状態でのリンパ増殖性疾患などは特に HRS 様の EBV 陽性細胞を伴ってホジキン様の所見を示すので、患者背景も重要である。

👉癌の転移の場合

リンパ節全体に転移があれば、肉眼上、リンパ節は非常に硬いことが多いし、壊死あるいは角化などが分かる場合もある。細胞診でも迅速組織診でも難しくないことが多い。が、ALCL などでは一見組織像は癌腫様になるので、迅速での区別がしばしば難しく、細胞診の方が有用かもしれない。また、リンパ節の一部のみに癌の転移がある場合、迅速組織診では反応性か low-grade B か難しいと思われた症例で、細胞診で癌が出現していた症例を経験している。

👉反応性病変の場合

多くは難しいが、肉芽腫性疾患がわかる場合がある。結核などで壊死がある場合には、肉眼でもツブツブとした見た目で、押しつぶすとムニュ~って感じで汁が滲み出る黄白色調の汚い壊死がみられる。壊死がかなり優勢な場合はツブツブを超えて、全体がクリーム状にドロッとしている。こうなると大変である。もし環境が整っていなければ、可及的速やかに【N95 マスク着用と適切な換気】を準備したが良い(もちろん、はじめからそういう環境であることが一番望ましい)。迅速組織は禁忌である。薄切過程で菌が空気中に飛び散るからだ。病変の性状が気になるならば、捺印細胞診を作製し、類上皮細胞肉芽腫などを探すのがよい。絶対に必要なのは【培養】である。細菌検査に提出しなければならない。真菌感染など他の鑑別診断も挙がるが、結果がわかるまでは結核の可能性があるものとして対処したが良い。その他の一般的な反応性病変の鑑別は肉眼、細胞診、迅速組織診断では困難であることが多い。


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