【250字レビュー】現代小説クロニクル 1985~1989 (講談社文芸文庫)

どの作品も足元の不安はないというか、目の前に切羽詰まったものはない。時が止まったような作品群という感じ。村田喜代子「鍋の中」は数日を田舎のおばあさんの家で過ごすいとこや姉弟の話。特にこの作品では時間がじっとりと流れる感じがする。老人の曖昧な記憶で自分たちのルーツも曖昧になっていく主人公や縦男。田舎での平和なやりとりかと思いきや最後は無限の時間のなかでおばあさんも自分が誰なのか迷っているようにも思える。人間はこうしてぼんやりとじっとりと消失する不確かなものかもしれない。

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