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ブランド管理をめぐる指標、本当に見るべき指標って何だろう?~NPSとエボークトセット~

こんにちは。マーケティングGの杉山です。前回から少し日があいてしまいました、反省。。。

さて、今回は「ブランド管理」について少し思ったことがあったので投稿したいと思います。

ブランド管理を巡る指標

皆さんは、ブランド管理を巡る指標と聞いて、どのようなモノを思い浮かべるでしょうか?

まず初めに思い浮かぶのは「NPS(ネットプロモータースコア)」かもしれませんね。 ご存知の方も多いかもしれませんが、NPSでは、「あなたはそのブランドを友人や同僚に進める可能性は、どのくらいありますか」というシンプルな質問に対して、0~10点の中から回答してもらいます。

そして、そのアンケート回答によって「批判者」「中立者」「推奨者」のいずれかに分類し、「推奨者の割合―批判者の割合」を計算、そのブランドに対する顧客のブランドへのロイヤルティを指標化するのです。

似たような指標として、顧客満足度調査を思いつく方もいるかもしれません。「満足している、まあ満足している、…」などの選択肢で満足度を取得するものですね。

よく広告で見る「○○満足度、No.1」といった表記も、広くは顧客満足度調査に該当します。これはまた別の話ですが、「No.1」は調査設計を工夫することで意図的に作り出すこともできてしまうため、プロモーションの方法としては有効かもしれませんが、その信ぴょう性は…?だと個人的には思っています。

少し脱線しましたが、この2つの大きな違いは、業績との連動の有無だと言われています。NPSと業績との相関性について、NPSを考案したベイン・アンド・カンパニーが、NPSで業界トップの企業は、競合他社の2倍の成長率を上げているという調査結果を発表しています。


コーヒーチェーンのNPS結果

先日、2019年にエモーションテックの今西良光氏が実施した、コメダ珈琲店、ドトールコーヒー、スターバックスの3ブランドのNPS調査の結果で、スターバックスのNPSが最下位だった、と紹介するネット記事がありました。

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※この図は上記の記事から転載しています。

スターバックスは、推奨度に与える影響が大きい「コストパフォーマンス」と「店舗の雰囲気・居心地の良さ」の低さが、他ブランドと比較して目立っているようです。

私自身、この2つはなるほどという感覚もあります。都内の店舗を利用することがありますが、まず土日は席が空いていないか、隙間なく客が座っています。ドリンクも、他ブランドと比較して安いとは言えない価格設定です。

私はほとんどホワイトモカ一択なのですが、、、

スターバックスを利用する方の中には、スターバックスのドリンクが純粋に好きだという方もいるでしょうが、多くの方は、快適で優雅な時間を過ごすことや、スターバックスというお洒落な空間に身を置いていることに情緒的な便益を感じているはずです。せっかく安くないお金を払っているのに、求めている価値が満たされないとNPSが低くなってしまうのは納得です。

しかし、NPSと売上・成長率との相関については、NPSだけでは全てを説明できないところもあり、NPSはブランド管理の指標として全能とは言えないかもしれない、と思います。


NPSの課題

○繰り返し利用されるもの・一般的なものほど、NPSは高くなりづらい

たとえば、いつもおいしいと思って飲んでいる「コカ・コーラ」。あなたはどの程度、家族や知人に勧めたいと思うでしょうか?また一方で、今季新しく発売された炭酸飲料が期待していた以上においしかった時、あなたはどの程度、家族や知人に勧めたいと思うでしょうか?

もちろん人によって回答は異なるかと思いますが、普段飲んでいるコカ・コーラにはNPSで7~8点の、初めて飲んで思った以上においしかった炭酸飲料には9点~10点を付ける方が一定数いるかと思います。

しかし、NPSが高かったからといって、もう一度この新しい炭酸飲料を購入するかはまた別の問題です。試しに購入してみたら思ったよりもおいしく、知人には「1回飲んでみたほうがいい」という気持ちで薦める、ということも考えられるわけです。

あくまで仮説ではありますが、生活者は、新しいものを良く評価しやすく、馴染みのあるもの、利用回数が多いものほど、その評価は平均的平均回帰していくなものになるのではないでしょうか。

○業績や成長率は店舗数やブランド想起によって影響を受ける

NPSはブランドの売上や成長率と相関があるとされています。売上や成長率には様々な要素が影響するため、NPSが低いから成長しないとは一概にならないのではないでしょうか。

先ほどNPSを紹介した各コーヒーチェーンの売上については、2019年のデータではありますが、以下のようになっています。

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※この図は上記の記事から転載しています。

売上高でいうと、やはりスターバックスが圧倒的な1位です。次いで、ドトールコーヒー、タリーズコーヒー、コメダ珈琲店と続きます。店舗数については、タリーズコーヒーとコメダ珈琲店の順位が入れ替わります。

NPSでは低かったスターバックスではありますが、売上と店舗数に関していうと、コーヒーチェーンNo.1はスターバックスだと言えるでしょう。


コーヒーチェーンのエボークトセット調査の結果

また、各コーヒーチェーンの売上を説明するうえで、もう一つ参考になる指標があります。生活者がコーヒーチェーンに行きたい、と思った時にどのコーヒーチェーンを想起するか、という「エボークトセット(想起集合)」です。

ネオマーケティングでは、購入時に想起されるブランド群、エボークトセット(想起集合)※に注目し調査を行っており、コーヒーチェーンでもこのエボークトセットを調査してみました。

生活者の頭の中では、コーヒーチェーンを利用しようと思った時、その結果は以下のようになりました。

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エボークトセット全体の結果を見ると、エボークトセットの順位が各コーヒーチェーンの売上順と完全に一致していることがわかります。更に、第一想起(Top of Mind)をみると、これもやはりスターバックスがトップです。ここまで見ると、3位のタリーズコーヒー、4位のコメダ珈琲店との違いが顕著に表れます。

様々なブランドのエボークトセットを調査していると、エボークトセットとして想起されるブランドの平均は2個未満だということがわかっています。このことと第一想起の数を合わせて考えると、スターバックスがコーヒーチェーンとして主なブランドだということがわかるでしょう。

※エボークトセットとは、生活者が知らず知らずのうちに分類しているブランド群をブランドカテゴライゼーションという枠組みで整理したときの、「購入・利用選択に入るブランド」のことを指します。最初に思い出されるブランドを「第一想起(Top of Mind)」と呼び、そこに入ることが理想です。エボークトセットの他に、知っているブランドとしての知名集合(アウェアネスセット)、ネオマーケティングが早稲田大学の恩蔵先生と開発した誰かに進めたいブランドとしての推奨集合(レコメンドセット)があります。

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詳しくは以下のページをご覧ください。

参考に知名集合と、推奨集合の結果も載せておきます。

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推奨されるブランドを見ても、スターバックスが大きく生活者のマインドシェアを取っていることがわかります。


まとめ


スターバックスの例のように、新規獲得のために顧客のパイを増やすこと自体は、企業戦略として当然のことだと思います。その結果、顧客層が広がり、NPSが下がってしまったとしても、ある程度仕方がないことなのかもしれませんし、ブランド側もそのことについて重要に捉えているとは思いません。
むしろ、NPSが低くとも売上拡大を実現しているという、NPSと売上・成長率との相関に「盲点」があることを認識しておく必要がありそうです。

また、NPSと生活者の行動が必ずしもリンクしない可能性があることも、注意が必要でしょう。NPSで高く評価しているからといって、今後もその人がそのブランドを利用し続けるかというと、そうとは言い切れないということです。
スターバックスの例で言うと、店舗数というフィジカル面と、コーヒーチェーンのエボークトセット1位というメンタル面を圧倒的にカバーしているというところが、その高い売上と成長率を説明しているように思えます。

売上との相関という点でいうと、NPSよりもエボークトセットの方がブランド管理の指標としては適しています。

問題は、いかにこのエボークトセットで上位に入るか、ということです。エボークトセット3位以下のブランドが、そのカテゴリーでトップになることは非常に難しい。今からこのカテゴリー内でトップ2ブランドと真っ向勝負してしまうと、リソース勝負の仁義なき戦いに巻き込まれ、勝つ術はないでしょうね。

ではどうすればいいのか…?


エボークトセット3位以下のブランドに求められるブランディング戦略とは、新しいカテゴリーエントリーポイント(CEP)を取ることです。

このCEP戦略については、また別のコラムで詳しくご紹介できればと思っています。

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