未来の教育に目を向けよう!-教育振興基本計画から分かる日本の未来-

現在、文部科学省の中央教育審議会が次期教育振興基本計画の策定に向けて議論を進めています。令和4年10月13日(木)に中央教育審議会教育振興基本計画部会(第8回)が開催されました。教育振興基本計画は5年度ずつの策定で、2018年度〜2022年度の第3期に続く2023年度〜2027年度の第4期の計画を策定している事になります。

第3期計画では、第2期から「自立」「協働」「創造」の方向性を継承し、さらに個人の「主体性」、社会の「共生・持続性」が盛り込まれていました。また、EBPM(Evidence Based Policy Making: エビデンスに基づいた政策立案)が盛り込まれている点にも着目すべきであると思います。

個人的には、第2期から第3期に概要レジュメの見やすさが飛躍的に上がったことが気になってしょうがないです笑。

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さて、次期教育振興基本計画に話を戻します。コンセプトは、

新型コロナウイルス感染症拡大の影響とロシアによるウクライナ侵略による国際情勢の不安定化などの「予測困難な時代」である事から浮き彫りになった課題と学校・教育の役割や学びの変容

第3期から続く、誰一人取り残さず、全ての人の可能性を引き出すための教育の実現に向けた「個別最適・協働的な学び」や学習者主体、「自立」「協働」「創造」という基軸の発展的継承の点から「共生社会の実現」「多様な個人と地域や社会のウェルビーイングの実現

グローバル化、少子化・人口減少の中で、持続可能な社会の発展を生み出す人材の育成から、「主体的な社会形成参画」「生涯学び続けられる学習者」「課題の発見・解決のための学びをいつでも受けられる環境整備

デジタルトランスフォーメーション(DX)

そして、これらを通じたSociety5.0の実現となっています。

第3期計画期間中の課題として、

・コロナ禍でのグローバルな人的交流の減少や体験活動の停滞

・いじめの重大事態の発生件数や児童生徒の自殺者数の増加

・学校における長時間勤務や教師不足

・地域の教育力の低下、家庭を取り巻く環境の変化

・高度専門人材の不足や労働生産性の低迷

・教育改革に対する大学間の取組差、博士課程進学率の低さ

等が挙げられています。

これらを踏まえた基本的な方針は、

①日本型ウェルビーイングの向上・共生社会の実現に向けた教育の推進

②グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成

③地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進

④教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

⑤計画の実効性確保のための基盤整備・対話

となっています。


①について、ウェルビーイングとは、誰かにとって本質的に価値のある状態、つまり、ある人にとってのウェルビーイングとは、その人にとって究極的に善い状態、その人の自己利益に叶うものを実現した状態です。世界保健機関(WHO)憲章における健康の定義は、

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

となっています。また、ロングマン現代英英辞典で"well-being"の意味を調べてみると、

a feeling of being comfortable, healthy, and happy

であって、これはWHO憲章の健康の定義と近いことが分かります。身体的健康のみならず、精神的健康にまで言及するのがウェルビーイングです。

この考えに「誰一人取り残さず全ての人の可能性を引き出す学び」「多様性、公平・公正、包摂性ある共生社会の実現」を含め、生徒のみならず教師のウェルビーイングも確保しようというのが「日本型ウェルビーイング」という考え方だと思います。


②について、教育とは小学生、中学生、高校生、大学生、専門学生、のみならず社会人に対しても行われるものです。人生100年時代のマルチステージにおける、学校における学びの多様化やリカレント教育や、主体的社会参画意識の醸成やデジタルやグリーン等の成長分野の人材育成に向けた課題解決型学習やキャリア教育、探究・STEAM教育、文理横断・文理融合教育、SDGsの実現に貢献するESD等の推進やグローバル化が進展する中において持続可能な社会の作り手の育成に向けた留学等の国際交流活動や大学等のグローバル化、外国語教育の充実などが盛り込まれています。


③について、教育基本法第12条が定める社会教育に関する内容です。

第十二条 個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。
2 国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。

社会教育を通じた持続的な地域コミュニティの基盤形成に向けて、公民館等の社会教育施設の機能強化や社会教育人材の養成と活躍機会の拡充、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進、家庭教育支援の充実による学校・家庭・地域の連携強化、生涯学習を通じた自己実現、地域や社会への貢献等により高齢者を含む全ての人のウェルビーイングを向上、障害者の生涯学習機会の拡充に向けた取組推進などが盛り込まれています。

コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進とは、新学習指導要領にも盛り込まれていた「社会に開かれた教育課程」の実践例であると考えられます。「社会に開かれた教育課程」とは、

1. 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと

2. これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと

3. 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること

が重要となります。

コミュニティ・スクールと地域協働学校活動の説明は、以下のリンクでより詳しく行なっていますのでよろしければご覧ください。簡潔に言えば、地域住民、生徒の一部が学校運営の一部に参画する事により、コミュニケーションを円滑に行い多角的な視点からの学校運営を実現する、と言う事ができると考えます。また、学校は公共財であると考え、地域に共有、例えば児童生徒下校後の教室を地域住民に貸し出すなどの様々な面において地域との交流を深める事により、社会教育の実現を図っていくという事です。


④について、

1. DXに至る3段階(電子化(Digitization)→最適(Digitalization)→新たな価値(DX))において、当面、 第3段階を見据え、そのイメージを持ちながら、第1段階から第2段階への移行を着実に推進

2. 教育データの標準化、基盤的ツールの開発・活用、教育データの分析・利活用の推進

3. 各学校段階に応じ、情報活用能力の育成、校務DXを通じた教育データ利活用・働き方改革、教師のICT活用指導力の向上等、 GIGAスクール構想、DX人材の育成等を更に推進

4. デジタルの活用と併せてリアル(対面)活動も不可欠、学習場面等に応じた最適な組合せ

といった事が挙げられています。

現在では、GIGAスクールのおかげもあってか、多くの小中学校がデジタルデバイスを活用して授業を展開していますが、それは果たして”DX”と呼べるのでしょうか?これまでの旧態依然とした授業形態の単なる電子化の可能性はないのでしょうか?これまで、班で一枚のプリントにそれぞれの意見を記入していたのを、ロイロノートやJamboardの導入によってそれぞれの端末から一つのスライドにただ皆で書き込んでいるだけにはなっていないでしょうか?少なくとも、私が大学の授業の一環で1日だけ小学校にお邪魔をした時にはこのような感想を持ってしまいました。

この際、これまでの授業形態やその内容も含めて、もう少し本質的な議論もあっても良いと思いますし、私自身こうした分野を大学で勉強したいと考えていますので、より一層中央教育審議会の審議内容等にも注目したいと思います。


⑤について、これまでに述べてきたような内容を達成するための基盤・体制整備として、指導体制・ICT環境等の整備、学校における働き方改革の更なる推進、NPO・企業等多様な担い手との連携・協働、安全・安心で質の高い教育研究環境等の整備、児童生徒等の安全確保、子どもも含めた関係団体・関係者との対話を通じた計画の策定等が挙げられています。


ここまでお読みになった方の中には、「え?そんなこともまだやっていなかったの?」と思われた方も少なくないかもしれません。私自身、そうした感想がたくさん出てきました。特に、教育DXの分野は他国と比較しても、他業界と比較してもあまりにも遅れ過ぎています。私自身、今回は文部科学省より公表されている内容のみで執筆して参りましたが、今後各政党がこうした問題にどのように考えているかなどについてリサーチをかけて参りますので今後も是非ご注目頂ければと思います。

最後に、

教育の普遍的な使命は

学制150年、教育基本法の理念・目的・目標(不易)の実現のための、社会や時代の変化への対応(流行)

とされています。教育振興基本計画は、予測困難な時代における我が国の教育の方向性を示す羅針盤となるものなのです。

戦前の文部官僚・沢柳政太郎(1865-1927)は「教育の全体は教師である。」と唱えています。沢柳は義務教育の無償化を最初に提唱し実際に取り組むなど当時の文部官僚としては先進的な人物であったと考えられます。教育がうまくいくのか否かは全て教師の力量によるというのが沢柳の考えですが、その教師が働きやすい環境を整える事は国の義務であると私は考えます。


(参考文献)

・第2期教育振興基本計画(概要)

https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/06/20/1336379_01_1.pdf

・第3期教育振興基本計画(概要)

https://www.mext.go.jp/content/1406127_001.pdf

・次期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方(案)【概要】

https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000196651.pdf

・世界保健機関(WHO)憲章 健康の定義について

・ロングマン現代英英辞典

・教育基本法

・社会に開かれた教育課程の実現に向けて


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