留学日記#0 自己紹介

 はじめまして。多々見と言います。今日からスイスで九ヶ月留学します。

 東京大学の学部生で、専攻はフランス文学です。留学先はフランス語圏から選び、スイス・ジュネーブ大学に行くことにしました。ジュネーブでは英語とフランス語が公用されています。

 「東大! 留学! フランス語!」と言うとなんだか響きが仰々しいかもしれませんが、語学が堪能とはお世辞にも言えず、会話にいたってはほとんどできないくらいです。専門がフランス「文学」、つまりリーディング中心なので、簡単な文章を読んだり複雑な構文を解釈する練習はしてきましたが、書いたり聞いたり話したりの訓練は圧倒的に不足しています。ただ、単語や文法の知識はあるので、成長する土壌自体は整っているのではないかと勝手に思っています。

 ちなみに留学前になぜ準備をしなかったかと言うと、単に僕が怠惰だから。8月までつけていた日記をいきなり「クソがよ!」の一言で更新停止させたとき、全てが嫌になったときから、一切の勉強を放棄していました。

 もう一つだけ言い訳を付け加えるとすれば、想像以上に友人らが別れを惜しんでくれたこと。出国前最後の一ヶ月は自分一人で寝泊まりする日のほうが珍しいくらいで、一人暮らしの自宅には友人がとっかえひっかえ泊まりに来ていました。仲の良いカップルは合計で十何泊もしていきました。家族以外とこれほど濃密に時間を共有するのは初めてで、親密な距離が日常となったぶん、今は別れが惜しい。

 けれども、送別のたびに激励の言葉を受け取ってきたことで、次第に留学が現実味を帯びてきています。普通は留学準備の過程で新生活を予期するのだろうけど、準備が不十分な僕にとってそれは、「行ってらっしゃい」の積み重ねの中に徐々に浮かび上がってくるものでした。

 この文章はジュネーブへと渡航する飛行機の中で書いています。日本へと後ろ髪を引かれる気持ちもありながら、視線は新生活へと向き始めています。とはいえこれからの留学生活は何もかもが未知。スイスに何があるのかも、ジュネーブ大学で何をするのかも全く知りません。本当の本当に何もわかっていないので、目標すら立てられません。楽しみですが、不安ですし、緊張もしています。

 そんな煮え切らない留学生活の様子を、これから九ヶ月、僕なりに綴っていこうと思います。「留学日記」を始めます。

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