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iOS14.5 Webマーケティング

アプリマーケターの皆さん こんにちは!アドネットワークnend (ネンド) の「えばんじぇりすととーる」です。WWDC21が今週から始まりましたね!年間US$99 (11,890円) 掛かるディベロッパーアカウントがなくても、このApple Developerのアプリで発表内容は見られますので、この機会に是非!

広告と直接関係がありそうなセッションは、「Meet privacy-preserving ad attribution」「Apple's privacy pillars in focus」辺りでしょうか。WWDC21の上部の検索窓に「Privacy」を入力すると、HTTPの通信周りのセッションも出てくるので、それも関係あるかもしれません。もしプライバシーと関連性があれば、それも今後どこかで取り上げたいと思います。

これまで、iOSのバージョンが14.5, 14.6, 14.7 と出てきました。先週末から14.6の端末の割合が急激に上がって、今週のWWDC21 KeynoteでiOS/iPadOS/tvOS 15が発表されました。同Keynoteの一番最後にiOS15の一般リリースは今秋と伝えられましたが、どうでしょうか。既にiOS15 betaが出ているので、もう少し早いタイミングで出そうと思えば出せるような気がしますが、新iPhoneのタイミングに合わせてくるのかな、とあれこれ予想しています。

iOS14 最後のトピック、Web周りについて今回も一筆書きしていきましょう!文面ではAppleのWebKitについて触れますが、Web商材 (webでCV計測するプロモーション) のWeb面配信は、今回のメイントピックではないので、あしからず。アプリ商材のWeb配信 (Web to App / Web-App / ウェブ面からストアアプリ遷移)、それとWeb商材のアプリ配信 (App to Web / App-Web / 配信先のアプリ面からウェブ遷移) を主題として、説明していきます。前後があべこべになりやすいですが、パブリッシャーの配信面のタイプを先に考えて、プロモーションの商材を次に考えれば、間違えが少なくなると思います。では、説明の簡単なWeb-Appから、レッツゴー!

Web-App: Safari / 仕様

この段落で話すことは、商材がアプリで、広告配信面がウェブサイトについて。Appleの端末でデフォルトのWebブラウザーアプリはSafariです。Safariは端末にプリインストールされているAppleのアプリの一つになり、iOS/iPadOS向けのSafariのアップデートは、OSがアップデートされる度に合わせて行われることが多いです。例外もありますが、端末のSafariアプリのアップデートも、OSバージョンのアップデートと同じタイミングで行われます。現在開催中のWWDC21で、Safariの変更点が発表されたので、iOS15リリースの時に、Safariのバージョンアップも同時に行われると思います。

Safariはオープンソース化されていることもあり、iOS/iPadOS向けのSafariアップデートの内容が把握し辛い印象があります。Safariの脆弱性へのパッチ以外、機能追加周りの確認は以下のサイトで確認することができます。

■ Apple - Safari Technology Preview Release Notes (英語)
■ WebKit - *ブログ (英語) *ブログ > プライバシー (英語)
■ Apple セキュリティアップデート (英語 / 日本語訳

後述しますが、例えばPrivate Click Measurement (PCM)、Intelligent Tracking Prevention (ITP) の技術仕様を確認したい場合は、Appleのウェブサイトには載っていないことがあるので、WebKitのブログから探す必要があります。ただ、WebKitのブログでは、各トピックの情報がどんどん新しくなるので、そこで出された情報の中で、実際にAppleが端末に適応するものは何か、いつから適応されるのか、別途、確認作業が必要になります。例えば、2020年3月24日のITPに関するアップデート (Full Third-Party Cookie Blocking and More) の場合、いつからAppleがこの文章で書かれたことを端末に適応するのか記載がありません。適応される予定日と適応される項目を調べるためには、サイトを横断して追加で確認する必要があります。

Web-App: Safari / プライバシー

WWDC21が開かれる前、米・ウォールストリートジャーナル紙が独占で、AppleのCraig Federighi氏にインタビュー (WSJ / youtube) を行っています。話の内容は全てプライバシーについてだったので、iOS14プライバシーのトピックを執筆する身として、とても興味深いものでした。Craig氏は記者からのATTポップアップについての返答で、Appleの自社アプリとサービスのプライバシーについて言及しています (3:08~)。

"there's no Apple app or service that tracks. There's no app that's sharing information with external data brokers. No app or service of ours that is tracking you across other vendors, apps and websites. If we ever did do something that fits definition of tracking, we, of course, would have to show that prompt."

「Appleのアプリもしくはサービスでトラッキングするものはない。外部のデータブローカーと情報を共有するアプリはない。我々のアプリもしくはサービスで (外部の) ベンダーやアプリ、ウェブサイトをまたいでユーザーをトラッキングするものもない。もし "トラッキング" の定義に当てはまる様な行為をこれまでしていた場合は、もちろん我々もATTポップアップを出さないといけない」

WWDC21のKeynoteで、CEOの次に出てきた人が、かなり強めにAppleは "トラッキング" していないと話しています。SafariのアプリにもATTポップアップは出ていない、出る気配が全く無いので、今後ウェブで広告が出来ることは更に限定的になる可能性があります。iOS15のSafariでは、IPアドレスを隠す機能も追加されている様子なので、特段何か起こらない限り、ウェブに対しての広告制限は止まらない気さえしてきます。

Web-App: Safari / IDFA(Fingerprinting)トラッキング

そんなことは言っても、広告でビジネスを行う当事者として、正しく物事を把握した上で、広告事業を継続していかなければいけません。iOS14リリース以降、少しずつ主流となってきた考え方の一つとして、SafariではATTポップアップがない、つまりユーザーのプライバシーに関する許諾を把握することができないため、プロモーション側のアプリ内でATT許諾が出来た場合、"トラッキング" を行う流れができつつあります。これを初めに取り入れたのは確か、米MMPのSingularだったと思いますが、他の計測ツールもその考え方に追随する形で機能を追加している様子です。

Web-App: Safari / SKAdNetwork

結論から言うと、アプリプロモーションのウェブ配信では、SKAdNetworkは使えません。前に書いたSKAdNetworkその一の<名称>で触れましたが、SKAdNetworkはAppleのStoreKitフレームワークの機能の一つです。SKAdNetworkのクリックもAppleの英語表記ではStoreKit-rendered Adのみに限定されるため、端末の下部から覆いかぶさるように出てくるストアページが表示されないことには、SKAdNetworkでの計測が出来ません。iOS14から始まったApp Clipという、インストール前にゲームなどのアプリ簡易版がウェブで遊べる便利な機能がありますが、AppleはApp Clipを使ったSKAdNetwork計測を制限(Apple技術仕様 - 英語)しているため、Web-AppのSKAdNetwork計測は今のところできません。

話は変わりますが、オランダのゲームディベロッパーFiri Gamesさんが、Phoenix 2の自社サイトで、シューティングゲーム版App Clipを導入しているます。とても良くできていて面白いので、是非チェックしてみて下さい。ウェブを上下にスクロールすると画面上部にApp ClipをスタートするCTAが出てきます。それをタップするとシューティングのミニゲームがすぐ始まります。

App-Web: Private Click Measurement (PCM)

ここでは、Web案件のアプリ面配信について説明します。この取組では従来、クッキー情報などから端末の特定を可能にする固有IDを使って、Web案件のコンバージョン計測が行われてきました。SafariでのWeb案件のターゲティングとコンバージョン計測は、2017年にAppleがIntelligent Tracking Prevention (ITP) を導入した時を境に、徐々にしづらくなっていきました。最近は特にクッキーを排除する流れも目に付くようになり、広告業界におけるパフォーマンス型Web案件の肩身が狭くなってきた印象があります。

広告事業社がiOS14でIDFAを取得して端末を特定できるのは、オプトインしたユーザーのみに限定されます。この状態になると、Web案件のターゲティングや計測などは更に困難になるため、FacebookやInstagramなどの超大型アプリを運営するFacebook社は、iOS14のプライバシー強化に断固として反対しました。Facebook Audience Network (FAN) を使うパブリッシャーの収益が50%以上下がるとFB社が発表したことは、記憶に新しいことかと思います。これに対してAppleは、代替案というわけではないと思いますが、ユーザーのプライバシーを尊重しながらApp-Webの広告計測を可能にするPrivate Click Measurement (PCM) という新しいWebKitの仕組みをSKAdNetworkに導入しました。対象はiOS14.5以降の端末で、SKAdNetwork 2.2からPCMでのCV計測が出来ます。前置きが随分長くなってしまいましたが、PCMの仕様について見ていきましょう。

App-Web: PCM / 概要

WebKit上の仕様書 (英語) を見ると、これまでの経緯が2項目に渡って、さらっと書いてあります。この仕組みを理解する上で大事なことの様に思えるので、日本語でもサクッと書きます。

■ PCMの以前の名称は "Privacy-Preserving Measurement of Ad Clicks" 
■ 原案は2019年5月に提唱された(英語
■ 寄稿者はJohn Wilander氏 (@johnwilander) (ITPもこの人がWebKit上で発信)
■ 規格として採用したのはSafariが初めてだが、別のブラウザーのFirefox, Brave, Chrome, Edgeとも導入について話しているとのこと
■ Click Source Side (パブリッシャー側) では8ビットが使用可能 (2の8乗=256) 
■ Conversion Side (プロモーション側) では4ビットが使用可能 (2の4乗=16) で、16個のCVイベントが設定可能
■ Cookieは使用しない
■ App-Webの場合、iOS/iPadOS 14.5以降の端末+SKAdNetwork 2.2以降が対象
■ Web-Web のCV計測にも適応可能
(■ UTM - Urchin Tracking Module / パラメーター (英wikipedia)を使ったApp-Web計測もあるが、プライバシー上の懸念が強く、Appleは許可しない姿勢との見方がある) 

以前執筆したSKAdNetworkでもビットについて触れたので、上記の4ビット、8ビットは分かりやすいのではないかと思います。SKAdNetwork同様、レポーティングのポストバック遅延もあります。CVのポストバックは各端末のウェブブラウザーアプリから、予め設定したURLに送られます。

App-Web: PCM / 仕様 - パラメーター

PCM自体がITPの延長として、Web-Webのプライバシーを重視したCV計測から始まったようで、仕様書にはWeb-Web計測の仕組みから説明が始まっています。Web-WebのPCM計測をざっと見ると、versionは1のままで、そこまで開発が進んでいる様には見受けられません。広告業界でWeb-Web計測にPCMを導入した話も特段聞いたことはありませんが、仕様の理解を深めるために、簡単に順を追って見ていきましょう。

Web-Web: パラメーター

<仕様書一つ目の図 - パブリッシャーサイト>

<!-- Link on social.example --> 
<a href="https://shop.example/product.html" 
  attributionsourceid="[8-bit source ID]"
  attributeon="https://shop.example">

 Markup (プロモーション側の遷移先サイトURL)

</a>

上記がパブリッシャーのウェブサイト (social.example) 上に表示される広告のクリックURLに付随するパラメーターです。a href=" "の下の2つがPCM / Web-Webで使用されるパラメーター:
"attributionsourceid" - 8ビット (0~255) のIDが記載可能。
"attributeon" - 遷移先のウェブサイトURLのeTLD+1 (effective Top Level Domain) 
***attributeonのドメインに遷移した時 (クリック時)、attributionsourceidなどのクリック情報は7日間、ウェブのブラウザーに記録され、この記録はウェブサイト (管理者) からアクセスができない

<仕様書2つ目の図 - 広告主サイト>

https://social.example/.well-known/private-click-measurement/trigger-attribution/[``4-bit`` trigger data]/[optional 6-bit priority]

上記が広告のクリック遷移先 (広告主サイト) で、アクションが起こったとき (CV時) にリダイレクトされるURLになります。ここでは以下の2種類のパラメーターがあります:
"4-bit trigger data" - 4ビットの2桁の数値 (00-15)。SKAdNetworkのConversionValueと同じような使い方。
"optional 6-bit priority" - 6ビットの2桁の数値 (00-63)。任意設定。上記の4-bit trigger dataを補足する役割。例:遷移先で複数設置しているイベント (4-bit trigger data) の購入額 (6-bit priority) を設定。例えば、青色の傘 (03)で高級グレード (50) = .../private-click-measurement/trigger-attribution/03/50

このCVイベントがブラウザに記録されたクリックイベントと合致した場合、イベント発生後24~48時間以内に、以下のポストバックがブラウザーアプリ (Safari) から送られます。

<仕様書3つ目の図 - ポストバック>

{
 "source_engagement_type" : "click",
 "source_site" : "social.example",
 "source_id" : [8-bit source ID],
 "attributed_on_site" : "shop.example",
 "trigger_data" : [4-bit trigger data],
 "version": 1
}

"source_engagement_type" - 現在はview-throughの規格が無いため、全て"click"
"source_site" - パブリッシャーのウェブサイトURL
"source_id" - 一つ目の図にある8ビットのID。キャンペーンを識別したり、パブリッシャーを識別したりするのに使用可能。
"attributed_on_site" - 広告クリック遷移先の広告主サイトURL
"trigger_data" - ConversionValue
"version" - PCMのバージョン

App-Web: パラメーター

基本的な項目は、Web-WebのPCM計測のものと変化はないと仕様書に記載されていますが、配信先がアプリのため、いくつかパブリッシャー側で変更点がある様です。ざっと書き出します。

NSAdvertisingAttributionReportEndpoint

info.plist内にあるこのセクションに、CVポストバックを送りたいURLを書き込みます。iOS15から適応されるSKAdNetworkの機能の一つで、ポストバックのレポートをアドネットワーク以外にコピー送付したい時、info.plist内のこのセクションで設定を行います。

UIEventAttributionView

SKAdNetworkでアドネットワークが広告表示の際に行う署名と似たような作用があります。広告のクリック領域に被せるなどして、PCMのCV計測を可能にします。

open class UIEventAttribution : NSObject, NSCopying {
   open var sourceIdentifier: UInt8 { get }
   open var destinationURL: URL { get }
   open var reportEndpoint: String? { get }
   open var sourceDescription: String { get }
   open var purchaser: String { get }
   public init(sourceIdentifier: UInt8,
               destinationURL: URL,
               sourceDescription: String,
               purchaser: String)
}

"sourceIdentifier" - Web-Webの "attributionsourceid"と同じ役割。8ビット (0~255)。キャンペーンの識別やパブリッシャー識別などに使用可能。
"destinationURL" - Web-Webの "attributeon"と同じ。遷移先のウェブサイトURL。eTLD+1 (effective Top Level Domain) にする必要がある。
"reportEndpoint" - info.plistに入るレポート送付先が自動的に適応される。
"sourceDescription" - 広告クリエイティブについての説明。100文字以内のテキスト(以下仕様書内の例参照)
"purchaser" - 広告主 (プロモーション) についての説明。100文字以内のテキスト(以下仕様書内の例参照)

func openAdLink() {
   let adURL = URL(string: "https://shop.example/tabletStandDeluxe.html")!
   let eventAttribution =
       UIEventAttribution(sourceIdentifier: 4,
                          destinationURL: adURL,
                          sourceDescription: "Banner ad for Tablet Stand Deluxe.",
                          purchaser: "Shop Example, Inc.")

他にもいくつかコードで目安となるものはありますが、アドネットワークなどの広告を配信する事業社に関するものになるため、ここでは一旦触れずに、後日配信の事例を挙げながら説明していければと思います。実例がある方が、流れを理解しやすいと思いますので、次回PCMを再度取り上げるときに説明しようと思います。

iOS14プライバシー連載の終了

iOS14のプライバシー周りで5回 (ATT, SKAdNetwork 1/2, SKAdNetwork 2/2, オプトイン率の推移, 今回のWebマーケティング) に渡り連載をしてきましたが、いかがでしょうか。AppleがWWDC20で、iOS14からATTとSKAdNetworkの仕組みを適応する発表を行ってから早1年が経ちます。私自身分かっていたつもりで執筆を進めてきましたが、技術的にも新しい事が多かったので、確かめる意味も含め関連の資料を振り返る場面が多かった気がします。特に今回のPCMでは、nendでの実績が多いとはまだ言えない状況下なので、仕様書の意味を理解して現場に適応すること自体、難しい箇所がありました。本連載に興味を持って読み進めていただいた皆様に感謝申し上げます。

今週発表のあったiOS15で、広告回りの目新しい発表は無さそうな雰囲気ですが、ユーザーのプライバシー強化は今後も途切れることなく進んでいる実感があります。今回の連載の読解をきっかけに、プライバシーとその状況下でのマーケティングが1歩でも先に進むことになれば、執筆者として嬉しい限りです。もしかすると、プライバシーマーケティングを初めに試すのは、所謂SANs - 1st partyの広告ネットワークかもしれませんが、nendは数多くの個性あふれるディベロッパーさんから構成されている老舗アドネットワーク (3rd party) なので、是非皆さんに使ってもらいたいと思います。

終わりに - 「プライバシーMktg」slackチャンネル

nendでは「プライバシーMktg/marketing」のオープンSlackチャンネルを用意しています。このリンクからどなたでも参加できます。iOS14連載のnoteで触れた内容、触れていない内容、iOS15から影響が出ること等々、是非気軽に感じたことをSlackグループ内で話してもらえればと思います。私の次回からのnote更新は不定期になる予定です。ユーザーのプライバシーを軸に、マーケティングの形が目まぐるしく変化しているので、時間の許す限りより良いコンテンツを目指して、更新を続けていきたいと思います。

それでは皆さん、次回お会いするまでお元気で!