君はどこにいるのか?:Michael Franks - One Bad Habit
もう何年も前の話になるが、馴染みのラーメン屋で馴染みの友人と食事をしていた時に、その店に設置されているレコード・プレイヤーで友人が持ってきたマイケル・フランクス「Burchfield Nines」を聞いた。洗練されたサウンドと優しく歌い上げるボーカル、美しいメロディは強く印象に残った。その時にはジャケットも撮影せず、アーティストの名前もきちんと記憶しなかったので、音の印象だけを頭に残したまま、数年間が過ぎていった。
最近になってようやくマイケル・フランクスのレコードに巡り合うことが出来た。アーティストの名前も覚えていないのにどうやって巡り会えたのかは長い理由があるが、それは何か見えない引力によって、数年かけて導かれた…つまりいくつかの偶然が重なったということにしておく。探しているときは見当たらないが、忘れた頃にふとレコード屋のエサ箱から顔を出してきて、私の脳の隅っこにしまい込まれた記憶に細い糸を結びつけて、ラーメン屋での過去の体験を引っ張り出してくる。
「One Bad Habit」というタイトルのレコードは、期待を裏切らない内容だった。ラーメン屋で聞いた作品とは違うタイトルだが、かつて感じた印象そのままの素晴らしさがあった。ジャズとソウル・ミュージックをはじめとしたいくつかの音楽の要素が複雑に、そしてちょうど良く絡み合い、静かな部屋でプレイをしても、部屋の静けさを壊すことがない一方で、そのサウンドはしっかりと心に沁みてくる音楽だ。
私は彼の作品をもっと聞きたいと思うようになった。どの作品でもいいとは思うが、できれば古い作品をアナログレコードで聞きたいので、中古レコードに行くたびに探している。しかし先述したように複雑な要素が絡み合ってできているマイケル・フランクスの音楽のジャンルは何になるのか、よくわからない。最初は「ソウル」扱いかと思い、その店の「SOUL/FUNK」コーナーにある「M」を探す。そこで見当たらないので次は「JAZZ」コーナーで探す。そこにもないので「ROCK/POPS」「SSW」「AOR」と立て続けに探すがどこにも見当たらない。どの店でもこのようにして探しているが、おそらくは人気も高いのだろう、「One Bad Habid」に出会ってから他の作品に出会うことができない。
忘れた頃に出て来て探しているときには出てこない、と言うのはレコード好きにとっては「あるある」だが、その状態が続くとまるで振り向いてくれない片思いの相手を追いかけるようなやるせない気持ちになってくる。そしてそのやるせなさに拍車をかけるのは、「One Bad Habit」がもたらした素晴らしい体験は忘れ難く、そうなると「忘れた頃に…」ということがなくなってしまう。私はマイケル・フランクスを忘れることができず、常に想い続け、しかしどこにいるのかもわからないまま、彼を探し続けなくてはならなくなったのだ。
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