熱が下がらない:1/7

朝は出勤するつもりで起きた。しかし頭痛と倦怠感がひどく、動けない。体温を測るとやはり38度を大きく越えている。仕事は病院に行ってからでいいと言われていた。しかし病院に連絡をするにもまだ早すぎるので、もう一眠りすることにした。次に目が覚めると始業時間を大きく過ぎてしまった。身体の具合は悪い。携帯電話を見ると職場から何度も着信があり、ショートメッセージもいくつか届いていた。私は実に気まずい思いをした。

再び体温を測るが下がっていない。かかりつけの病院に連絡をする。電話には受付の方が出た。「先生に確認をしますからこのままお待ち下さい」と彼女は言い、私の電話から保留中のメロディーが流れ始めた。そうやってしばらく待っていたが、いつまで経っても保留中のままだ。このまま忘れ去られてしまったのではないかと心配になっているとようやく電話が戻った。「先生は診察が立て込んでいるので、手が空いたらこちらから折り返します」とのことだった。

慌てて職場に連絡を入れる。今日は仕事を休むことと、病院からの折返しを待っていることを伝えた。決まったことを報告するように、という指示を受けた。自社の担当にも連絡をすると連絡をするのが遅いことを注意された。「連絡がこの時間になった理由は?」と問われ「身体がしんどくて起きられませんでした」と正直に私は答えた。電話の向こうからでも彼が呆れていることがわかった。

その後も私の対応している仕事の進捗や作業手順、行動履歴について何度も問い合わせの電話とショートメッセージが飛んでくる。私はかなり参ってしまった。

病院から折り返しが来るまで、ほんの10分程度であった。しかし随分と長い時間があったように私は思えた。医者から「先にPCR検査をしましょう。今はとりあえずそれからです。K病院でやっていますから、私からそこに予約状況を確認して、空いていれば今日のうちに検査を受けられるようにします」と言われた。K病院は私の自宅からかなり距離がある。この高熱で歩くのは大変だが仕方がない。再び折り返しの連絡を待つこととなった。その間に職場、出向元の担当者と両親に電話を入れた。こんなに電話をしたのはここ数年なかったように思う。

病院からの回答は「今日はPCR検査を受けることはできませんが、明日の10:00に受けるように手配をしておきました。紹介状と念の為の風邪薬を出しておくので、取りに来てください」と言うものだった。動くことはしんどいな、というのが正直な私の気持ちであった。時間はそろそろ昼になる。病院が昼休みになる前に行くことにした。午後や夕方になると冷え込むから、きっと体に障るだろう。何とか着替えて病院に向かった。

病院は雑居ビルの中にある。入ると受付の方からすぐに廊下に出るように促された。何を言われたのか理解できずに立ち尽くしていると、もう一度廊下に出るように促された。笑顔ではあるが「あなた、状況を理解していますか?」と言いたげであった。確かに私は状況を理解できていなかった。紹介状と処方箋を受け取った。薬は指定の薬局で出してくれるとのことだった。薬局に行くと、入り口に立った私をみた薬剤師が「外でお待ち下さい」と言った。私が来ることは事前に連絡がされていたようだ。コロナウイルスの感染を疑われたことで、ある種の烙印が押されたような気持ちになってしまった。外で薬を受け取り、薬の飲み方について説明を受けた。対応してくれた薬剤師は明るい笑顔の持ち主で、とてもチャーミングだと私は思った。

薬局の隣にあるパン屋から、美味しそうな香りが流れてくる。私はとても腹が減ってきた。匂いを感じるということは、コロナではないはずだ。やはり毎年の風邪だろうと私は思った。身体が寒さに堪えただけだと。コンビニで昼食を買って帰った。

昼食を部屋で食べながら、病院と薬局で私が中に入れてもらえなかったことを思い出していた。絶対に感染者を出さないという緊張感の中で仕事をすること、危機感の低い患者の相手をすることはどれほどのストレスを彼らに与えているだろうか。私は「烙印を押された」などと考えていたことを恥ずかしく思った。彼らは決して間違ったことを私にしていない。医療従事者たちの緊張感と危機感は、私も見習うべきものなのだ。そして感染拡大防止には医療従事者の緊張感と危機感が共有されていくことが大事だろうと思った。どうか多くの人々、そして政府に届いてほしい。

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