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負け犬たちのアンセム:Beck - Loser

クンビアの緩いグルーヴ、いなたい雰囲気と90年代のオルタナティヴ・ロックのローファイなサウンドは相性が良さそうだと思いついて、自分のDJの中でクンビアとオルタナティヴ・ロックをミックスしたら面白いのではないかと思いついた。

持っているクンビアのレコード(と言っても片手で数えられる枚数)を聞き、真っ先に思いついたのがベック「Loser」だった。弛緩したイントロと間延びしたようなベース、たどたどしくて上手くはないけど子供の歌のような可愛らしい雰囲気のあるラップが印象的な、1993年のロック・クラシック。ただ私自身がDJの時にプレイした記憶はほとんどない。今こそ「Loser」をプレイしてもいい時だろう。

プレイする前に「Loser」の歌詞を読もうと思った。実はベックをリアルタイムで聞いたのは「Midnite Vultures」(1999)で、私が買った「Mellow Gold」(1994)は歌詞カードなどは付いていない輸入盤だったために、ヴァースの歌詞については全く知らなかったのだった。およそ30年の時を経て、散々聞いてきた曲の歌詞を初めて読むことは面白く、驚きもあった。

皆がチンパンジーの頃 俺はまだ猿だった
ブタンを静脈に流し、俺はヤク中から抜け出すんだ
プラスチックの目玉をつけて、野菜にスプレーペイントを施す
頭の中身はドッグフード、パンスト履いたマッチョ男
ヘッドライトを消して、ニュートラルに入れなよ
炎に包まれるストックカー(レース用の改造車) と、走行制御される負け犬
あの娘はビタミンDを持ってリーノーにいる
二人掛けソファを手に入れ、ラブシートにして眠る
できちゃった婚だのシャツのシミだのに文句言う俺の事を
狂ってるって言う奴がやって来た
何も信じちゃいけないよ、アンタが息してる事もね
駐禁切符を切られ、袖にはウジがついてる
暗闇の中、メイス(こん棒)で髭を剃りなよ
食品配給券を貯めこんで、トレーラーパークを焼き尽くす

【スペイン語】俺ハ負ケ犬
俺は負け犬さ、俺を殺しちまえよ(二連式の散弾銃で)
俺ハ負ケ犬
俺は負け犬さ、殺しちまいなよ

野暮ったい悪夢の邪なフォースが
イカサマの毒ガス室にすべての音楽を封じ込めた
こっちがイタチ野郎を捕まえたら、あっちは旗を持ってる
ポールに登る奴や、袋に押し込められる奴
再放送番組に、コカインを使った鼻の美容整形
薄汚いフォークシンガーの昼間のクソ(ひどい演奏)
奴はギターの弦で首をくくる
陰茎の厚切りが、鳩の羽根にぶら下がる
関りがもてなけりゃ、詞だって書けない
熱のための体のためのビートのための現金取引
俺の時間がワックスの欠片となって
棘に喉を詰まらせたシロアリに降りかかる

俺ハ負ケ犬
俺は負け犬さ、殺しちまいなよ(チーズウィズでアガッてこうぜ)
俺ハ負ケ犬
俺は負け犬さ、殺しちまいなよ(走行しながらボディピアスさ)
(さぁ、やり切るぜ)

俺は運転手、俺は勝者
時代の変化を俺は感じる

出典:LyricList(りりっくりすと)

私はこの曲はもう少し能天気と言うか「負け犬」であることを皮肉っぽく笑い飛ばすような曲だと思い込んでいたから、このような恵まれているとは言い難い生活環境、人間不信から来る孤独感と形容し難い不安、そこから逃れるためのドラッグの利用、そんなテーマを歌った曲だと知って驚いた。そしてがサビの部分にスペイン語が使われていることにも驚いた。「Soy un Perdedor」の部分は「Oooh, Baby, I'm So…」だとばかり思っていたのだ。また、この曲のMVの全体に漂う「何か妙な、嫌な感じ」がどこから来ているのか理解できなかったが、この曲で歌われている世界観をそのまま映像化したものだったのだ。

いつの時代でも、ここで歌われているテーマは社会問題として存在していただろう。日本においてもロスジェネ世代とされている私を含めた人たちがこの曲を改めて聞くと思うところは多いかもしれない。孤独と不安に押しつぶされそうになり、その場しのぎのドラッグ頼み、目が覚めたときには自己嫌悪に襲われる。歌詞の終盤に付け加えるように描かれたほんの少しの光(俺は運転手、俺は勝者/時代の変化を俺は感じる)は、今の私たちに見ることができるのだろうか。

さて、先に書いたクンビアとこの曲をDJプレイでミックスするとことについて、主宰しているパーティーで実際にやってみた。期待していたとおり、見事にはまったので、今後もやっていくと思う。ラテン音楽と並べて聞くことをして「Loser」という曲、ベックの作る音楽の中にラテン音楽はもちろん、様々なスタイルが包摂されていることが今回の体験で発見することができたことも、今回の試みから得られた収穫の一つだ。


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