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ロングアイランド・アイスティー:My Bloody Valentine - Soon

「ロングアイランド・アイスティー」というカクテルが好きで、クラブに遊びに行くとたまに飲んでいる。

そのカクテルの名前を知ったのは、かつて「ロッキング・オン」が出版していた「BUZZ」という雑誌に連載されていた、ニューヨーク在住のライターによるコラムだった。うろ覚えの私の記憶をたどれば、それは1990年代の終わり頃の話だったはずで、そのライターがバーに出かけたところ、当時J・マスキスとアメリカをツアーしていたケヴィン・シールズに出会った。そこでシールズはずっとロングアイランド・アイスティーを飲み続け、ライターとの会話に応じていた、あらすじとしてはそんな内容だった。

コラムの内容は面白かった。ライターは最初、その話し相手がシールズだと気づかず、普通の客として話をしていたら「日本でライブをやったことがあるよ」と聞かされ、よくよく聞いてみたらマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズだったという。当時活動を停止していたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインがどうなっているのか、と言うことも聞いており、振り返ってみるとなかなかのスクープだったように思う。それに対してシールズははぐらかすような返答しかしていなかったのも印象的だった(後のインタビューでこのコラムが掲載されていた時には2013年にリリースされる「mbv」のレコーディングが開始されていたことが明らかになる)。

そして何よりも、あのケヴィン・シールズが飲み続けている酒の名前がやたらと長いことが私にとって一番重要だった。「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン」と「ロングアイランド・アイスティー」の字面のバランスというか言葉のリズムもなんだか釣り合いが取れているように思えて、当時の私はそこに何かインスピレーションを感じたわけだ。それから私とロングアイランド・アイスティーの関係は始まり、行く先々でロングアイランド・アイスティーを注文し続けた。

数多くのお酒を使うので、作るのに手間がかかる。混んでいるクラブで注文をすると後ろから「何やってんだよ」と無言の圧を受けることになる。そうやってようやく出てきたそのカクテルを初めて飲んだときは少し味の変わったコーラだとしか思えなかった。付けられた細いストローでちゅうちゅうと吸い上げて飲むことがもどかしくて、グラスから直飲みをしていたら、ジェットコースターが急降下するような勢いで酔っ払ってしまった。それは私にとって斬新で甘美な体験だった(そしてストローが付いてきた理由もわかった)。

コーラの甘みの奥からブレンドされた複雑なお酒の味わいが浮かび上がり、舌に残る。そして酔っ払う。ロングアイランド・アイスティーが誘う甘い泥酔、それは正しくマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの音楽、またはシールズの甘美なギターノイズが導くそれそのものだ。私はあのノイズとともに、誰にも私を触れさせず、私のことについて判断もさせない、そんな真っ暗な中で自由に踊る。しばらくすると大きな穴が私の身体を吸い込み、そしてまたしばらくしてから吐き出す。吐き出されたあとには疲労と、翌日になればひどい頭痛と二日酔いが残る。しかし次の週末にまた、私はノイズとともに踊り続けた。

焼酎と日本酒を飲むことを覚えてから、ロングアイランド・アイスティーを飲むことは少なくなった。それでも一夜の中で焼酎の味に飽きる場合はこれをオーダーする。そしていくつかのあのサイケデリックなMVを思い出しながら、私はまた甘い夜に溺れていく。


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