14106と言って

「14106」という言葉が世の中を騒がせるころ、僕は高校生だった。そして初めてのデートを経験することになった。

当時は、ポケットベルという数字を送り合う端末が登場し、学生たちはこぞって持ち始めた頃だ。それまでは、デートの誘いは、相手の実家に電話をしなければいけなかった。誰しも「親に電話を切られる」という洗礼を受けていたものだ。

愛しているという意味を込めた「14106(この数字の読み方を語呂合わせでアイ(1)シ(4)テ(10)ル(6)と読んだ)」という数字を送り合って。愛どころか、恋さえもわからないくせに。

その時の男子高校生のほとんどがそうだったと思うが、僕が当時、恋をしていたのはクラスメートで。それもかわいいからとかではなくて、自分と席が近かったとか、そんな環境要因で。

彼女は勉強もできた。焼きそばパンも食べた。僕は、お昼に学校の近くのパン屋さんに昼食を買いに行った。その時に彼女に「何かいる?」と聞くと、回答はいつも「焼きそばパン」だった。僕は、そんなに好きでもない焼きそばパンを2つ買って、1つは彼女に、そしてもう1つは自分で食べた。一緒のものを共有したかったから。もし彼女が「冷蔵庫が欲しい」といったならば、僕も同じ冷蔵庫を買っていただろう。

掃除の時間、2人で一緒に話をするタイミングがあった。その時、僕は「ボーリングにいかない」と誘った。ひねり受け身も何もないストレートな誘いだったと思う。そして、彼女は「いいよ」とOKをしてくれた。ボーリングらしいカーブのない誘いと、ボーリングらしい角のない返事だった。

ある日の土曜日の昼過ぎに、彼女とはボーリング場で待ち合わせた。

当日も家から彼女のポケベルに連絡を飛ばす。「73211354(むかうね)」と打つと、「1524(OK)」と彼女から返ってきた。

僕は自転車でそこに行き、彼女は車で送ってもらっていた。私服の彼女を見るだけでも僕はテンションがあがった。今ならば「ボーリングなのに、なんでスカート」と言っていたかもしれないけれど、当時は、スカートは天下無双だった。

ボーリングは2ゲームをしたように思う。どっちが勝ったかさえも覚えていない。ただ、スペアだかストライクをとった時の彼女の嬉しそうな笑顔をみて、「映画よりも、こっちの方が彼女の笑顔を見れるからいいな」と思った。メジャーリーグ2を一緒に見るよりもよっぽど良い。

ポケベルがない、という気づいたのは、その後だった。多分、クレープ屋でクレープをかった頃だ。僕はポケットにポケベルがなくなっていることに気づく。でも「ポケベルがない」なんていいたくなかった。かっこ悪かったし、何より、彼女との時間をポケベル探しに使うのはもったいなかった。

僕は、このデート中に彼女とはぐれないことだけを願った。はぐれたら終わりだ。

そして、その後、カラオケをして、僕たちは帰った。帰りは、彼女の親が迎えに来るといったけれど、「僕が送る」といった。そして、僕が乗ってきた自転車に彼女が乗り、僕は隣を走った。30分くらいの距離で、息が切れたけれど、楽しかったのを覚えている。

そして、無事に家に帰り、僕はその週末にポケベルを買い替えた。彼女には「新しい機種に買い替えたんだ」と言って、なくしたことは済んだ。

でも、それから彼女は少しよそよそしくなって。僕はデートでなにか失敗しちゃったんだろうなと思った。ボーリングが下手だったか、あるいは、映画をみるべきだったか。ホットドッグ・プレスでは「女の子の話は聞くこと」と書いていたのに、喋りすぎちゃったのかもしれない。

そして彼女とはもうデートをすることはなかった。

それから20年たって、高校生の時の同窓会が開かれた。二次会で彼女と話をする。

「あの時、デートで俺なにかしたっけ」と。

彼女は目を見開いて言う。
「あの後、『好きだよ』ってポケベルうったのに、返信しなかったのは、カズキくんじゃん」と。

僕はテクノロジーを呪った。ポケベルに既読機能がついていなかったことを呪った。当時にLINEがなかったことを怒った。自分の失われた青春を今更知った。自分をずっと苦しめていた灰色のモヤモヤの正体を知った。

そして、ポケベルはボーリングみたいったな、と思った。ボーリングは、一度、ボールが自分の手から離れてしまえば、それがどうなったかわからない。ガーターだったのか、ストライクなのか、スペアなのか。それと同じで、ポケベルも自分が送った後は、相手に届いたかを確認する方法はないのだ。間違った文字を送っても自分は気づけない。LINEのように既読も確認できない。メールのように送信文もみれない。

みんな今日も「このコースはストライク!」と信じながらボールを投げていたのだ。

余談。こんな経験があったから、今も、デートをした子のLINEが既読にならなかったなら、僕は「あの子は、ボーリング場で携帯を落としたのかもしれないな」と思うようになった。

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