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眠る前に読む小話
2017年3月31日 23:18
「すいませーん」店先から声がする。花束を包んでいた手を止めて、入り口を覗く。スーツを着た男性が立っている。「すいません。何か花束を見繕って欲しいんですが」とスーツは仰る。40代か。少し頭に白髪が見えるが、ダンディなおじさまだ。日焼けした笑顔が美しい。「かしこまりました」と男性の方に向かう。その時に、私は気づいてしまう。パンツのチャックが全開であることに。普通のパンツならば相手が立っ
2017年3月31日 00:42
2017年、ついに脳波で操作するパソコンが実用化されました。脳に埋め込むタイプではなく、頭皮上に電極をおくヘッドセットタイプです。利用者はそのヘッドセットを通じて、脳波による指示をパソコンに送ることができるようになりました。パソコンは、その依頼を受け、メールの作成や動画の再生、パソコンのオンオフなどができるようになったのです。アーリーアダプターとして、それらのヘッドセットを使い始めたの
2017年3月29日 22:56
明細胞肉腫という珍しい癌だった。28歳という若さで発症したためか、発覚した頃にはもう手遅れだった。アヤは一言で言えばよく笑う子だった。僕のメールの文章が硬い、とケラケラと笑った。チャックが開いてるよ、と笑った。泣いている時もあったけれど、その10倍は笑っている子だった。僕は彼女の笑顔を見ているだけで、幸せになれたものだった。病室で彼女は「バニラシェイク」をよく欲しがった。僕はマクドナルドの
2017年3月28日 20:49
「アメリカでは、インアンドアウトという美味しいハンバーガー屋さんがあってね」と、サダさんが喋る。まさかこの人が、こんなにハンバーガーが好きだったなんて。サダさんは、延々とインアンドアウトバーガーがいかに美味しいかを力説する。レタスのシャキシャキがすごいんだよ、と。私は、そのレタスは紀伊国屋の閉店後に調教されたレタスかしら、と考える。インアンドアウトが素晴らしいのはわかった。ただ、問題は
2017年3月26日 21:37
ミチがカフェで友人を待っていると、隣の席の会話が耳に入ってきた。- パンと他の料理の違いはわかるか?白髪の恰幅の良い男性が、若い男に質問を投げかけている。パンと他の料理の違い?主食じゃないということかな。- なんでしょう。こねる必要があるということでしょうか。でもそれだったら、そばやピザもそうだし、、、前の男が、頭をひねりながら喋る。- 違う。パンはな、手で食べるということだ。
2017年3月25日 21:38
ナオトは、雨の中のターミナル駅の商店街を浮気相手と歩いていた。すると、前方から知った人が歩いてくる。距離としては200メートルくらい離れているだろうか。ナオトの妻だった。しかし、ナオトの妻も男性と寄り添って歩いていた。腕を組んでいた。ナオトも浮気相手と腕を組んでいた。ナオトと妻は目があった。とっさに透明傘を前に倒したのは妻の方だった。夫が思わず立ち止まったら、浮気相手が「どうしたの?」と話しか
2017年3月18日 02:43
昔々、あるところに女の子がいました。その女の子は黒板に文字を描くのがとても上手でした。あまりにも上手で、彼女が黒板に描いた算数の回答は、間違っていても、正解にされることがあるくらいでした。先生がその文字の美しさに見とれて、うっかり正解にしちゃうんでしょうね。学校も、市の書道コンクールに彼女の板書を送ろうかと悩んだほど美しい文字でした。ある時は、いたずらっ子たちにせがまれて彼女が黒板にきれいな女
2017年3月12日 02:16
「ねぇ、ストーカーされたことってある?」- うーん。ないかなぁ。「私はあるの。大学生の頃」- どんな風に?「私が行くところ、どこにでもその人がついてきていたの。たとえば、スーパーに行って振り返ればその人がいたし、部屋を出て道を見渡せば、その人の車があったの。もちろん、たまにはいない時もあったけど」- それ、怖くない?「最初は怖かった。でも、その人は何もしてこないの。何もして
2017年3月4日 20:29
駅を出ると小雨が降っていた。最近、雨が続く。でも今日ばかりは、この小雨が気持ち良い。待ち合わせのカフェに向かう途中、過去の思い出が蘇る。彼と言った旅行、かけてくれた言葉、一緒に作った料理。なぜか別れ際は、良い思い出ばかりを思い出す。もし人間の脳が優れているならば、こんな時は、別れの後押しをしてくれよ、と思う。別れるのに決心が鈍るじゃないか。彼が神経質すぎたところとか、朝が起きれない点とか彼