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眠る前に読む小話

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眠る前に読む一言小話です 読者になっていただけるととてもうれしいです。
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2016年10月の記事一覧

真冬のタクシー

寒さに負けてタクシーに乗る。タクシーは渋滞に捕まり、のろのろと走る。

社内で今日中に作らないといけない資料の構成案を考える。窓の外では木枯らしがふいている。今年の冬は寒い、とは本当なのかもしれない。

考え事をして、気がつけば渋滞が過ぎていて。車は並木通りを走って会社に向かう。ただもう5分はかかるだろう。

そして、ふと気づく。運転手さんが話しかけてこなかったことに。

つい好奇心がでてきて聞い

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ぜんまいじかけの私

この仕事になった時から服装を変えた。強そうな服を着るようになった。ふわっとしたスカートや淡い色のシャツは避けて白のシャツや濃い色のジャケットかタイトスカート、パンツで全身を固めた。クライアントに舐められないように、服装には油断をしなかった。重要な商談がある日はメイクも普段よりは丁寧にする。特にアイラインをしっかり仕上げる。交渉の時は目元が活きると信じているからだ。

昔、先輩が「交渉のここぞという

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ルンバは掃除機ではない。

ルンバの快楽というものを知っているだろうか。

快楽の前に、まず、人類がいかにルンバと共に生きているかを話した方が良いだろう。人はルンバと共に生きてきた。聖書にも「かの地からきた、地をはうもの」として記載されている。

ルンバはまず掃除をするものだと考える人が多い。それは大きな間違いであり。根源的な間違いだ。圧倒的間違いである。

確かにルンバは掃除をする。しかし、それは彼の能力の1つでしかない。

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八百屋での収穫

ミドリが初めてしたバイトというものは、コンビニだった。中学生の頃だ。もちろん法律で禁止されているので公のバイトではない。

親戚の叔父がやっている八百屋にお手伝いという形で潜り込んだのだ。ミドリはレジをした。時に野菜を並べることもあったけれど、基本はレジだった。

ただ、八百屋のレジはコンビニとは異なる大変さがある。ミドリが働いた八百屋の野菜はバーコードが貼られていない。すなわち、値段を全て頭に入

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世界を救う100円

平日の夜21時、渋谷の飲み会の帰り。仕事が残っていたので、タクシーを使う。

場所は渋谷二丁目。車の通りは多いが、タクシーは少ない。何台かタクシーの空車が通るが、気づかないのか、それとも渋谷前でのピックアップは好ましくないのが通り過ぎられる。バス停でわかりにくいのか、と場所を変えて、タクシーに手を振るがタクシーはとまってくれない。工事のせいか、と思ってさらに場所を変えてもタクシーは止まらない。

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祭りのリズムとダンス

祭りのある町に生まれた。そこでは、祭りが日常だった。祭りが終われば「あと364日で祭りだ」と翌年の祭りを楽しみにする。「もう少しで祭りだね」「来年の祭りは参加されるの?」と日常の会話は祭りを中心に交わされ、当日は会社や学校も休みとなる。

祭りには、踊りが欠かせない。そして、リズムが欠かせない。太鼓のリズムは横隔膜さえも揺らし、大地を響かせる。

ねぶたの「ラッセーラ」、阿波踊りの「ヤットサー」、

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夢と渇き

パイロットになりたいと思ったのは、パイロットは空を飛べるからだった。

九州の山奥に生まれた私にとっては、佐賀市でさえも都会で、福岡は大都会。東京にいたっては見たこともない憧れの地だった。

そんな田舎にとっては、飛行機は、全てから逃げることができる羽だった。うまれた町による差別や偏見も、親からの暴力からも、全てから逃げ出してどこか遠いところに行ける乗り物がパイロットだった。

その思いから、紅の

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タバコを吸う女性

以下の記事によると、喫煙者は前年比0.6ポイント減になったそうだ。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG28H8X_Y6A720C1CR8000/

昨今は、タバコを吸える場所も減っており、吸いにくさは高まっている。また税金は高くなるにつね平均所得も経るので、経済的にも喫煙者には向かい風となっている。

しかし、それよりも気になったのは、別の行だ。

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ミュシャ

初めてミュシャの絵を見たのは、人から貰った栞のイラストだったと思う。凛とした女性と美しい曲線で描かれたその絵は、中学生の僕の目には女神のように写った。

それがアール・ヌーヴォーの旗手の作品だなんて当時は知らなかったけれど、普段、目にしている絵とは違うソレは、中学生を呆けさせるに十分だった。凛とした女性、華美な曲線、花などのモチーフ、様々に表現されるミュシャの絵だったが、どちらかといえば、僕にとっ

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口紅のプレゼント

「口紅がいい」

「誕生日に欲しいものある?」と聞いて、返ってきた言葉がソレだった。

口紅で思い出すことがある。大学時代にアメリカに留学していた俺は、家族にお土産を買って帰る必要があった。その時に年上の彼女に言われたのが「このブランドのこの番号の口紅が定番で喜ばれるわよ」というものだった。

それ以来、海外旅行では、その口紅を馬鹿の一つ覚えのように買って帰っていた。26歳の時に彼女に怒られるまで

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不確実な朝

朝、7時30分に1つ目の目覚ましがなる。そして、7時35分に2回目の目覚ましがなる。エイジは、そのタイミングでベッドから出る。その前の夜に何時にベッドに入ろうとも、起きる時間は同じにしている。起きる時間がずれるとなんだか起きれないのだ。もちろん寝る時間も一定にする努力はしているのだけど、人生はそんなにシンプルなものでもない。

そして、起きてから、エイジはキッチンに向かい冷蔵庫の扉をあけエビアンを

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1人で行けない場所

いつの頃からか一人行動をするようになった。高校の頃、周りの友人たちは連れ添ってトイレに行っていた。一緒にトイレにいって何をするのか、と思うけれど、か弱きものたちは群れをなして身を守っていたのかもしれない。

私も最初から1人だったわけではない。買い物に行く時に友人を誘ったり、行きたいお店がある時は何人かで行った。しかし、いつしかそのような人との行動に疲れた。まず気を使う。たとえば一緒に食事に行くと

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薬指が私から離脱を図る

イギリスがEUを離脱するのと同様に、私の左手の薬指も、私から離脱をしようとしている。

どうやら、私はこの薬指を愛用していないから、らしい。薬指によると「他の女性は、指輪をはめて輝いている。なのにお前は、、、」ということらしい。確かに、うまれてこの方、一度も薬指に指輪をはめたことはない。

それに、楽器をしていないことも気に食わないらしい。ギターなどをしていると薬指を活用するシーンは多いのだが、私

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ラニーニャがこない夏

今年はラニーニャ現象が秋にずれこむ可能性がでてきたそうだ。ラニーニャが起こると南半球では気温が下がり、逆に、日本は暑くなる傾向がある。

つまり、そこからわかることは、ラニーニャがこなければ、今年の日本の夏は涼しくなる、ということだ。

ラニーニャ、という言葉は俺にとって、ヒリヒリとした日焼けを思い出させる響きだ。5年前の初夏に、俺は「ラニーニャ」と呼ばれる女と出会った。朝からのサーフィンで疲れた

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