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バレエ鑑賞超入門 実践編(2)

(とりわけ教養主義の男性向けに)

実践編(2) 「全幕モノ」バレエ鑑賞(1)

前回はあなた(「男一匹」な教養層のオッサン)が、どうした風の吹きまわしか、バレエを見てみようかと思い立ったという前提で話を進めてみました。
今回はその続きです。

全幕モノのバレエとは

教養層のオッサンがもしバレエを──ビデオでなく実演で──見に行こうと思い立ったら、まずはきっと有名な演目の公演……例えば「白鳥の湖」とか「くるみ割り人形」とかを見に行きますよね。
もちろんそれで良いのです。何も間違っていません。

実際にはバレエ公演というのはそれだけではないのですが。
……という話はちょっと後回しにして、ここではこの話を続けます。

こうした「作品名」を掲げたバレエ公演を「全幕モノ」なんて呼びます。

全幕モノのストーリーはあらかじめ読んでおくべき

「全幕モノ」のバレエとは要するにお芝居とか、あるいはミュージカルやオペラと同様、一つのストーリーを何幕かに分けて語っていくものです。
その点ではこうした類縁っぽく見える他ジャンルと、そう変わるものではありません。
ただ、そのストーリーをバレエの踊りでつないで演じていくという点が違います。

そして、演劇の技術論みたいな観点からすると、おそらく他のジャンルとバレエの一番の違いはなんと言っても「基本的にセリフがない」という特徴(あるいは制約)にあるでしょう。
そのこともあってか、バレエの全幕モノのストーリーはたいていの場合、そこまで込み入ったストーリーにはなっていません。

……とは言え、本当になんの予備知識もない人がポンと全幕モノのバレエを見に行くと、おそらく舞台で何をやっているかさっぱり飲み込めずポカンとする可能性が高いと思います。
(見ていれば分かりますよというアドバイスをする人もいるかもしれませんが、あまり信用しないほうが良いと思います。とりわけ、その人がよくバレエを見に行くバレエ好きの人であるなら!)

なので、あなたがバレエ初心者であればあるほど、あらかじめプロットを読んでおくべきです。
ネタバレを嫌がる心理もあるかもしれませんが、この際それについてはスッパリあきらめましょう。
そのあらすじも、なるべく細かく書かれているものが良いと思います。

今はスマホでかんたんにあらすじを表示させておけるでしょうから、幕間の休憩ごとに、次の幕の筋を読むなんていうのもいい手だと思います。
(ただし演出によっては、本来別れている1幕と2幕を一気にやってしまう、なんていう場合もあるので、その場合はちょっとパニックになってしまいます^_^;)。

現時点での私のおすすめは下記のサイト
「~どんなお話だったっけ?~ 名作ドラマへの招待 By MIYU」の「ストーリー辞典」

ここの「詳しい物語」の部分をよく読み込んでから鑑賞に臨まれることをオススメします。
(※これで駄目な場合について下に註をつけました。)

ストーリーにあまり関係ない踊りも

ちょっと慣れてくると分かるのですが、古典バレエは本筋とはあまり関係ない踊りがちょくちょく挟まれることが多いです。
例えば「落ち込んでいる主人公を慰めるために友人たちが楽しい踊りを踊る」とかいった類い。
あるいは基本的なストーリーは第2幕までで片付いていて、第3幕は結婚式。来客たちが次々と踊りを披露する……なんていうパターンも。
(結婚式エンドはハッピーエンドを演出しつつ、各種の踊りを無理なく?入れこめるので、バレエ的には便利なようですね。)

そもそも論的に……バレエにおけるストーリーの位置づけ?

これはバレエ通でも何でもない私一個人の感覚なのですが、そもそもバレエ(全幕モノ)のストーリーというのは、それ自体で何かのメッセージを語ろうというものではないような気がします。
(そもそもバレエ史的にストーリーが導入されたのはいつ頃で、それまでは云々……みたいな話はここでは割愛します。)

では、バレエのストーリーというのは何のためにあるのか、というと。
以下はあくまでもバレエ素人の私見ですが。

それは、あるいは観客を飽きさせない仕掛けであり
(ストーリー仕立てになっていた方が、抽象的な踊りが連続するより、観客がついていきやすい)。

あるいは様々な感情(喜びの踊り、悲しみの踊りetc...)や各種のシチュエーション(中国の踊り、闘牛士の踊り、村人の踊り、青い鳥の踊りetc...)を無理なく呼び出すための喚起装置であり。

トータルとして、バレエという踊りのジャンルの持つ、どこか天上的なというか浮世離れした雰囲気を支えるための仕掛けであり。

……といったところではないかなぁと思います。
そう思えば、バレエの筋がおとぎ話から取られがちであることも納得なのではないでしょうか。

(じゃあシェイクスピア原作の「ロミオとジュリエット」はどうなんだ、と言われると、ちょっと困ってしまうのですが^_^;)。

とにかくそんなわけで、バレエにおいて、ストーリーが子供っぽいとか言っても始まらないのかなと思ったりします。

バレエは「踊り」

いきなり話は変わりますが、私はアフリカの人たちの踊りとかを見るのも割と好きだったします。例えばこういうの(笑)。

もちろんバレエはこういう踊りとは全く違います。少なくともパッと見は全く違います。

が、どちらも踊りである以上、やはり似たところも多分あって、それは踊り(踊るような身体表現)というのは、それ自体で我々の心になにか作用し、独特の感興を与えるものだという点です。

バレエにおけるストーリーなんて基本は付け足し。でもそれでいいんです。
大切なのは結局、踊りそれ自体なのです。
……などとまとめたら、怒られてしまうかな。

次回は「全幕モノ」のバレエのもっと細かいところを見ていきます。

補論

バレエは総合芸術だとよく表現されますが、ワーグナーが楽劇で目指したような文学性や思想性は、上に書いたような理由で正直バレエは弱いでしょうね。
なので楽劇に比べるとバレエの「総合芸術度」はちょっと落ちてしまうのかなということを感じたりします。
でも、それでいいと思うのですけどね。
オペラの傑作、例えばトゥーランドットなどがそこまで思想的に深く素晴らしいかといったら、そうでもないように思いますし。

あとまた、「ペレアスとメリザンド」的象徴世界は、ひょっとしたらバレエの得意分野であるかもしれません。
でも、これはもう私に語れる範囲を完全に超えていると思うので、この話はここまでで。

※註

よく知らずに公演に行くと(特に海外旅行中にバレエを見ようなんて思って足を運びますと)、すごく前衛的な演出の舞台だったりして。「あらすじと違う」なんてレベルでなく、何をやっているかさっぱり分からない、なんていうことも時にはあるかもです。
その際は……諦めてとにかく雰囲気を味わうことに全力を注ぎましょう(苦笑)。

補足:本記事のトップ画像はロジェストヴェンスキー指揮の「くるみ割り人形」CDジャケットを使わせていただきました。